130 過保護だねー
「赤竜、詳しく説明しろ」
アイラの説明では納得がいかないリュカは、アイラの中にいる赤竜へと訊く。すると赤竜の意識体の赤い光がアイラから出てくると、
『リュカ、そう怒るな。これは仕方なかったのだ』
と前置きし、最初アイラに洗脳魔法をかけようとしたことを話した。
「洗脳魔法?」
それにはアイラが驚いた。まさかそんな魔法をかけられようとされていたとは思っていなかったからだ。
『だがリュカの防御魔法がそれを弾き飛ばした』
「そういうことか」
リュカは赤竜の説明でやっと納得する。アイラといえば、その時に弾け飛んだように感じたのがリュカの防御魔法が発動したためだったことに気付き驚く。そして、もしリュカの防御魔法がなかったらどうなっていたのかと思うと恐ろしくなり生唾を飲み込んだ。
――でもその後も色々な魔道具を持たされたけど何も起らなかった。じゃあ最初だけだったってことかしら。
だが次の赤竜の言葉で、その考えが間違っていたことに気付く。
『その後も色々とアイラに魔法をかけようとしていたが、すべて精霊王と国守玉が阻止しておった』
――やっぱりされてたんだ。 ん?
だがそこで予想外な言葉がアイラの耳に残る。
「精霊王? 国守玉?」
何もかも驚いているアイラにジンは苦笑する。
――こいつ、まったく気付いてなかったんだな。
精霊魔法に長けていて、前世では精霊魔法士長まで上り詰めた割りには、抜けているところが多いアイラだ。
――前世でも精霊王や国守玉は色々気付かせようとしていたが、こいつはまったく気付くことはなく殺されたんだろうな。だから時を戻させ、周りに気付く者を配置させたということか。
そしてその1人にジンが入っている。そう思うとどうも良い気持ちはしない。
――ほんと、いいように俺を利用しやがって。
だがこれはこの世界の摂理。抗うことは出来ない。だから悪態だけをつくジンだ。そして気持ちを切り替え赤竜に訊く。
「赤竜、お前はどうやって精霊王だと分かった?」
『精霊王が自ら存在を認識させ、ホルスマンを牽制しておった。だから我らでも認識できた』
やはりそうかとジンは目を細める。
精霊王の存在は精霊以外は認識は出来ないと言われている。もし出来るとすれば精霊王自ら姿を現わす時のみだ。それは四竜も例外ではない。その精霊王がアイラを守るため自ら出てきてグレイを牽制した。
その理由は一つ。
――やはりホルスマンが黒幕か。
精霊王と国守玉がグレイを敵と見なしているということは、前世で世界が滅びの道へと向かった原因だということだ。
「ホルスマン伯爵は、なぜ私を……?」
アイラは自問するように呟く。
「洗脳しようとしているということは、お前の力が必要なのか、あるいは邪魔なのかだな」
ジンは腕組みをし説明する。だが答えは分かっている。後者だ。
「国守玉も出てきたということは、やはり……」
リュカは最後言葉を濁す。
――世界が滅亡へと向かうことをアイラは知らない。下手に言うのはアイラを混乱させてしまうだけだ。それだけは避けたい。
だがそんなリュカの思いは、アイラの次の言葉で微塵と散った。
「国が滅ぶ原因が伯爵ということ?」
「!」
それにはリュカは驚きアイラを見る。
「なぜそれを知っている?」
「赤竜とシュリに教えてもらったの」
「シュリ?」
リュカは誰だと眉根を寄せる。そこでアイラとジンは気付いた。
「あれ? リュカに話してなかった?」
「そう言えば、アイラが世界が滅ぶことを知っていることと国守玉に名前があることをお前に話してねえな」
2人の言葉を聞き、リュカは目を細め不機嫌な顔をし、
「聞いてないが」
と不服そうに言う。それを見てジンは、
――ほんと顔に出るようになったなー。
と内心微笑む。
説明を聞いたリュカは四竜達へ文句を言う。
「四竜、いつも余分なことは言うくせに、なぜこういう大事なことは言わなかった」
すると四竜も罰が悪そうに笑いながら、
『我等もすっかり忘れておったわ』
と説明した。最近緊張感がまったくない四竜達だ。
「忘れるな」
間髪入れずに突っ込むリュカだが、次の瞬間、ハッとし窓の外へ視線を向ける。
「リュカ?」
アイラとジンはどうしたのかと思っていると、リュカはアイラへ視線を戻し言う。
「今回は何もなかったが、これからは勝手に判断するな。もしまた誘われたら断れ。それが駄目なら俺に言え。わかったな。1人で判断するな。お前はその辺の危機感がまったくない。四竜もこいつの言うことは聞くな」
それを聞いていたジンはアイラに、
「お前、リュカに信用ねえなー。すごい言われ方だなー」
と苦笑する。アイラといえば、自覚があるだけに、ただ項垂れるしかなかった。
「アイラ、キーホルダーを出せ」
「え? あ、うん」
リュカはアイラからキーホルダーを受け取ると両手で包み込み魔法をかけ始めた。それを見ながらジンは感心する。
――ほんとこいつ、杖も何もなしで簡単に高度な魔法使うよなー。
リュカは全力でキーホルダーに力を注ぎ続ける。その間、前の時と同じようにいくつもの魔法陣が繰り出される。何回見ても綺麗だとアイラは見とれた。
そして元通りになるとリュカは、
「修復した。前より強力な防御魔法をかけておいた」
と言ってキーホルダーをアイラに渡す。
「ありがとう」
「わかったな。勝手に1人で行動するな」
そうアイラに念を押す。それを見ながらジンは笑う。
「過保護だねー」
「では、俺は行きます」
リュカは慌ただしく部屋を出て行った。
ジンもアイラに、
「アイラ、リュカの言う通り、これからあまり1人で行動するのは控えろ。そして1人でホルスマン伯爵に会おうとするな」
と忠告し、背にある窓の外へと視線を向け微笑む。
「あいつ、律儀だねー」
「?」
ジンの視線の先を見れば、リュカが校門に向かって走って行くのが見えた。その先には校門の前で車から降り立ったマティスの姿があった。公務が終わり学園に遅れて登校してきたようだ。
「護衛じゃねえんだから別に殿下が来たからって迎えに行かなくてもいいのにな」
ジンの言葉にアイラは、そうかと気付く。
前世で見ていた光景だから何も違和感を感じていなかったが、リュカはまだマティスの専属護衛ではないのだ。
――この頃からもう護衛みたいなことをしてたんだ。
そこで疑問に思っていたことをジンに訊く。
「伯爵はなぜ私を洗脳しようとしたんでしょうか?」
ジンは椅子の背もたれに背を預け天井を見る。
「それは分からねえ」
――国守玉も竜柱も浄化が必要だ。その浄化に長けているアイラが邪魔だということなのか?
だがそれだと聖女はどうなるのかという疑問が沸く。
――浄化だけを考えれば聖女の方が力も強いため邪魔なはずだ。だがホルスマン伯爵は次期聖女のセイラの後見人に自ら立候補している。浄化をする者を廃除したいと思っている者が自ら立候補するのか?
やはり浄化に特化している者の廃除が理由とは考えにくい。
――他に何かあると考えるのが妥当か。じゃあ他とは何なのか? 考えても今の段階では何も分からねえ。
ジンは大きく息を吐く。
――まあ精霊王と国守玉がついているなら、アイラが殺されることはない――。
そこで、前世でアイラが殺されたことを思い出す。
――違う。殺されたから今世で異常なほどにアイラを守っているのか! だとすると、やはり前世で国が破滅に向かった理由はアイラの死が大きいということか!
「先生?」
アイラはジンに話しかけるが、何か真剣に考え込んでいるため返事が返ってこない。仕方なく椅子に座り、持って来た昼食のハンバーガーを取り出し食べながら窓の外を見る。そこには迎えに行ったリュカがマティスと合流し何か話しているのが見えた。
――そういえば、前世でよく見た光景ね。
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