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138 赤竜の竜柱④ 国守玉の盾


 アイラはリュカの前へと歩み出る。


「おい!」


 リュカが驚き肩に手を置き制するが、


「大丈夫」


 と声をかけ、シガスへと顔を向けて言う。


「あなたは『国守玉こくしゅぎょくたて』ですか?」

「!」


 案の定シガスは驚き目を見開いた。その反応にジンも驚き見る。


「『国守玉の盾』だって?」


 だがシガスはすぐに表情を元に戻し首を捻り、「なんだ、それは?」と知らない振りをした。やはり言わないかとアイラが思っていると、ジンが右手を挙げ手の平をシガスへと向けた。


「先生?」


 リュカは反射的に声を上げる。攻撃をするのかと思ったからだ。するとジンの全身が金色の光に包まれた。国守玉の力だとリュカはすぐに理解し動向を見守る。金色の光は、ゆっくりとシガスへと伸びていき全身を包んだ。シガスはなぜか動かず、ただ驚いた顔をしジンを見つめているだけだ。そこでリュカはジンがシガスの動きを制御していることに気付く。するとシガスがジンへと問う。


「あんた、『国守玉のあし』か?」


 ジンは、


「ああ。あんたも『国守玉の盾』というのは本当みたいだな」


 と応え、シガスの拘束を解いた。


「悪いな。本当に『国守玉の盾』なのか確認するために調べさせてもらった」


 ジンが頭を下げ謝るとシガスは首を横に振る。


「気にするな。確認するにはそれしか方法がないからな」


 シガスも分かっているようで笑顔で応えた。


「先生、どういうこと?」


 アイラは意味が分からずジンへと訊ねる。


「『国守玉の脚』や『国守玉の盾』などの国守玉のために働く者達は見た目では分からねえ。だから国守玉の力を使って今のように調べるんだ。違えは国守玉の力を浴びると苦しみだすってやつだ」


 さきほどのジンがしたことはそういうことだったのかとアイラとリュカは納得する。

 するとシガスが頭を下げた。


「改めて挨拶させてもらう。俺は竜柱を守る『国守玉の盾』のシガスだ」


 ジンも頭を下げて改めて挨拶をする。


「俺は『国守玉の脚』の五守家のジン・ベレスだ。ジンと呼んでくれていい。で、こいつらは弟子のリュカとアイラだ」

「弟子?」

「弟子?」


 リュカとアイラがすぐさま突っ込みを入れるがジンは無視する。


「『国守玉の脚』が来たとなると、ただ事ではなさそうだな」

「まあ……なあ……」

「? ここではなんだ、うちに来てくれ」


 シガスの提案にジンは首を横に振る。


「いや、いい」

「そう言うな。どうせ扉は開かん」

「どういうことだ?」


 怪訝な顔を向けるジンにシガスは口角を上げる。


「その言い方だと、やはり竜柱の元に行きたいようだな」

「ああ」

「なら余計うちに来ることだ。入口はうちにある」

「!」


 リュカ達はシガスの後をついて来た道の反対方向の山道を下る。それも道もなく、草むらの中や急斜面をだ。案の定アイラはうまく下りれない。落ち葉ですべり尻餅をついたり、転けたりしまくり、挙げ句の果てには足首を捻ってしまった。見かねたシガスがアイラをおぶりながら下ることになった。


「すみません……」

「気にするな。普通の男性でもきつい場所だ。お嬢ちゃんには無理だったんだ。最初からこうすればよかったな。すまなかったな。気がまわらなかった」


 シガスはそう言いながら後ろのジンとリュカを見る。


「しかし、あの2人は慣れてるな。無駄がない」


 アイラも後ろを振り返る。確かに2人は難なく付いてきている。ジンは分かる。元は魔獣師団にいたのだから。だがリュカはまだ学生だ。それなのに前世の時の魔術師団団長をしていた時と見た目は違うが、戦う姿勢や行動は前世とあまり変わりがないように見える。それに話していると、妙に落ち着いているのも前世と同じだ。だからリュカも自分と同じく時を戻したのではないのかと錯覚を起こしてしまう。


 だがそこですぐに否定する。そんなことがあるはずがないのだ。


 ――リュカが時を戻す理由がないじゃない。


 と思った瞬間、前世で国が滅びの道を進んだことを思い出す。


 ――まさかねー。


 だとしてもやはり大きなリスクを背負ってまでリュカが時を戻す理由がない。

 そう思ってリュカを見ていると目が合った。


「どうした?」


 すぐさま声をかけるリュカにアイラは、


「なんでもないです」


 と首を振り前を向く。


 ――有り得ないことは考えないでおこう。


「もうすぐだ」


 シガスの声でアイラは正面へと視線を向ける。すると小さな村が見えてきた。



 村の門をくぐりアイラ達はシガスの家へと案内された。それほど大きくないアイラには見慣れた大きさの家だった。

 するとシガスの妻がお茶とお菓子を出してくれた。その妻の背中には赤ん坊と、足下にはまだ2歳ぐらいの男の子がしがみつきながら見たことがない客をガン見していた。


 ――奥さんとお子さんがいたんだ。


 前世でアイラがシガスと会ったのは今から5年後のことだ。


 ――前世ではシガスさんは奥さんと子供達に会えたのだろうか。


 前世のシガスは亡くなったはずだ。あの傷は致命傷だったのだ。


 ――まだ小さかった子ども達を残して亡くなるのは、どれだけ辛かったのかしら。


 そんなことを考えていると、家族の自己紹介が終わったシガスが本題に入った。


「でだ。さっきも言ったが、竜柱の入口はこの家にある。驚きだろ?」


 片方の口角を上げながら誇らしげにシガスは言う。


「でもなぜ?」


 ジンの質問にシガスは、「あんな辺鄙な場所に侵入者が来る度に行けねえからだ」と至極真っ当な理由を述べた。それにはジンとリュカは調子抜けする。


「え? それが理由?……」

「ああ。他に何があるんだ?」


 反対にシガスは首を傾げる。


「確かにそうだが……」


 先日行った黄竜の竜柱の場所への異空間の道のりを経験してしまったからか、このギャップについて行けない2人だった。


「お前達も今ので分かっただろ? ここからあの場所は遠いんだよ。ましてや山登りだ。あの場所に行くだけで疲れちまうからな」

「あはは……ごもっともな意見で……」


 ジンとリュカは苦笑するしかない。するとアイラが気まずそうに手をすうっとあげた。


「どうした? アイラ」

「すみません、質問ですが、『国守玉の盾』ってどういうものなんですか?」


 前世でシガスから名前だけ聞いたが、それ以上のことは分からなかったのだ。

 するとシガスは、


「嬢ちゃんは知らねえか。まあそうだろうな。『国守玉の脚』は知っているやつは多いが、『国守玉の盾』はほとんどの者が知らないからな」


 と応え説明をし始めた。


 『国守玉の脚』は、名前の通り国守玉の願いを変わりに動き叶える者達のことだ。そして『国守玉の盾』も名前の通り国守玉の代わりにその場所を守る役目をする者達のことを言う。だが『国守玉の脚』と『国守玉の盾』では大きな違いがある。それは『国守玉の脚』は国守玉が自ら選び力を与えた者達であるのに対し、『国守玉の盾』は『国守玉の脚』が選んだ者達であるという点だ。それは『国守玉の脚』では手が回らない場所の補佐をするという意味で作られたからだ。

 そしてその場所が竜柱専属だということ。


「じゃあ竜柱4つに『国守玉の盾』の方がいると言うことですか?」


 説明を聞いてアイラは訊ねる。


「いや、いるのはここと南西の竜柱だ」


 竜柱のある場所は、北西、北東、南西、南東の位置にある。


「確かに北西の竜柱の場所にはいなかったな」


 ジンとリュカで黄竜の竜柱の場所に行った時を思い出す。


「北の竜柱には『国守玉の盾』はいないはずだ。北の竜柱がある場所は行くにはそう苦労はしないからな」


 確かに黄竜の竜柱の入口までの場所は、ここほど辺鄙な場所ではなかった。


「だが昔は北の竜柱にも『国守玉の盾』はいたという話だ」

「そうなのか?」


 ジンは初めて聞く。


「ああ。北には『国守玉の脚』の住居が多い。だから『国守玉の脚』の者のみで足りたため、自然と無くなったという話だ」

「あっちには長ベニートのボナール家の家やエルトンのカシュー家の家があるからな」


 そしてジンのベレス家とホルガーのアチソン家は首都の中心部、南にアルバンのブリース家の家があった。


「でだ」


 シガスから笑顔が消え、真剣な顔をし、


「『国守玉の脚』が何しにここに来たか聞かせてもらおうか。内容によっては『国守玉の脚』の者であっても通すことは出来ない」


 と切り出した。









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