136 赤竜の竜柱②
「お前ら、ここで何をしている?」
「ちょっと3人で散歩だ」
ジンはどうにか穏便に済ませようと笑顔を見せながら応える。
「散歩だ? こんな辺鄙な所をか?」
「道に迷ってしまってね。そう言うあんたはなぜここに?」
ジンは笑顔で訊ねる。辺鄙な場所だというならお互い様のはずだ。
「俺はこの辺を管理している者だ。不審者が侵入したため確認に来た」
男は隠すこともなく理由を述べる。そこでリュカとジンは、ここに来る途中に違和感を感じた場所があったことを思い出す。その時はその理由は分からなかったが、侵入者が入ったら通報するように何らかの魔術がかかっていたのだと理解した。
ジンは男に、さも何も知らないと言った体で周りを見渡しながら訊ねる。
「管理? こんな何もない殺風景な場所に何かあるのか?」
案の定男は、予想した答えを返してきた。
「何もない。ここは私有地だからな。侵入者を気にするのは当たり前だ」
男の言うことは間違っていない。反対にこの理由以外で何があるのかというぐらいだ。だがこの見渡す限りの手入れも何もされていない雑草とした場所に、部外者が侵入したからと言ってわざわざ見に来るのはおかしな話だ。そこをリュカは訊ねる。
「何もないのなら、なぜわざわざこの辺鄙な場所に来られたのですか?」
この近くには人が住んでいないことは事前に調査済みだ。一番近い村からここまで来るとしてもかなり時間をかけて山を登ってこなくてはならない。そこまでして確認しに来る理由があるとしか考えられなかった。
――何かあるのか?
そう勘ぐる。眉根を寄せ訝しげに見るリュカに男は、
「管理者として確認しに来るのは当たり前だろ。早く出て行け」
と殺気を帯びたつり目の目つきで睨みながら言い返す。普通の者ならばここで尻込みするだろう。だが魔術師団長まで上り詰めたリュカだ。まったく動じず男の目を見返し、更に男の仕草や目の動きを1つ1つ見落とすことなく、くまなく観察する。そして前世からの経験上出した答えは、
――やはり何か隠しているな。
だった。
ジンもまた男が何者なのか考えていた。
――この場所が竜柱の場所だと知っている者なのか? だとしたらどっちだ。敵か味方か?
だが今の段階では答えが出ないため、下手に行動に移すのは得策ではないと早る気持ちを抑え冷静を装う。
そして男もまたリュカとジンを警戒していた。
――この男と黒髪の少年は何者だ?
まず牽制の意味で睨みを聞かせ話した。今までのほとんどの者はこれで恐怖し逃げて行ったからだ。だがジンとリュカはまったく恐怖を感じる様子もなく、反対に同じく牽制してきた。この場合、自分と同等か、それ以上の強者ということだ。だから男は焦る。
「迷ったのなら早くここから立ち去れ!」
あまり長く関わっていれば2対1で自分が不利だと感じた男は、どうにかリュカ達をこの場から立ち去らせようとする。だがそれにジンが乗るわけはなく――。
「えー、ここ、とても見晴らしがいいじゃないか。もう少しここからの景色を見たいから今すぐは帰りたくないなー」
さも残念だという顔を見せて立ち去ることを拒んだ。だが男は、
「駄目だと言っている! 早く俺の土地から出て行け!」
と、手を大きく横に薙ぎ払い、怒りを露わにしながらジン達を追い出そうとする。だがジンはそれでもなお、
「えー、いいじゃないか。減るもんじゃねえんだし」
とおちゃらけた言い方で男に言い、まったく動じることなく笑顔で応えた。
そんな対照的な態度の2人の押し問答を見ながらリュカは半分呆れる。
――先生、よくこの状態であの男をからかえるな。
ある意味凄いと感心しつつ嘆息する。そんなリュカの後ろで見ていたアイラといえば、男の顔を見て別のことを考えていた。
――この人、どこかで見た気がするんだけど……。
どこで見たのか? 今世ではないことは分かっている。見たのは前世だ。そこで記憶を辿る。するとどこで見たのかを思い出した。
――あの時の! 確か名前はシガス。
◇
【前世】
イライザが亡くなり、アイラが精霊魔法士長になってすぐの時だ。シガスが王宮を訪ねてきた。冬だったため獣の皮のコートを着た背が高くガタイが大きいことから、クマが来たのかと最初思ったほどだ。だがもっと驚いたのが脇に大きな傷があり、血が足をつたい地面まで流れ出ていたことだった。
するとシガスがその場に膝をつき崩れ落ちた。
「!」
アイラはすぐにシガスへ走り寄り、治療魔法を施す。
「大丈夫ですか!」
「魔術師団団長はいるか……」
だがこの時、ユーゴもリュカも遠征に出ていて1週間は帰ってこない予定だった。
「あなたは?」
「俺はシガス……。最南端に位置する村トーカスから来た」
「どのようなご用件で?」
「悪いがそれは言えん……。」
「今団長は遠征に出ていていません」
「なら副団長は?」
その時ブレッドもユーゴと出ていて、マシューしかいなかった。
「いますが、ご用件をお伺いしなければ繋ぐことはできません」
アイラはシガスの脇の治療を継続しながら応える。
――傷口が酷い。それにこれは人間の仕業ではない。
シガスの傷は魔の物、それも魔獣ではない者と戦った時に出来る傷特有のものだった。
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