140 赤竜の竜柱⑥ 納得させるには
どれほどそうしていただろうか。シガスが目を開けた。そして、
「悪いが、『国守玉の脚』のあんた達の願いでもそれは聞けない」
とはっきりと言った。
ジン達はやはりと嘆息する。
――予想通りの反応だな。そりゃあ俺でもそう応える。
ジンはそう思うが、「はい、そうですか」と引き下がることは出来ない。だからと言ってシガスをどうにか納得させることも持ち合わせていないのが現状だ。
――さあどうするか。
途方に暮れていると、アイラが聞いた。
「シガスさん、なぜ駄目なんですか?」
「嬢ちゃんは竜柱の意味は知っているのか?」
「はい。知っています」
「ならば分かるだろう。竜柱が無くなればこの国がどうなるのか?」
「竜柱で封印していた巨大な魔穴が開き、魔物の大群がやって来ると?」
「ああそうだ。そうなればこの国も世界も終わりだ」
シガスの言うことは正しいとジンは思う。現にジン達『国守玉の脚』全員がそう思っていたのだ。
「でも国守玉が竜柱を解放しろと言っているんですよ? あなたは『国守玉の盾』なんですよね? ならば国守玉の言うことは聞くのが当たり前なんじゃないんですか?」
「そりゃそうだが、お前達の言うことが本当に国守玉の願いなのか、四竜の意思なのかどう証明する?」
確かにシガスの言うことは的を得ている。ジンもリュカも、もし自分がシガスの立場ならそう思うだろう。だから余計にシガスを納得させる手立てが見つからないのだ。
そんな2人をよそに、アイラが眉根を寄せ訊ねる。
「まだジン先生が『国守玉の脚』だと信じてないんですか?」
さっきジンが『国守玉の脚』だと確認したはずだ。ならば疑うのはおかしいのではないのかとアイラは思う。そんなアイラの言いたいことに気付いてか、ジンは詳しく理由を言った。
「この兄ちゃんが『国守玉の脚』だということは分かっている。だからと言って国守玉の意思だということが正しいかはまた別の話だ。『国守玉の脚』の者でも嘘はつける」
シガスの言葉にリュカも同意見だと目を細める。
――シガスの言う通りだ。『国守玉の脚』の者は人間だ。嘘もつく。絶対的な証拠を突きつけなければ、シガスを納得させれないだろう。さあジン先生はどうする?
ジンを見れば、眉根を寄せ口をへの字にしている。その表情から良い手札はなさそうだと気付く。
――先生でもお手上げか。
そこでまた長い静寂が訪れる。その中ジンは頭をフル回転させ考えるが、良い案が見つからない。
――はー、どうするか。俺がどう言ってもシガスは信用しないだろうなー。
シガスを納得させることが出来るとは到底思えず、ジンはお手上げだと顔を天井に向ける。
そんなジンをアイラはただ見守ることしか出来ず嘆息する。わかりきっていることだが、やはり力になれないのが歯痒く感じてしまう。
――シュリが出てきてくれれば……。
だが、どうやってシュリとコンタクトを取るのかすら分からない以上、それは不可能なことだ。
するとシガスが口を開いた。
「この話はやはりなしだ。どうみても分が悪い。だがあんたが嘘をついているとは思っていない」
「ああ」
ジンもそれはわかっている。
「そして『国守玉の脚』の者が言うことがすべて正しいとも思っていない」
「だろうな。それを裏付ける証拠はないからな」
国守玉の願いは言葉やイメージなどの目に見えない形で示される。言われたジン達『国守玉の脚』でさえも、半信半疑のところがないとは言えないのだ。それを他人に信じろと言うのは難しい話だ。
「悪いがこの話はなかったことにしてくれ」
シガスは立ち上がると、出口の扉を指差す。
「お帰りいただこうか」
もう諦めるしかないのかと思った時だ。アイラが声を上げた。
「じゃあシガスさんが納得する証拠を見せればいいんですね?」
「アイラ?」
何を言い出すのかとジンとリュカはアイラを見る。真剣な表情を見せるアイラにシガスは、
「まあそうだな。だが嬢ちゃん、何が出来る?」
学生のアイラには納得させるほどの材料はないだろうとシガスは鼻で笑いながら言う。
――確かに普通ならそう見えるわよね。でも私には強烈な手札がある。
アイラは笑顔を見せるとシガスに言う。
「説得させますので、私の後ろを見てください」
「後ろ?」
「ええ。あなたは精霊魔法士でもありますよね?」
「!」
それにはジンもリュカも驚き目を瞠る。シガスも驚きアイラを見る。
「なぜそれを…… 」
「私も精霊魔法が使えます」
「!」
それは後ろの精獣を見ろと言うことなのかとシガスはアイラの後ろを見る。だが精獣はいない。いないじゃないかと言いかけたその時、その場の空気が瞬時に変わった。それにはリュカとジンも気づく。
――空間が変わった!
部屋や置いてある家具、そして窓から見える景色など何も変わっていない。だが部屋の隅にいたシガスの妻と子供の姿は無くなり4人だけの空間になった。
「なんだ?」
シガスは異様な事態に周りを見渡し警戒の顔を見せる。するとアイラ達の目の前に国守玉の伝い手シュリが目を瞑り、薄い透き通った姿で現れた。見た目は10歳ほどの少年だが、全身から放たれる波動やオーラと言ったすべてのものがまったく違うことにジンとリュカ、シガスは気付く。
そしてその存在が何なのか、初めて見るのに本能は分かっていた。
――国守玉!
するとシュリがゆっくり目を開ける。その目は虹色に光っていた。
そして言う。
『我は国守玉の伝い手。国守玉の盾の者よ。国守玉の脚の者の言うことは事実である。この者達に井戸の道を教えよ』
「!」
シガスは驚き目を見開く。竜柱への扉への道に続く扉はシュリが言うように家の裏にある井戸にある。だがそのことを知っているのはシガスだけだ。妻達ですら知らない事実だ。それをシュリは言った。それは国守玉しか知り得ないこと。
――本当と言うことか。
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