134 後継者
「いえ、大丈夫です。俺の後継者の者と一緒にしますから」
「後継者? それは誰だ」
「ランガー伯爵の次男のリュカ・ランガーですよ」
「ランガー伯爵の次男ってまだ学生じゃないのか?」
「ええ。俺が勤めている学園にいます」
「大丈夫なのか? まだ学生だろ?」
「学生では無理なのではないのか?」
未熟な学生では無理だと五守家の者達は難色を示す。そんな彼らの反応を見てジンは苦笑する。
――そう思うのが普通だよなー。だが中身は王宮魔術師団長であり、『大魔術師さま』と言われるほどの魔力の持ち主だ。これほど心強い人物は他にはいねえんだけどな。
「そこは大丈夫ですよ。父親であり現魔術師団長のユーゴ団長より強いオーエン様のお墨付きの息子さんっす」
「だがなー……」
やはりうんとは言わないかとジンは更に一押しする。
「ちなみにリュカの魔力量はユーゴ団長の倍はあります」
「なに!」
「まさか!」
「それは本当なのか?」
驚き声を上げる五守家の者達にジンは片方の口角を上げる。
――食らいついた。
「ええ、本当です」
――計ったことないけどな。
だが強ち間違っていないとジンは確信している。何度もリュカの戦いを見て、そこから算出しても、そのぐらいはあるはずだと推測できるからだ。
「信じられん」
「うむ。何かの間違いではないのか?」
――やはりここまで言っても信じねえのか。ほんとお堅いやつらは面倒だ。しかたねえなー。
ジンは仕方ないと最後の切り札を出す。
「もう言いますけど、魔晶箱を開けたのはリュカです」
「なんじゃと!」
本当は軍事機密のため言ってはいけないのだが、関係ないとジンは開き直おり、魔晶箱が開けられた経緯を説明する。案の定みな驚いた。
「これで分かったでしょ。リュカが適任か」
それには誰も反論出来なかった。
「ってことで俺とリュカに任せてもらいますので」
◇
「――ということになって『国守玉の脚』の後継者の承認を五守家からもらったから」
次の日ジンに呼び出され説明を聞かされたリュカは、睨みを利かせ不満全開の顔を向ける。
「承認もなにも俺はやるとも言ってないし、先生が1人で勝手に言ってるだけでしょ」
「やらないとも言われてない。だから俺はリュカは了承してくれたもんだと思っていたけどな」
なぜか胸を張りながら言うジンにリュカは嘆息するしかない。
「これは俺1人で決めれることじゃないんだけど……」
これは絶対に父親のオーエンに話さなくてはならない案件だ。
「親の許可がいるってやつか?」
「ええ」
「それは大丈夫だ。ちゃんとお前の親父には許可は取ってある」
「は?」
初耳だとリュカは怪訝な顔を向ける。
「いつの間に……」
「少し前に王宮で会ったんだ。その時に話した」
「で、父はなんと?」
想像はつくが。
「ん? 快く快諾してくれたぞ」
やはりとリュカは嘆息する。オーエンはそういう人間だ。
「だから心配しなくていいぞ」
「いやそこが問題じゃない」
自分の与り知らぬところで話を進めるのはやめてほしいとリュカは訴える。
「でだ」
「話は終わってないですけど」
最近ジンが分かってきた。都合が悪いことはスルーしようとするところがある。だがここは譲れない。将来が変わってくるのだ。
「これ以上話しても結果は変わらないぞ。お前が俺の後継者という事実はここで話し合っても変わらない」
「そうですが、ここでジン先生が俺が後継者ではないことを認めればいいだけです」
ならば、後から否定出来るからだ。
「じゃあすべてが終わってからな。そうしなければお前が竜柱の場所に入ることが許されないからな。お前が入れないとなると、俺は1人で竜柱の浄化と討伐をしなくてはならない。だが1人では勝てないだろうな。俺が死んでもいいと言うなら、今ここでお前を後継者ではないと認めてもいいがどうする?」
「……」
不本意だが、すべてが終わってからの方が最適だろう。だが負けた感があるのはなぜだろう。ジンの言っていることは正しいのだが、どうも納得がいかない。
だがすぐにわかった。
「ん? どうした?」
笑顔で何も存ぜぬと、わざととぼけて見せるジンが原因だ。ほんとこの場になって前世でもっと色々な者と話して語学力を養っておけばよかったと後悔が押し寄せる。このような言葉の押し合いの場面でも、すぐに言い返せただろう。だが前世でも今世でも話が苦手なリュカにとっては、ジンに対抗する術を持ち合わせていなかった。
「で、どうする?」
「わかりました。それでいいです」
ムッとして応えれば、ジンはしてやったりと勝ち誇った笑顔を見せた。そこで真剣に対話の練習をしようかと思うリュカだった。
アイラの図書室の仕事も終わりリュカとの特訓が再開された。
「あれ?」
図書室の仕事1ヶ月と冬休みで2ヶ月近く特訓をしていなかったからか、魔術のコントロールの仕方をすっかり忘れてしまい、うまく出来なくなっていたのだ。何度もやるが、極小の火魔法が出たかと思えば、直径2メートルはある巨大な水魔法が放たれたりと、まったくコントロールが出来なくなっていた。
そのすべての魔法をリュカは処理しながら呆れて嘆息する。
「なんだ、そのハチャメチャな魔法は」
「あはは……」
アイラはただ笑うしかない。
「やっぱり素質ないのかしら……」
肩を落とし項垂れながら言うアイラに赤竜が言う。
『そう落ち込むでない。まず精霊魔法を魔術魔法に変換することが難しいのだ』
「え? そうなの?」
『うむ。それを出来ているだけでも凄いことだ』
そうなのかとリュカを見ると、初めて聞いたというような顔をしていた。
「なに、その顔?」
「いや、難しいのかと思って……」
そこでアイラは気付いた。
――ああーこの人、大魔術師だったわ。
「リュカの基準はおかしいから」
「おかしいとはなんだ」
「おかしいからおかしいのよ!」
ヒートアップしそうになった時だ。
「お前ら、また言い合ってるのか?」
とジンがやってきた。
「何しに来たんですか?」
「ほんとに。ずっと放ったらかしだったのに」
「お前らなー。文句の矛先を俺に向けるんじゃねえ」
すると2人はお互い反対側に顔を向け黙った。そこで図星だったのかとジンは嘆息する。
「で、何を言い合ってたんだ?」
それにはアイラが説明した。それを聞いたジンは笑う。
「確かにリュカの基準はおかしいな」
「でしょー!」
アイラは自分が正しかったと喜ぶが、
「だが、アイラもおかしい」
「え? なんで?」
意味が分からないとアイラは眉根を寄せてジンを見る。
「アイラもセンスがないっことだ」
それにはリュカはくつくつ笑う。それをムッとしながら睨むアイラにジンは「この話題は終わりだ」と終止符を打ち、話題を変える。
「明日、赤竜の竜柱の所へ行く」




