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16 今世では、はじめまして!


 タン! と足音が聞こえた。2人が振り向くと、そこにはリュカがいた。


「!」


 ジンは目を見開き驚く。今いる場所は誰も入れないようにジンが教師ですら破れない強靱な結界が張ってあったのだ。


 ――こいつ、いとも簡単に俺の結界を破りやがった!


 そこで結界が破られていないことに気付く。


 ――破られていない? 結界を通り抜けて転移してきたのかよ!


 それは、リュカがジンの結界を解読したということを意味し、ジンよりもリュカのほうが魔力も実力も上だということを示していた。


 ――マジかよ。やってくれるじゃねえか。おもしれえ。


「リュカ・ケイラーか。お前、どうやってここに入った?」

「え……」


 リュカはどう説明しようか困窮する。


「ここは強靱な結界が張ってあったはずだ。この学校にいる教師では外せないほどのものがな」

「……」

「それを壊さず中に入るには魔力はもちろん、特殊な方法を知らなくては出来ないことだ」

「!」


 ジンはすうっと目を細めてリュカを睨む。


「お前、それをどこで覚えた?」


 リュカは顔には出さないが、しまったと焦る。異常な魔力を感知したため、調べるためにいつもの癖で普通に入ったのだ。

 この技術は密偵部隊に所属していた時に取得したものだ。それも誰にも教えることも口外することも禁されている密偵部隊独自の技術だ。だから学生が絶対に知ることができない不可能な技術だった。

 それをジンに指摘されたのだ。


 ――どう説明する。たぶん密偵部隊しか出来ないことも先生にはばれている。だとしたら下手なことは言えない。


 黙っているとジンは大袈裟に嘆息し表情を和らげる。そして後頭部を掻きながら面倒くさそうに言う。


「まあいいや。どうせ言わねえだろうからな。でだ。お前はここに何しに来た?」


 質問が変わりリュカは安堵し、


「……強い魔力を感知したので」


 と正直に応える。


「そうか。じゃあお前も手伝え」

「え?」

「え?」


 ジンの唐突な言葉にリュカはもちろん、アイラもどういうことだと驚き声を上げる。


「今アイラに、2日後の追試のために魔力の出し方を教えているところだ」

「追試?」


 意外だという顔をするリュカにアイラは半笑いする。


 ――そりゃあそういう反応よね。追試をとったのは私が初めてみたいだし。


「だがどうにもうまくコントロールが出来ない。今からそれを教えようと思っていたところだ」

「はあ……」

「そこでだ。ちょうどこいつの魔法を受けるやつがほしいなと思っていたところなんだ。だからお前が受けろ」

「なぜ俺が?」

「言っただろ? ここは誰も入れないように俺は結界を張ってたんだ。それをお前は許可も無く勝手に入って来たんだ。どういう意味か分かるよな?」


 入るなという場所に、勝手に入ったからということだとリュカは理解する。


「それにお前、このこと、他の教師に知られたくないだろ?」


 ジンはにぃっと笑う。もし手伝わなかったら結界を通り抜けたことを他の教師にチクると言外に言っていた。一種の脅迫だ。リュカは目を細めて言う。


「いい性格してますね」

「よく言われる」


 ――確かに他の教師達に知られれば、どこでそれを習得したのかと問い詰められ、あとあと面倒だ。


 リュカは諦め大人しく言うことを聞く。


「わかりました。手伝えばいいんですね」

「おう! やってくれるか!」

「よく言う」


 わざとらしく言うジンにムッとして言い返す。

 そんなリュカを無視し、ジンはアイラへと体を向けた。


「ってことで、リュカが手伝ってくれることになった」

「……はは。半強制じゃない……」


 アイラは半目をし呟く。そんな2人を見てジンは、


「お前ら、なんか文句言いたげな顔だなー」


 と片眉を上げ不満そうに言うのだった。



「じゃあ続きをするぞ。まず自己紹介と行こうか。お前ら初対面だろ?」

「……」


 2人は応えに窮する。初対面ではない。前世でも知っているし、今世でもこの前会ったのだ。


「なんだ? 知り合いか?」

「い、いえ。ただこの前廊下であっただけです」


 アイラが応える。


「そうか。でもまあ自己紹介は大事だ。じゃあリュカから」

「1年A組リュカ・ケイラーです」

「1年E組アイラ・フェアリです。よろしく」


 2人は頭を軽く下げて挨拶する。


「よし。挨拶は終ったな。じゃあまずリュカ、説明するぞ」

「?」

「さっきの魔力はこいつだ」


 そう言ってアイラを指す。


「!」


 リュカは驚き目を見開く。それを見てジンは苦笑する。


「魔力が分かるやつからしたらそういう反応になるわな。こいつは魔術の魔力はほとんどないからな。何故って思うのが普通だ」


 魔力が強い者は、相手が魔力を隠していない限り魔力の量を把握することが出来る。リュカもそうだ。アイラが魔術の魔力はあまり強くないことは分かっていた。


「じゃあどうやって……」

「アイラは精霊魔法が使える」

「先生!」


 アイラは抗議の声を上げる。


「仕方ねえだろ。そうしないと説明が付かないからな。それに大丈夫だ。こいつはたぶんお前のことを言わない」


 ジンはそう言いながらリュカを見て含み笑いをする。これも脅迫だとリュカは判断する。

 アイラといえば、ジンの言うことを素直に信じることは出来なかった。マティスとリュカの関係からしたら、リュカがマティスに言う確率の方が高いのだ。


 ――もしこのことをリュカ・ケイラーがマティスに言ったら、下手すればマティスに精霊魔法士にされるかもしれない。それだけは嫌!


 リュカはどう思っているのかと視線を向ければ、無表情でよく分からない。前から思っていたが、相変わらず無愛想だ。


 ――そういえばこの人の笑った顔見たことないわね。


 すると目が合った。鋭い双眸に一瞬ドキッとする。そんなアイラにリュカが言う。


「隠しているのなら、誰にも言うつもりはない」

「え?」


 意外な言葉が返ってきてアイラは驚く。本当に黙っていてくれるのかと思っていると、


「俺が誰かに言うみたいな顔をしているな」


 と指摘された。


「ま、まあ……あなたは皇族の人と親しいから……」


 あえてマティスの名前は伏せる。すると今度はリュカがアイラに質問してきた。


「なぜ精霊魔法が使えるのに精霊魔法を隠す?」

「単刀直入な質問ね……」


 だが、誰もがそう思うのは当たり前のことだ。


「それは精霊魔法士になりたくないからよ」

「なりたくないならば、ならなくていいことだ。だがなぜ精霊魔法が使えることまで隠す?」


 リュカの鋭い双眸が獲物を捕らえた猛獣のようにアイラを射貫く。すべてを見透かしているかのように感じてしまう。


「理由なんて同じよ。どうしても精霊魔法士になりたくないからよ」

「それはなぜだ?」


 ――やたらと食いついてくるわね。


「そんなの精霊魔法士の仕事が過酷だからよ。国のためにどれだけ身を挺して働いても、目に見えて成果が現れるものじゃない。それに精霊魔法士になる者は限られているため、数少ない人数で回さなくてはならない。ほんと給料が良くても身が持たないわ。それなのに魔術師や騎士団達からは、楽して給料をもらっているとか祈っていればいいだけでいいよなとか、罵倒や嫌みを言われるのよ。そんなのやってられないわよ」


 ついヒートアップしてアイラは文句を並べる。


「よく知っているな」


 リュカの言葉でアイラはつい精霊魔法士時代の不満を普通に口にしていたことにハッとする。


「あ、こ、これは……」


 焦りから頭が真っ白になり言葉が出ない。あたふたしていると、


「知り合いに精霊魔法士がいるらしくてな。そいつから聞いたみたいだぞ」


 と、ジンが助け船を出してくれた。そして今度はジンがリュカに質問する。


「そういうお前はどうなんだ? お前の実力からしたらランカル学園に行けただろうに。あえてこっちの学校を選んだ理由はなんだ?」
















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