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126 グレイからの誘い



 リュカは学園に来ると胸ポケットに手を当てる。そこにはきのうアイラと行ったケーキ屋でもらったキーホルダーが入っていた。


『ちゃんと持ってるな』


 四竜が嬉しそうに言う。


「持ってなければうるさいからな」

『ほう』

「どうせちゃんと持っているか確認が入るだろうし」

『そんなことをするのか?』


 するとアイラが走ってきた。


「リュカ! おはよ!」

「おはよう」

「キーホルダー、ちゃんと持ってる?」

「ああ」


 そう言って胸ポケットからキーホルダーを見せる。


「うん。よろしい。じゃあね」


 アイラは満足そうにそのまま去って行った。リュカは四竜達に向けて笑いながら言う。


「だろ?」

『ほんとだな。よくわかっておる』


 満足そうに歩くリュカに、


『元に戻ったな』


 と告げる。


『イライラがなくなったな』


 言われてみれば確かに意味不明の胸のモヤつきもイライラもなくなっている。やはりアイラが関係していたのかと思うが口には出さない。四竜の言う通りだったとなると負けた気分になるからだ。それに、


 ――どうせ四竜にはばれているはずだ。ならば口に出すのも癪だ。


 そう思っていると、案の定、


『我々の言う通りだったであろう?』

『口に出してもいいのだぞ』

『やはり我等が言うように素直に生きることだ』

『ほんと素直じゃないな』


 とリュカが思っていることに対しての言葉が返ってきた。やはりばれているのだと確信しムッとする。


「俺にプライベートはないのか?」

『気にするな』

「気にするわ!」




 アイラは教室へ入ると、すぐさまサラにきのうリュカとケーキ屋へ言ったことを話した。そんなアイラにサラは、


「アイラ、元気になったわね」

 と笑う。


「うん。だっておいしいケーキをタダでいっぱい食べれたのよ? 嬉しいに決まってるわ」

「そういう意味じゃないんだけど」

「どういう意味?」

「デートして嬉しそうねって話」

「デート?」

「そうでしょ? だって恋人と行くと良いと言われるケーキ屋に行ったんでしょ? そう思うのが普通でしょ」


 そこでアイラは気づき、どんどんと顔を赤らめる。茹で蛸状態になったアイラを見てサラは苦笑する。


「今気付いたの?」

「うん」


 自分はまったく関係ない話だと思っていたのと、リュカと2人でいるのが最近は普通になっていたため、まったくそのような考えに至らなかった。リュカも普通だったため余計に気付かなかったのもある。


「あんたたち2人とも鈍感そうだもんね」

「だ、だってそういう関係じゃないし」


 リュカとはサラ達と一緒で大事な友達という認識だ。


「そうだとしても、端から見ればそう見えるっていう話よ」

「うっ!」

「でも2人は今のままが自然体でいいと思うから変に気にしないようにね」

「余計に気にするわよ!」


 突っ込みを入れていると、


「アイラ」


 セイラが声をかけてきた。サラとセイラは一瞬目を合わせたが2人は目をそらし話す。この気まずい雰囲気を一掃するようにアイラはセイラに声をかけた。


「な、なに? セイラ」

「ちょっといい?」

「うん」


 セイラは踵を返すと教室を出て行ったため、アイラも席を立ちセイラを追いかけ教室を出る。


「どうしたの?」

「今日、図書室の仕事が終わったら私の家にご飯食べに来てほしいの」

「え?」

「お願い!」


 両手を合わせ懇願するように言うセイラにアイラは戸惑う。


 ――ちょっとまってよ。あなたの家にはレイがいるんでしょ? 行きたくないわよ!


「ごめん、今日は……」


 断ろうとすると、セイラはアイラに話させないようにかぶせるように言ってきた。


「この前、今日は何も用事ないって言ってたわよね?」

「うっ!」


 確かに先週聞かれたことを思い出す。


「大丈夫よ。ご飯を食べるだけだから。それに今回私の後見人の伯爵様からのお願いなの。アイラに一度会いたいって言ってるのよ」

「伯爵さまが?……」


 伯爵が言っているならば断ることは出来ない。仕方なく承諾する。


「わかったわ……」

「ありがと。じゃあ楽しみにしてるわ」


 セイラは嬉しそうに声のトーンを上げ喜ぶと去って行った。その背中を見送っていると、


『大丈夫なのか?』


 と四竜の赤竜が心配そうに声をかけてきた。


「セイラだけなら断れるけど、今回は伯爵様からの申し出だから断ることは許されないわ」


 学生だからと言って伯爵の地位にいる者からの誘いを簡単に断ることができない。


『そうか。だが我は奥深くに鳴りを潜めておるからな』

「一緒に来てくれるの?」

『しかたないであろう。お主を1人で行かせるには心許ないからな』

「でも前、確か伯爵様は四竜を感知出来るから面倒だって言って隠れたわよね?」

『ああ』

「大丈夫なの?」


 見つかったら面倒だと言うぐらいだ。何か四竜にとって良くないことでがあるのだろう。それなのに付いてきてくれると言う四竜にありがたいが、やはり心配になってしまう。


「ねえ。見つかるって言ってたじゃない? それって伯爵は四竜達のことを知っているということよね?」

『お主、たまに鋭いな』

「たまは余分よ。こう見えても前世では精霊魔法士長までいった私よ」

『精霊魔法士自体がいなかったからであろう』

「……痛いところつくわね。そんなことはいいのよ。誤魔化さないでよ。どうなの?」


 だが赤竜はそこで話さなくなった。こうなると何度聞いても赤竜は応えないだろう。

 人生には何度もターニングポイントがある。今、事実を知るとアイラの未来に影響が出る場合、四竜は教えてくれない。向かいたい場所へ行きたいのに間違った選択をすると修正が難しくなるからだろう。だから今赤竜はアイラに話さないのだとアイラは解釈した。


「はあ。私はまだ知ってはいけないってことね」


 だが赤竜はアイラが思っているのとは違う返答をした。


『そういうことではない。あやつが我等を知っているかは我等でもわからない』

「そうなんだ。知ってるのかと思ったわ」

『我等もあの者のことは知らない。ただ不気味だというだけだ』

「不気味?」

『うむ。お主と一緒だ。何か得体の知れない感じがするのだ。我等が生きてきた中で、あまり遭遇したことがない者だ』


 四竜が生きてきた時間は長い。それなのに四竜でもあったことがないというのは確かに良い感じではない。


「じゃあなんで伯爵様が四竜達を感知出来るって分かったの?」


 四竜が遭遇したことがないのになぜなのかアイラは疑問が沸いた。


『それは人間で言えば本能というものに近いか、危機察知と言った方が分かりやすいか』


 理由は分からないが、これは危険だとか思う時がある。それと同じということのようだ。


 ――やはり竜って獣の類いだからそういうのが分かるのかしら?


 そう思っていると、間髪入れずに赤竜は、


『獣ではない! 我等は国守玉から作られた竜だ。一緒にするのではない』


 と強く否定された。何が違うのかアイラには分からないが、獣と同じ種類に分類されるのは相当嫌みたいなのだけは分かった。


「ごめんごめん」


 アイラは軽く謝る。


「それは国守玉から危険だと言われてるってこと?」

『いや違う。国守玉からは何も聞いておらぬ』

「そうなの?」


 四竜は国守玉が作った竜なのだから、四竜同士のように国守玉と意思疎通をしているのではないのかとアイラは思っていたのだが違うようだ。


『国守玉から必要な情報だけが入っている感じだ。こちらから聞くことはできぬ。ジン達と同じ一方通行だ。ただ……』

「ただ?」

『国、国守玉にとって敵か味方かは本能で分かる。あの者は味方ではないということは断言できる』

「!」


 アイラは恐怖と緊張が押し寄せる。それを分かった赤竜が大きく嘆息しぼやく。


『だからお主に言うのは嫌だったのだ』


 アイラは目を瞬かせる。自分が怖がるから最初赤竜は黙っていたと言うことか。


「もしかして、私に気を使って黙ってたの?」

『そうだ。だがお主の考えとは少し違う。お主にすべて話すと、すべて顔に出るし、口に出して言うからだ』

「うっ!」


 気を使ってではなく、情報が敵にばれることを恐れてだったようだ。確かに反論できない。正直に訴え、批判したため前世では殺されたのだ。自分の性格に消沈していると、


『このことをリュカとジンにはお主の口から伝えた方がいいのではないか?』


 四竜は情報を共有する。今この時点で他の四竜は赤竜からの情報を取得しているはずだ。だからリュカに言おうとすればすぐに言える。だが四竜はアイラからちゃんと言った方が良いと言う。

 アイラはもし報告したら2人から反対される映像が脳裏に浮かぶ。


「絶対に反対するよね」

『……だろうな』


 赤竜もそれには同意見だ。


「だから赤竜、2人には言わないで」

『言わずに行くつもりか?』


 それには赤竜は反対の意思が伝わってくる。


「ええ。だって行かない選択なんてないんだもの」

『だから2人に報告をした方がいいのではないのか?』

「大丈夫よ。ご飯を食べるだけだし、セイラもいるし。だから他の四竜達にリュカには言うなって言っておいてよ」


 四竜はこの時点で共有しているはずだ。だから内緒は無理だ。なら四竜で止めてもらわなければならない。


『だがなー』


 赤竜はまだ納得がいかずに渋る。アイラはレイが前世で自分を殺した人物だということだけは知っている。だがグレイとレイが、あの『罪人の墓場』に送った魔術玉を作った者達だとは知らない。だとしても少し警戒心が足りないように思えて仕方がない。それにアイラはこの前、レイを見て発作を起こし倒れたのだ。不安しかなかった。

 赤竜がそんな心配をしているとは知らないアイラは、明るい口調で持論を述べた。


「赤竜は付いてきてくれるんでしょ? なら何かあればすぐに他の四竜に伝えてくれるだろうから大丈夫よ。それに聖女の後見人なんだから、下手なことは出来ないわ」


 こういう警戒心が足りないのが命取りになることをアイラはわかっていないと赤竜は嘆息する。


『そうだが……レイとか言う男は大丈夫なのか? お主、あやつに訊ねられた時倒れたであろう?』

「――」


 アイラから笑顔が消える。確かにレイがいるのはいい気分ではない。


「大丈夫よ。あの時はちょっと過去のことを思いだしただけだし。それにあの人はまだ私を殺そうとは思っていないこともこの前分かったし」


 レイはただアイラの態度が気になっただけだ。それで興味を持ったに過ぎない。だからまだ殺そうとしているわけではないのだ。ならば大丈夫だと自分に言い聞かすように納得させる。


「だから言わないでよ」


 この話は終わりだと言わんばかりに語尾を強くし念を押すアイラに、赤竜はただ嘆息するのだった。







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