13 新たな友
「ライアン! カミール! 帰ったんじゃ?」
アイラは驚き声を上げる。
「あんな思い詰めた顔をしてたら気になるだろ」
「そうそう。アイラ、1人暮らしだから誰もいないって言ってたじゃない。なのに迎えが来るなんて嘘だって気付くでしょ」
確かに我ながら余裕がなかったのもあり、分かり安い嘘を言ったものだと反省する。
「でもなんでここに?」
「お前、本気で言う? 心配してに決まってるだろ」
「え?」
ライアンの言葉に意外だとアイラは驚き見る。
「一緒に補習授業を受ける仲間がまったく上達しないんだ。気になるだろ」
「そうそう。あまりにも基礎が出来てないからさ。いつ出来るんだろうって気になってさー」
その通りなので何も言えない。そんなアイラにライアンが腰に手をあてて言う。
「だから俺らが教えてやる」
「え?」
「ライアンとも話してたんだけど、アイラ、このままだと留年しそうだからね」
「うっ!」
「そうそう。それにアイラのおかげで補習授業も別の意味で楽しいからな」
ライアンの言葉にアイラは眉を潜め首を傾げる。
「? それってどういう意味?」
「見てて飽きないってことだ」
授業が分からず真っ青になってたと思ったら、出来たら笑顔になったり、ジンのくだらない話にゲラゲラ笑ったり、冗談を本気にして怒ったりと、1人忙しくしてるところがライアンとカミールは面白がっていたようだ。
そのように見られていたのかと恥ずかしくなり顔は熱を帯び耳まで赤くなる。
「それに頑張ってるのは分かってたからなー」
「そうだね。空回りだけど」
「……」
「だからカミールと俺でやり方を教えてやるよ」
「ほんと?」
「ああ」
嬉しさが込み上げる。
「ありがとう! ライアン、カミール」
目尻に涙を貯めながらお礼を言うアイラに2人は照れながら
「そんなことで泣くな」
「ほんとに」
と言うのだった。
その様子を物陰から見ていたジンは微笑む。
ライアンとカミールは、理由が理由のため学校にまったく興味がなく授業も休みがちで、テストもわざと受けなかった。そのため補習も来ないことが予想された。懸念したジンは、どうにか初日だけは来るようにと2人を説得し強制的にこさせたのだ。
問題はその後だった。次の日から2人が来ないことが予想されたからだ。だが意外にも2人は毎日ちゃんと補習を受けに来た。
理由はアイラだった。
あまりに魔術が出来ないアイラを2人は最初面白がり、そして上達しないアイラを気に掛け、毎日見に来ていたのだ。
そして今、アイラを心配し手伝おうとし始めた。それがジンは嬉しかった。
――お互い良い傾向だな。
ジンはふっと笑うとその場をそっと立ち去った。
次の日、ライアンとカミールは昼休みにアイラの所にやってきた。
「ふーん。あまりにも酷いアイラを見かねて、同じく赤点2人が魔術を教えてくれるというのね」
ライアンとカミールのことをアイラから聞き、サラは頬杖をつきながら冷めた目で2人を見て言うと、2人が笑顔で応える。
「言うねー君。でも僕は嫌いじゃないけどね」
「俺も嫌いじゃねえな」
嫌みを言われたことにまったく動じない2人にサラは半笑いだ。そんなサラを見てライアンが訊ねた。
「貴族のお嬢様にしては珍しくショートカットなんだな」
令嬢は髪が命だと伸ばす者はほとんどだ。ちなみにサラが貴族だとアイラが知ったのは最近だ。田舎の貴族だから知られるのが嫌だったようだ。
「貴族といっても田舎の成り上がりよ。お嬢様じゃないわ。それに髪は短い方が楽だからよ」
「変わってるなー」
「そう言うあなた達も名のある名家なのに相当変わっているわね」
「否定はしねえ。ってことで、変わっている者同士仲良くしようぜ」
ライアンはにぃっと笑った。
それからというもの、アイラ達4人は昼食の時間は一緒に取るようになり、その後サラも一緒にアイラに魔術を教えた。そこで気付いたことがある。
「まさかライアンとカミールってAクラスだったとは」
「なんだよ。バッチみればわかるだろ」
「いや、そんな余裕なかったし」
そこで回帰前を思い出す。アイラもAクラスだったが、この2人がいただろうか? あまり記憶がない。だが2つほど席が空いていた記憶はある。だとすれば、その2つの席がこの2人ということになる。
「アイラどうしたの? いきなり何か考え込んで」
サラが不思議そうに首を傾げて聞いてきた。
「あ、ううん。何でもない。ライアンにカミール、いいの? お昼に頻繁に下の階にきて」
アイラは誤魔化すようにライアンとカミールへと質問する。
「いいさ。別に上にいなくちゃいけない決まりはないしな」
「そうそう。食堂もこっちの方が雰囲気はいいしね。どうも上の食堂は僕には合わないんだよね」
カミールの意見にアイラも同感だと思う。前回アイラはA・Bクラスが使う食堂を利用したことが1度あった。だが上級貴族でプライドが高い者ばかりいる食堂はアイラにはまったく合わず、それ以来1度も利用したことがなかった。
すると口角を上げながらサラが言う。
「興味深いわね。そんなに上の食堂はここの食堂よりいいのかしら? 1度行ってみたいわね。アイラ、そう思わない?」
サラの表情からして、興味は食事の内容というより食堂に来る人物や雰囲気のことだろう。
「私は別に行きたいと思わないわ。私もたぶん合わないと思うし……」
「確かにアイラやサラには合わないだろうな。あそこはこことは少し違う世界だ。行かねえほうがいい」
アイラの意見にライアンも頷き言う。
「そっか。まあ上級貴族や頭が良い人達ばかりだから居心地は良さそうじゃないわよね。私、文句言いそうだわ」
「あはは。サラは言いそうだね」
「そんな感じだなー。やめとけやめとけ!」
皆笑い、その話題はそこで終ったのだった。
そしてあっという間に10日が過ぎた。
とうとう追試試験が明後日と迫った2日前、ジンからアイラは呼び出された。そして連れて行かれた場所は魔術練習専用の体育館だった。
「ここは生徒が自習をするための個人の練習場で、申請すれば誰でも貸し切ることが出来る魔術専用に作られた体育館だ」
普通の体育館だと思えば、なぜか屋根がなく青空が見えた。
「屋根がない」
「壁や床は魔力を外に出さないように強度に作られているが、上は魔力を逃がすために屋根はないんだ。雨の日は閉まるようにはなっていけどな」
この体育館の構造は分かったが、なぜここに来たのかが分からない。
「ここでなにを?」
「そんなの決まっているだろ。明後日の追試試験の練習だ。お前が覚えた魔術を今から俺が見てやるんだよ。お前はそこから動くな」
ジンはアイラから離れ距離を取る。
「じゃあアイラ、そこから俺に向かって魔法を全力で放て」




