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137 赤竜の竜柱③



【前世】


 イライザが亡くなり、アイラが精霊魔法士長になってすぐの時だ。シガスが王宮を訪ねてきた。冬だったため獣の皮のコートを着た背が高くガタイが大きいことから、クマが来たのかと最初思ったほどだ。だがもっと驚いたのが脇に大きな傷があり、血が足をつたい地面まで流れ出ていたことだった。

 するとシガスがその場に膝をつき崩れ落ちた。


「!」


 アイラはすぐにシガスへ走り寄り、治療魔法を施す。


「大丈夫ですか!」

「魔術師団団長はいるか……」


 だがこの時、ユーゴもリュカも遠征に出ていて1週間は帰ってこない予定だった。


「あなたは?」

「俺はシガス……。最南端に位置する村トーカスから来た」

「どのようなご用件で?」

「悪いがそれは言えん……。」

「今団長は遠征に出ていていません」

「なら副団長は?」


 その時ブレッドもユーゴと出ていて、マシューしかいなかった。


「いますが、ご用件をお伺いしなければ繋ぐことはできません」


 アイラはシガスの脇の治療を継続しながら応える。


 ――傷口が酷い。それにこれは人間の仕業ではない。


 シガスの傷は魔の物、それも魔獣ではない者と戦った時に出来る傷特有のものだった。


「この傷はどうされたのですか? 魔物と戦ったのですか?」

「そのことでここに来た。だから副団長を呼んでくれ」


 もしそうだとしたら放っておく問題ではない。魔獣や魔物は王宮魔術師団の管轄だ。ましてや一般人のシガスが怪我をしてまで王宮に来たとなると緊急を要することに違いないのだ。だが今いるのがマシューだけだ。あまりいい噂を聞かない、相手を身分や見た目で態度を変えるろくでもない人物だ。アイラ自身もよく蔑まされた経験があった。そんな者にシガスの対応をさせていいのかとアイラは悩む。


「どうなんだ。急いでいる……」


 立ち上がろうとするシガスをアイラはどうにか両手で肩を押さえ制する。


「動いてはいけません」


 ガタイがいいシガスがアイラの力でも制することが出来たのを見ると、力が入らないのだろう。脇の傷はかなり酷い。動けているのが奇跡なのだ。


「わかりました。今連絡をします。だから動かないでください」


 アイラはシガスを制すると、近くにいた部下の精霊魔法士の者にマシューに連絡をするように伝える。


「シガスさん、脇の傷は相当酷いです。もう一度聞きます。この傷はどうされたのですか?」


 アイラはシガスの傷に治癒魔法を施しながら訊ねる。だがシガスは、


「分かっている。だがそれよりも緊急事態なのだ」


 とだけ応え、それ以上は言おうとはしなかった。だがアイラは訊ねる。


「あなたの街か村が襲われているのですか?」

「いや……。そういうのではない」


 ――やはり詳しいことを話さない。何か言えない事情があるのかしら?


 すると、魔術師団の者がアイラの部下と共にやってきた。そこにマシューの姿がないことにアイラは眉根を寄せる。


「メレス副団長?」


 魔術師団の者に訊くと、


「今手が離せないので、少し待ってもらうよう伝えに来ました」


 と応えた。相変わらずだと思っていると、シガスが声を上げる。


「今は一刻も早く話をしなければならない! くっ!」


 大声を出したため、シガスは傷口の痛みで顔を歪ませ体を丸める。


「駄目ですシガスさん! 止血をしただけで傷口は完璧には塞がっていないのです!」


 アイラはシガスに声をかけ脇にまた治癒魔法をかける。


「治療してくれるのは有り難いが、今はまず魔術師団の副団長に会わねばならない」


 シガスはそうアイラに言うと、魔術師団員へと視線を向ける。


「副団長に言ってくれ。『国守玉の盾』が来たと。そう言えば分かる」


 すると魔術師団員は頷き、来た道を戻って言った。


 ――『国守玉の盾』?


 アイラは初めて聞く言葉に首を傾げる。


 ――『国守玉』とつくということは、『国守玉の脚』みたいな人達のことかしら?


 『国守玉の脚』でさえ詳しくは教えてもらえないため、『国守玉の盾』のこともシガスに訊ねても教えてもらえないだろう。だから訊くのをやめ治療に専念する。だがかなり時間が経っているため、あまり治癒が効いていない。それに魔物から受けた魔障が全身に回ってしまっている。こうなるとアイラの精霊魔法でもどうすることも出来ない。そう思っていると、


「お嬢さん、分かっているから気にするな。もう俺は長くはもたない」

「……」


 アイラはかける言葉が見つからなかった。ただ哀れむように眉根を寄せシガスを見ることしか出来なかった。


「そんな顔をしなくていい。こうなることはわかっていた」

「何があったのか、教えてもらえないんですよね?」

「ああ」


 そう笑顔を見せるシガスにアイラはギュッと唇を噛む。


 ――助からないとしても、少しだけ命を延ばすことは出来る!


 アイラは全力で精霊魔法をシガスに注ぎ込んだ。アイラの全身が黄緑色に光る。


「! あんた……」

「あなたが副団長に話し、故郷に戻るまで命を延ばすようにしました」

「!」


 驚き目を見開くシガスにアイラは優しく微笑む。


「ちゃんと戻ってご家族と最後きちんとお話をしてください」


 そう伝えるとシガスは、


「ありがとう。助かる」


 と笑顔を見せた。その後シガスは魔術師団の部屋へと連れて行かれ、その後はどうなったか分からない。だが帰って行ったのだけは人伝いで聞いたので、家族との最後の別れは出来ただろう。



【現世】


 ――あの時、シガスさんは何を伝えに来たのだろう?


 そう思いにふけっていると、


「いいから早く出て行け!」


 とシガスの苛立ちをはらんだ声が聞こえて来た。見れば、シガスの顔は怒りに満ちた顔をしていた。


 ――やはりここが竜柱の場所だからかしら?


 アイラはリュカの前へと歩み出る。


「おい!」


 リュカが驚き肩に手を置き制するが、


「大丈夫」


 と声をかけ、シガスへと顔を向けて言う。


「あなたは『国守玉の盾』ですか?」

「!」


 案の定シガスは驚き目を見開く。その反応にジンも驚き見る。


「『国守玉の盾』だって?」


 だがシガスはすぐに表情を元に戻し言う。


「なんだ、それは」


 やはり言わないかとアイラは思っていると、ジンが右手を挙げ手の平をシガスへと向けた。


「先生?」


 リュカは反射的に声を上げる。攻撃をするのかと思ったからだ。するとジンの全身が金色の光に包まれた。国守玉の力だ。そしてシガスへと向けていた右手からその光はゆっくりシガスへと向い全身を包んだ。シガスは動くことができず、ただ驚きジンを見ていた。そこでリュカはジンがシガスの動きを制御していることに気付く。するとシガスがジンへと問う。


「あんた、『国守玉の脚』か?」


 ジンは、


「ああ。あんたも『国守玉の盾』というのは本当みたいだな」


 と応え、翳していた右手を下げる。すると金色の光はなくなり、シガスの拘束も解けた。






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