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139 赤竜の竜柱⑤ 理由



「でだ」


 シガスから笑顔が消え、真剣な顔をし、


「『国守玉の脚』が何しにここに来たか聞かせてもらおうか。内容によっては『国守玉の脚』の者であっても通すことは出来ない」


 と切り出した。

 やはりそうきたかとジンは小さく息を吐く。

 ジンが知っているだけでもこの地に『国守玉の脚』が来たことがない。ならば余計にそう思うのは当たり前だ。


 ――さあ、どう話す。正直に四竜の意識体が復活し、体に戻し、竜柱としての役目を終わらせると説明して良いものかどうか……。


 グレイが誰も知らなかった魔晶箱の在処を誰から聞いたのか分からない状況で、今知り合ったばかりのシガスを信用していいものなのかとジンは迷う。


 ――もしグレイ・ホルスマン伯爵と繋がっていたら? だがシガスは『国守玉の盾』だ。国守玉の不利になることは国守玉が許さないはずだ。


 頭で納得していてもどうしても踏み出せない。


 ――どうする? もしホルスマン伯爵とグルだったら取り返しが付かないことになってしまう。だからといってシガスを納得させるだけの理由が思い浮かばねえ。上辺だけの嘘を言ってもシガスにはばれて反対に信用を失ってしまうのが関の山だ。


 ジンは苦渋の顔で黙ったまま目を瞑る。その葛藤が分かるリュカも同じく良い答えが見つからない。

 あまり状況が分かっていないアイラだけが3人の顔を交互に見る。どう見てもこの状況は良くないことだけは分かるが、下手に口だしをすることも許されないことも分かっている。どうしたものかと成り行きを伺っていると、赤竜がアイラにだけ聞こえる声で言う。


『ジンはどう答えて良いか困っておるのか?』


 そこでジンの心は読めないのだと気付き心の中で応える。


 ――そうだと思う。


『我等のこともそうだが、赤竜われの竜柱としての役目を終わらせることを、この者に伝えていいものかとを迷っているというとこか』


 アイラはその通りだと頷く。すると、赤竜はあっけらかんと言った。


『我等は別にばれてもかまわない』

「え?」


 つい声を出してしまい慌てる。だがリュカとジンはそれに気付かないのか、はたまた気にしていないのか、何かリアクションを起こすことはなかった。ただシガスだけが「どうした?」と言いたげな顔を向けただけだ。アイラは、何でもないと首を横に振り応える。するとシガスはまたジンへと視線を向けた。アイラは安堵のため息をつくと赤竜の声が聞こえて来た。


『だが竜柱を破壊するのはシガスは良いと思わないだろうな。『国守玉の盾』は竜柱を守るためにいる者達だ。それを破壊しようとしているのだ。そう簡単に納得はしないだろう』


 その通りだとアイラも頷く。


 ――どう答えたら良いんだろうね。


 すると赤竜は予想外のことを言ってきた。


『アイラが助けてやればいい』


 ――え? 私が?


『うむ。お主ならあの男を説得出来るんじゃないのか?』

「でもどうやって……。全く見当がつかないわ」


 なぜ赤竜がそう言うのか? 自分はこの状況を乗り越える手持ちを持っていないのだ。すると心を読んだ赤竜が言う。


『手持ちがないと思っておるのか? お主の前世の記憶のシガスとの会話をもう一度思い出してみろ』

「前世での会話……」


 ――それって何か私が忘れていることがあるってことかしら?


 アイラはシガスとの前世での会話を思い出す。


 シガスは致命傷の傷を負いながら魔術師団に『国守玉の盾』としてお願いをしに来た。それをアイラが延命処置をしただけだ。会話という会話はしていない。じゃあなぜ赤竜は会話を思い出せと言ったのか?


 ――何か見落としがあるのかしら?


 そこで副団長へと行く間際にシガスがアイラに振り向き何か呟いたことを思い出す。


 ――何か言ってたわよね? なんて言ってたかしら?


 シガスは振り向きアイラの後ろを見て


「お嬢ちゃん、すげえな」


 と言ったのだ。


 ――あの時、私の後ろを見ていたわよね?


 何を見ていたのか? 

 だが今回が初めてではない。前世でイライザもアイラの後ろを見たことがある。その後言われたのが――。


「!」


 そこで気付いた。シガスが見ていたものは……。


 すると赤竜が笑いながら言う。


『気付いたか?』


 ――ええ。守護精霊の精獣のことね。


 精霊魔法士長ほどの者になると、守護精霊の精獣が付く。イライザにもテルマという精獣ともう一匹付いていた。アイラも前世では付いていた。気配は分かるが姿はどんなのかは自分では分からなかったが。


 ――前世ではいたのは知っていたけど、今世ではまだ気配すら感じない。ということはまだ精獣はいない?


 だが精霊魔法のレベルは前世と変わらない。反対に強いと思っている。なのに精獣がいないというのはどういうことなのか?


 するとシガスが、ずっと目を瞑り黙って応えないジンに痺れを切らした。


「黙っているということは言えないのか?」


 ジンは目を開け、眉をハの字にし苦笑しながら今の心境を説明する。


「強ち間違ってないな。場合によっては、言えることと言えないことがあるもんでね。正直、言えることだけで納得させる自信がねえというのが本音だ」


 それを横で聞いていたリュカも異論はない。


 ――確かに納得させるほどの情報がない。何を言ってもシガスの反対は免れないだろう。


「その感じだと、俺は反対する内容だということか?」


 ジンはもう一度大きく嘆息すると、意を決し言う。


「ああ、そうだ。竜柱を解放する」

「!」


 案の定シガスは目を大きく見開き、前のめりになり声を荒げた。


「どういうことだ? 竜柱を解放だと?」


 やはりそういう反応だよなとジンは思いながら言葉を続ける。


「そうだ。そのために来た」


 今まで穏やかだったシガスの目つきが鋭さが増す。


「おまえ、何を言っているのか分かっているのか? 冗談だよな?」

「いいや。至極本気だ」


 真剣な顔で応えるジンに冗談ではないと気付いたシガスは、背もたれに背を預け腕組みをし、気持ちを落ち着かせるために一度大きく深呼吸をする。そして静かに言う。


「悪いが、認めることはできねえ」

「だろうな。俺ですら今でもそれが正しいのか分からない」

「はあ? そんな中途半端な気持ちでここに来たのか?」


 有るまじき行為だと言いたげな眉根を寄せ、怪訝な顔を向けるシガスにジンは言う。


「ああそうだ。これは四竜の願いだからだ。そしてそれは国守玉の意思でもある。俺の意思は関係ない」


 それが『国守玉の脚』の役目と言外に言う。それを分かっているから、シガスはそれ以上ジンには言わず瞑想するように目を瞑った。長い静寂が流れる。その間、アイラ達はただ黙って見守るしかなかった。

 どれほどそうしていただろうか。シガスが目を開けた。そして、


「悪いが、『国守玉の脚』のあんた達の願いでもそれは聞けない」


 とはっきりと言った。










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