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127 グレイの屋敷にて①



 図書室の手伝いが終わり校門へ行くと、レイがいつものように車の前で待っていた。毎日セイラを迎えに来ているため顔を合わすようになり少しは慣れたが、やはりレイと目が合うと緊張する。

 レイはアイラに気付くと笑顔を見せ、セイラを無視し横を通り過ぎると、アイラの元へやってきた。セイラもそんなレイに何か言うわけでもなく先に車に乗る。そんな2人の態度にアイラは戸惑う。

 特にレイのセイラへの態度が気になった。

 前世でアイラは王宮で働く者として位の高い者への接し方を口うるさく指導された。だからレイのセイラへの態度が目についた感じだ。


 ――これはどういうこと?


 レイの主がグレイであってセイラは違うとしても、主であるグレイが面倒を見ている次期聖女で、位もグレイより上の王族の次の高い地位の人物だ。ならばグレイと同じように従者として接するのが普通なのではないのか。ましてやセイラが次期聖女だということはレイも知っているはずだ。尚更無視するという態度はよろしくないのではないのかと思ってしまう。

 そこである考えが浮上する。


 ――もしかして従者じゃない? それならばセイラに対してあの態度は納得がいくけど……。


 だとしてもどうなのかと思ってしまう。

 立ちつくし眉根を寄せ、なかなか動こうとしないアイラにレイは笑顔を見せ「さあどうぞ」と車の中へと促した。アイラはそこで皆を待たせていることに気付き慌てる。


「あ、はい」


 急いで車へ乗り込む。アイラが乗ったのを確認し、レイは後部座席の扉を閉めると助手席に乗った。そして車が発進すると、体をねじり後ろに座るアイラに笑顔で話しかけてきた。


「今日はマスターのお招きに答えてくださりありがとうございます。アイラさん」

「こちらこそお招きいただきありがとうございます」


 アイラも頭をさげ挨拶する。するとレイは笑顔を深めそのまま前を向いてしまった。やはりレイはセイラを見ることも話すこともしない。


 ――やはり2人は仲が悪いのかしら?


 そう思っていると今度はセイラが話しかけてきた。


「今日は嬉しいわ。グレイ様が友達を連れてきていいって言ってくれたの初めてだから」

「そうなの?」

「ええ。他の友達はすべて断られていたから」

「お茶会とかも?」

「ええ。私には必要ないって言って一度もしたことがないわ」


 珍しいこともあるものだとアイラは思う。普通貴族ならお茶会などで交流を持つはずだ。ましてやセイラは次期聖女になる人物だ。将来のことを考えれば貴族と交流を持ち信頼を深めておきたいはずだ。それを必要ないと言うのはまず考えられないことだ。


 ――じゃあなぜ私は良かったのかしら? 


 アイラは平民だ。貴族ではない。もしかして間違いなのではと思ってしまう。


「何かの間違いじゃない?」

「間違いじゃないわ。だから心配しないで」


 確かにレイも言っていたし、間違いではなさそうだとアイラは安堵する。するとセイラが、


「もうすぐ図書室の手伝いも終わってしまうわね」


 と話を振ってきた。


「そうね。あっという間だったわね」


 結局屋敷に着くまでアイラとセイラは図書室での本の話や図書室に来る人物の話をし盛り上がったのだった。


「着いたわ。ここがグレイ様のお屋敷よ」


 セイラの言葉で着いたのだと気付く。車が止まるとレイがアイラ側のドアを開けてくれた。アイラはお礼を言い車を降りて目の前に広がる屋敷を見て呆気にとられ口をぽかんと開ける。


「大きい……」


 やはり貴族とは住む世界が違うのだと実感させられる。そんなアイラにセイラも苦笑する。


「私も最初アイラと同じ反応だったわ。最近やっと慣れたけどね。さあどうぞ」


 何人かの使用人と召使いに見送られながら中へと入る。王宮とは違うが、かなりの屋敷だ。やはり商人だけあり装飾品や絵画など高そうな物ばかりが飾られていた。見たことがない異国の置物もある。立ち止まりマジマジ見ていると、


「それは隣国の物でございます」


 と執事の者が教えてくれた。


 ――確か伯爵はこの国の者ではないとセイラが言ってたわね。


 だからなのか異国の装飾品が多いように見える。

 そして部屋へと入るとグレイが座って待っていた。


「よく来たねアイラさん」

「ホルスマン伯爵様、今日はお招きいただきありがとうございます」


 頭を下げて挨拶するアイラに、


「かたぐるしい挨拶はなしでいいですよ。さあ座りなさい」


 と笑顔でグレイは告げた。アイラは言われた席に座ると、目の前に並ぶ豪華な料理に目を奪われる。


 ――凄い料理。おいしそうー。さすが貴族の食事だわー。


 王宮でマティスが容易してくれる料理と変わらない豪華さだ。


「アイラさん、今日は気にせず好きなだけ食べなさい」

「ありがとうございます」


 そして食事が始まった。目の前の豪華な料理はとても嬉しいが、やはりグレイが気になって口にする料理の味がよく分からない。それはグレイから感じるある得体の知れない違和感が原因だった。


 ――なに? この感じ。


 それが何なのかわからず、頭で消化しきれず胸の辺りが悶々とする。


 ――魔族や魔物の類いに似ているんだけど、違う。


 精霊魔法士は、人間と魔物、動物、魔獣などの違いに気付くのはわりと得意だ。特に精霊魔法が強い者ほど瞬時にそれを判断できる。だから前世でソフィア――セイラが偽物だと気付いたのだ。

 だが伯爵は、それがはっきりと答えが見いだせない。


 ――前世ではセイラが偽物だと分かったのに、なぜ伯爵は分からないの?


 そう思った瞬間、あることに気付きセイラを見る。


 ――あれ? そういえば前世と違って私、セイラを聖女じゃないと思ってない?


 前世ほど拒否反応が出ていないのだ。


 ――それはまだ正式に聖女になっていないから?


 アイラは首を傾げる。


 ――でも正式に任命されたからと言って聖女の力が上がるわけじゃないし。なぜかしら?


 よく分からない。するとグレイが、


「アイラさん、口に合わないかい?」


 と聞いてきた。どうもアイラが首を傾げているのを食事の味が良くないからだと思ったようだ。


「あ、ち、違います。とてもおいしいです。この食材は何かなと思っていたんです」


 咄嗟に言えば、


「豚肉だ。アイラさんは食べたことなかったかい?」


 と返されギョッとし目の前の料理をマジマジに見る。考え事をしていたせいで何を食べているかまったく気にしていなかったのだ。そして見て驚く。アイラが見ても豚肉だと分かった料理だった。


 ――やってしまった。


 血の気がさあーっと引く。平民だが豚肉が食べれないほど貧乏ではない。だがアイラの言葉を聞いたグレイやセイラは、アイラが豚肉を食べたことがないと思ったはずだ。案の定セイラは、気の毒なアイラと言わんばかりの顔――眉根を下げ哀れむようにアイラを見ていた。


「あ、ああ、豚肉でしたね。あまりに柔らかかったのと盛り付けが素敵で気付きませんでしたー」


 弁解するが、後の祭りだ。


「そうか。たくさん食べなさい」


 グレイはとても優しい表情で言い、「アイラさんにもっと豚肉を」と従者に追加を指示した。


 ――絶対誤解されたー。


 心の中で涙を流しながら目の前の豚肉を嬉しそうに口に運んだのだった。



 食事も何事もなく終わりほっとしていると、


「アイラさん、少し私の書斎を案内してあげよう」


 とグレイが声をかけてきた。もうご飯も食べたし早く帰りたかったが、断る理由も見つからないため、


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」


 と笑顔を見せ応え立ち上がる。セイラも立ち上がりアイラと一緒に行こうとすると、


「セイラは勉強の時間だろ? 家庭教師ももう来ている頃だ。アイラさんのことは私に任せておきなさい」


 とグレイはセイラの同行を拒否した。驚いたのはセイラだ。だが逆らうことは許されないため大人しく従う。


「あ、はい」


 それにはアイラが焦る。


「あの、セイラと一緒ではだめでしょうか?」


 ――この得体の知れない人物と2人きりにはなりたくない。


 だがアイラの意に反してグレイは首を横に振った。


「すまないねアイラさん。セイラには必要な勉強が半年先まで決まっているんだ。1日でも遅れると取り返しがつかなくなってしまうんだ。わかってくれるかい?」


 それは聖女になるためのものだろうとアイラはすぐに分かった。だとすれば無理に引き止めることは出来ない。


「わかりました。知らなかったとはいえ、失礼しました」


 頭を下げて謝る。


「いや、アイラさんは悪くないよ。こっちが悪いんだから気にしないでおくれ。本当はセイラともっと長く一緒にいてもらいたいんだけど、毎日分刻みで家庭教師を頼んでいるから」


 そこでもしかしたらグレイがセイラの友達を招き入れない理由はそこなのではないのかとアイラは思った。


「セイラもわかったね」


 グレイがセイラに念を押す。


「はい、わかりました」


 セイラはグレイに頭を下げると、


「アイラ、ごめんね」


 と両手を顔の前で合わせ謝り部屋を出て行った。

 セイラがいなくなり部屋にはグレイとレイとアイラ、そして執事の4人だけになった。






最後まで読んでくださりありがとうございます。

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