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14 教師にばれる①



「じゃあアイラ、そこから俺に向かって魔法を全力で放て」

「え? でもそれだと……」

「なんだ? お前が放った魔法で俺がやられると思ったか?」

「いえ、そこまでは……」


 相手は教師だ。やられることはないとしても、もしかしたら怪我をさせてしまうかもしれないと思っただけだ。


「なんだ、怪我でもさせてしまうかもと思ったか?」

「はい」


 正直に応えるとジンは笑う。


「あはは。お前ごときの魔力で俺がやられるわけねえだろ」


 確かにそうだとアイラは自分で言った言葉を恥じた。


「わかったらまず火の魔法をお前が出せる魔力を全力で出してみろ」

「はい」


 アイラは杖を取り出すと構えジンへと向ける。

 魔術は初心者は基本杖を使う。魔法が出しやすくなるからだ。学生の低学年はほとんどが杖を使う。杖を使いながら魔力を出し方を学ぶのだ。


「行きます!」


 杖の前に魔法陣が現れ、火の魔法がジンへと放たれた。だがジンはそれを素手で上へと弾き飛ばす。そしてキッと睨み叫んだ。


「ばかか!」


 その声の大きさと剣幕にアイラは一瞬ビクっと肩を窄める。


「俺は思いっきりやれと言ったぞ! なに手加減してるんだ!」

「いや、もしかして先生に怪我させちゃうかと思って……」

「お前の攻撃で俺が怪我するわけねえだろ!」

「そうなんですけど……」


 アイラは下を向きながら呟く。そんなアイラを見てジンは嘆息し「ったく」と言って頭を掻く。


「お前は今習っている魔術を誰に向かって放つものか分かっているか? 友達や仲間にじゃない。敵に向かって放つもんだ。お前は敵に向かって手加減するのか?」

「……」


 頭では分かっているが、今の相手はジンだ。敵ではないのだ。


「まあお前の性格では無理だろうな」

「え?」


 どういう意味だとアイラは顔を上げジンを見る。


「お前は人を殺めるより人を助ける方が性に合ってるからだ」


 言われてアイラはハッとする。精霊魔法士だった前世では、人を助けることはあっても人を殺めることは1度もなかったのだ。

 しかしなぜジンがそんなことを言ったのか? そう思っているとジンが言う。

 

「お前はもともと精霊魔法の方だろ?」

「!」


 アイラは意図しないことを言われ驚き目を見開く。その反応にジンは「やはりそうか」と小さく嘆息する。


「たぶんお前は小さい頃から親から精霊魔法だけを習ってきたのだろう。だから魔術のことはまったく教わらなかった。違うか?」


 その通りだ。だから魔術の基本すら知らない。ただ前世で魔術師達の仕事を間近で見てきたからなんとなく分かっただけだ。

 ここまで的確に言われたらもう隠すことはできないとアイラは諦め、小さく頷く。


「……はい、そうです……」

「なぜ精霊魔法士を目指さない?」

「――」


 アイラは下を向き、どう応えればジンを納得させられるのかと考える。だがいい答えが見つからない。どうしたらと焦っていると、


「別に攻めるつもりはない」


 とジンが言う。


「精霊魔法が使えるからと言って、すべての者がなりたいわけじゃないからな」


 アイラは目を見開きジンを見ると、ふっと笑い返してきた。


「どうせ精霊魔法士になりたくないってだけだろ?」

「……はい、その通りです」


 アイラは正直に応える。


「なら余計に魔術で良い成績を残さないとな」


 アイラはジンに訊ねる。


「先生は怒らないのですか?」


 精霊魔法を使える者は少なく、もし精霊魔法が使えるのなら精霊魔法士になるのが当たり前だと言う者がほとんどだ。前の人生の時も、


「精霊魔法士は貴重な存在なのだ。人数も少ない。ならば国のために働くのが当たり前なのだ。わかったか」


 と、精霊魔法士の教師から口癖のように何度も言われ続けた。だから教師は全員そのような考えだと思っていた。

 だがジンはそうではなく、やりたくなければやらなくても良いと言う。


「なぜ怒る? お前の人生に俺が口出しすることはない。お前がやりたいようにやればいい。それの手伝いをするのが教師の役目だと俺は思っている」

「先生……」


 前の人生で精霊魔法士になったのは、なりたくてなったわけじゃなかった。そう決められていたから精霊魔法士になっただけだ。そして最後は不本意に殺された。だから今回、好きなように生きていいのだと言われ、アイラは目頭が熱くなる。


「やりたいようにやっていいと言ったが、学生の最低限の義務だけは守ってもらわないといけない。そして補習で合格してもらわないと俺の立場もない」


 結局最後は自分の立場的な問題かとアイラはクスッと笑う。


「じゃあもう1回、今度は俺に思いっきりお前の全力の魔力をぶつけろ」

「はい」


 アイラは今度は思いっきり魔力を杖へと込める。魔法陣が現れさっきよりも倍ほどの大きさの火の魔法が放たれた。だがジンはそれをまた素手で簡単に空へと弾いた。


「あっ!」


 アイラは空に弾かれた自分の火の魔法を見て声を上げ呆然とする。全力の魔力を注ぎ混んで放った魔法がまさか素手でいとも簡単に弾かれると思わなかった。


「さっきよりはよかったが、見た目だけが大きく中身が空っぽで弱すぎて意味がねえ。これじゃあ合格はもらえないな」


 アイラは愕然とする。ライアン達に教えてもらい自分では大分出来るようになり、これなら絶対に追試は合格がもらえると思っていた。確かにカミールがちょっと不安そうにしていたのが気になっていたが。


 ――どうしよう。もう追試まで2日しかないのに……。これじゃあ合格出来ない。


 不安でいっぱいになっていると、


「そう気を落とすな。ただお前は精霊魔法が主だから少しやり方が違うだけだ」

「? やり方? ですか?」

「まず説明するぞ」


 そう言うとジンは両手の掌を上に向けて前に出す。すると両手の掌に右には青の球体が、そして左には緑の球体が現れる。


「このように、この世には魔術の魔法と精霊魔法の2つの魔法が存在する。この2つは世間ではまったく別物だと言われているが、基本は一緒だ」

「一緒ですか?」

「ああ。ただ体内から繰り出される回路が違うのと性質が違うだけだ。それを把握していればお前は精霊魔法の魔力を魔術の魔力に変換し繰り出すことが出来るはずだ。このように」


 そう言ってジンは両手を近づける。すると左手の緑の球体が右の青の球体に吸い込まれていき青色の球体が倍の大きさになった。


「そんなことが可能なんですか?」


 今までそんなことを考えたことがなかった。前の人生でもそのようなことを聞いたことも見たことがない。


「可能だから今教えているんじゃねえか」

「いや、聞いたことがないから可能なのか聞いているんじゃないですか」


 アイラも負けずと言い返す。


「お前、相変わらず言い返すよな? お前と話していると、生徒というより教師と話している感覚になるんだよなー。本当に学生か?」


 言われてドキっとする。歳は16才だが、中身――精神年齢は25才だ。ジンと変わらない年齢なのだ。知識も経験もそれなりにある。前世で精霊魔法士長として働いていたこともあり度胸もある。そりゃあ生徒には見えないだろう。


 ――今度から言葉も気をつけないと。


「どう見ても学生でしょ」

「そうなんだよなー。ただお前の精神年齢が大人というだけか」

「そうですよ。私大人っぽいんです」

「それはないな」

「は?」

「その反応がガキだって言っているんだよ。お前、嘘がつけないタイプだろ」


 初めて言われたことに目を丸くする。


「そうですか?」

「ああ。顔にも結構出てるぞ」

「え?」


 自分では顔に出していないつもりでいた。確かにライアンとカミールにも言われた。だが前世の精霊魔法士の時も言われたことがなかったため寝耳に水だと驚く。


「自覚なかったか。まあそこがお前の良いところなんだろうけどな」

「どこがですか」


 ムッとして言うとジンはゲラゲラ笑う。


「そういうとこだよ。だからあいつらもお前を気に入ったんだろうな」


 あいつらとはライアンとカミールだろう。だが気に入られたとはどういうことだと眉を潜めて考えるが思いあたるところがない。


「あまり考えるな。まずテストのことを考えろ」

「あ! そうだった」


 そんなアイラにジンはふっと笑うと、アイラの前に来ると額に手を当てる。


「?」


 今からお前にある映像を見せる。


「え?」


 どういうことだと思っていると、


「俺は精神に干渉できるんだよ」

「!」


 魔術師の中に稀に精神を操ることが出来る者がいると聞いた。その者は他人の精神に干渉できるため、あらゆる分野から重要視された。だが敵になれば驚異になる。そのため必ず味方につけたいと考えている者達だった。


 ――だからグリフィス魔術師団長はジン先生を王宮に留めておきたかったんだわ。


「すぐ終わる」


 直後、額から魔力が流れ込んできた。するとなぜかやり方がアイラに記憶された。


「すごい。やり方が入って来た」


 驚きジンを見れば、何故か驚いた顔をしている。どうしたのか思っていると、ジンは衝撃な言葉をアイラに言い放った。


「お前……『黄泉よみがえりしゃ』か?」







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