133 五守家会合
その頃、ジンは『国守玉の脚』の五守家の定期報告会の会合のため長であるボナール家を訪れていた。
いつものように丸テーブルに五守家の当主が顔を合わせ、それぞれ報告し合う。だいたいが自身が担当している『国守玉の肢体』の場所の状況報告だ。ジン以外が担当している『肢体』はそれほど大きくなく問題がない所ばかりのため、これと言って目立った報告はなかった。そして最後、一番年下のジンの報告も難なく終わった頃、小さな地震が起きた。
「また地震か……」
長のボナール家のベニートが呟く。
「もうすぐ新月ですからね」
そう応えたのはブリース家のアルバンだ。
「去年の大浄化の時の新月よりは国守玉の状態は良さそうですが、まだ聖女が選出はされはしましたが力が使えるまでにはいっておりません。今年は大丈夫なのでしょうか?」
カシュー家のエルトンが心配そうに訊ねる。
「去年の大浄化の時は姿を消す魔獣がいたため国守玉の穢れが酷かったが、今回はそれほどではない。ならば王宮の精霊魔法士のみで対処出来るだろう」
ベニートが長い顎髭を触りながら応えジンへと視線を向ける。
「それにその後にジンが国守玉の状態の確認に今年も行くのだろう? ならば大丈夫じゃろう」
長い眉毛でほとんど見えない目を半月にし片方の口角を上げるベニートに、ジンはムッとする。
――くそじじいが。また俺に国守玉のお守りを押しつけるつもりだな。
そんなジンの心境を知ってかベニートが、
「なんじゃ。何か言いたそうじゃな。だが国守玉の場所に一番近いのはジンだ。昔から一番近い者が管轄する習わしであろう?」
「そう言うなら、俺が担当する『肢体』の管轄場所はおかしくないですか? まったく関係ない場所も俺の担当になってるんですけど? そう言うなら外してもらえませんかね」
ジンは嫌みで返す。
「それでも良いが、そこの者の担当の者は命を落とし、対処出来るお前さんに担当は戻ってくるぞ。結局数少ない『国守玉の脚』の数を減らし、お前さんに負担が今以上にのし掛かるだけじゃ。それでも良いならそうするが?」
「つっ!」
意趣返しのつもりで言ったが、難なく返された。ジンは不貞腐れたように腕組みし背もたれに勢いよく背中を倒し、
「俺の負けです。今までのままでいいっすよ。これ以上負担が増えるのは勘弁だ」
とムッとする。そんなジンを鼻で笑いベニートが話を戻した。
「国守玉の浄化はジンに任せるとして、1つ気になることがある。それはこの地震じゃ」
それには皆同意見だと笑顔を消しベニートを見る。
「新月の前は地震があることはあったが、ここ最近地震が多い」
「必ず1日1回は有りますからね」
だが新月の前はよく震度1ほどの揺れがあるため、皆ほとんど気にしていない者がほとんどだ。
「新月の前はよく起るが、ここ最近の地震はいつもと少し違うことに皆も気付いておるであろう?」
「この地震の発生地が竜柱の場所ということですね」
皆を代表してエルトンが応える。皆異論はないと頷く。
「それは竜柱がもう限界に来ているということですか?」
「そうだろうな」
五守家の者達は四竜の意識体が魔晶箱から放たれたことはジンからの報告で知っていた。
ジンは最初、五守家の者達に言おうか迷った。だが今後のことを考えると内緒にしておくことは無理だと判断し報告をしたのだ。話をすることで驚かれると思っていたが、予想に反して全員まったく驚かなかった。特に竜柱が限界に近づいていることに関しては、「やはりそうか」と口を揃えて言っただけだった。ジン以外は皆分かっていたようだ。
だがジンが報告したのは四竜が解放されたところまでだ。四竜の意識体がリュカとアイラの中にいることは伏せた。グレイがどこから情報を知り得たのかが分かっていない状態で、安易に四竜の場所を言うはどうかと思ったからだ。もしかしたらこの五守家の中に裏切り者がいるかもしれないのだ。安易に言うのは避けたほうがいい。
「限界を越えるとどうなるのですか?」
ホルガーが訪ねる。
「魔性のものに体を完全に乗っ取られ、竜柱としての役目を失うだろうな」
「じゃあそうなれば!」
「四竜は解き放たれ、地上に這い上がり襲うであろうな」
ベニートの言葉に今度はアルバンがため息交じりに言葉を繋ぐ。
「そうなれば、魔穴の封印も解かれ、魔獣などの魔物が這い上がり、この地上を襲い、連鎖的に他の竜柱にも影響を及ぼすということですか……」
それは滅亡が早まると言うことだ。
すると、エルトンが手を挙げる。
「長、質問なんですが?」
「なんじゃエルトン」
「なぜ四竜は自身の意識体を体に戻せと言うのでしょう? 這い上がってくる魔物達に大半乗っ取られている状態ですよね? その前にまず体を浄化するのが先ではないのですか?」
至極真っ当な意見だとジンは思いながら手を上げて説明する。
「それは俺がこの前試みました。ですが無理でした。竜柱は国守玉と同じ次元のものです。まず繋がるだけでも意識をしっかりしておかないと持って行かれる。そこに何百年という年月をかけて溜まった邪気や魔障、魔物などの不浄物を浄化することは不可能でした」
その時のことを思い出しながらジンは話す。
「ならやはり四竜が言うように意識体を体に戻す他ないということか」
するとホルガーが疑うように言ってきた。
「ジン、その四竜は本当にあの四竜なのか? 騙されておらぬか? そやつらが魔物ということはないのか?」
確かに四竜がリュカの中にいることや会話をしていることを知らない五守家の者達からしたら怪しいに決まっているだろう。だがそれを抜きとしてもジンには自身があった。
「四竜は本物です。俺が保証します」
「それはなぜそう言い切れる?」
「『国守玉の脚』としての感です」
――もし魔物だったらリュカの中には入れないはずだ。そしてアイラの中にも。あの2人は国守玉から守られているんだからな。
『国守玉の脚』の感と言われてしまえば、同じ『国守玉の脚』の者としては異論を唱えるものはいない。その感覚は皆よく知っているからだ。
「簡単に意識体を戻すと言うが、それは四竜を乗っ取っている魔物を倒すということだろう? そんなことが可能なのか?」
四竜は国守玉の力を与えられた分身のようなものだ。ある程度の強さと知識を兼ね備えている。そのような相手に『国守玉の脚』だけで太刀打ち出来るのだろうかとエルトンは不可能ではないかと言う。
「でもそれしか方法はないんですから、やるしかないでしょ」
ジンは開き直ったように言い返す。
「そうであるが……」
エルトンもそれ以上言う言葉が浮かばず黙る。その代わりにアルバンが質問をした。
「では意識体を戻した後はどうするのだ?」
それに応えたのはベニートだ。
「それはジンが四竜を介して国守玉の意向を聞いているはずじゃが?」
その言葉に目を丸くしたのはジンだ。
――国守玉の意向?
そんなことは1度も四竜達から聞いたことがない。いつも、
『お主ならどうにかなるであろう』
『国守玉からは何も言われておらぬ』
『ん? 対処法? 我等に分かるわけがないであろう』
などといつも知らないと言っているのだ。
――あいつらは国守玉から何か言われている感じがまったくしねえけどな。
ジンの感覚では四竜は『国守玉の脚』のジン達と同じ位置付けだ。ただジン達と違って国守玉の声が聞こえるだけだ。だがベニート達は四竜は国守玉の分身のような位置付けのように思っている。
――まあ、リュカとアイラのことが言えねえんだ。そう思わせておくしかないが。
「そうですね。四竜が色々知っているみたいなので、そのように俺はするだけです」
当たり障りのない回答をする。
「手伝いはいるか?」
ベニートはそう言うが、本心ではないことはジンは分かっている。ジン以外手伝ったとしても、ただ命を落として足枷になるだけなのだ。それを分かっていて「手伝いはいるか」とあえて聞いてくる。悪気はないのだろうが、いい気はしない。
――昔からいつもこういう厄介な役割は俺の家系に回ってきて、こいつらは『国守玉の脚』が少ないという理由を前面に出し、いつも安全な場所で高見の見物と来たもんだ。ほんと胸くそ悪りい。
そう思いつつ、ジンは笑顔で断る。
「いえ、大丈夫です。俺の後継者の者と一緒にしますから」
「後継者? それは誰だ」
「ランガー伯爵の次男のリュカ・ランガーですよ」
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