125 ペアキーホルダー
「アイラはなぜマティスじゃ駄目なんだ?」
つい聞いてしまいハッとする。
「あっ、悪い……」
だがアイラは別に気にしていないと首を横に振り微笑みながら応えた。
「自分でもわからない。マティスはすごく優しいし気をつかってくれる素敵な皇太子よ。ちょっと自己中なところはあるけど、それは皇太子だから仕方ないわね」
確かにマティスは自分がこう思ったら突き進む傾向があるとリュカも同意見だ。
「でもそういう関係じゃないのよ」
「それは身分の違いからか?」
前世でもアイラは、断る理由として身分が違うとよく言っていたことを思い出す。
「それは断る言い訳」
そう言いながらアイラは苦笑する。
「だって一番断る良い言い訳でしょ? そうじゃないとマティスは諦めないもの」
そこでリュカはまた思う。今世ではまだマティスはアイラに告白をしていない。だがアイラの言い方では告白された後の言い方だ。もしかしてマティスはアイラに告白したのかと思うが、この前のマティスの言葉からしてまだしてないのは確実だ。ならば今アイラが話しているのは前世のことなのだろう。だが、今話していることは前世のことだということに本人が気付いてないのはどうなのかと不安が過る。
――前世では気付かなかったが、アイラは嘘が苦手だ。すぐに顔に出る。そして今も前世のことを疑いもなく話している。大丈夫なのか。
つい心配になってしまう。
そこへ女性店員がやって来た。
「お待たせしました。こちらが商品に付いてくるキーホルダーです」
そう告げると、ハートのキーホルダーを置いていった。
「?」
「このケーキ食べ放題と飲み物を頼むとこのキーホルダーが付いてくるんだって」
アイラの説明を聞いてリュカは言う。
「いらないだろ」
だがアイラは聞こえなかったのかそれには応えず、
「これすごいのよ」
そう言って2つのキーホルダーを手に取ると2つを別々にした。
「男性が持つ方はハートの真ん中をくり抜いた丸型になってて、持っていても恥ずかしくないようになってるの。考えてあるわね」
確かによく出来ているが、やはり自分には必要ないとリュカが思っていると、
「はい。これリュカの」
と丸型のキーホルダーを渡してきた。
「いらない」
間髪入れずにきっぱり断る。
「もう、つれないなー。いいじゃない。記念にもらいなさいよ」
「何の記念だ。いらない」
「ほら、もらって」
「聞いていたか? いらないと言った」
少しムッとしながら言うが、アイラも負けてはいない。
「もらえと言ったわ。それに今日は何でケーキ屋に来たんだったっけ?」
「……」
それを言われてしまうと何も言い返せない。
「……強制かよ」
「うふふ。そうよ。でもこれってただのキーホルダーじゃないのよ」
そう言うとアイラは丸型のキーホルダーを握ると精霊魔法の魔力を注ぎ込む。
「魔道具か」
「うん。でも高い物じゃないから、使い切りだけどね。はい」
アイラはリュカにキーホルダーを渡す。
「そこに回復魔法を付与しておいたわ。何かあった時に役立つと思うわ。あなた、いつも危ないことしてるから。これなら持つでしょ?」
ここまでしたのだから断ることができないでしょと言外に言う。確かにアイラの言う通りリュカは断ることは出来ない。アイラの勝ちだ。
大きくため息をつき、
「ならそっちを貸せ」
と、アイラの手元からハートの形をしたキーホルダーを取り上げる。そして掌に乗せると、アイラと同じように魔力を入れ込んだ。だがアイラとは違い、いくつもの小さな魔法陣が出現しては消えるを繰り返す。リュカの手元でさまざまな色とりどりに光る魔法陣にアイラは見入る。
「花火みたいで綺麗……」
つい言葉が漏れる。初めて見る子供のように目をキラキラさせて見ているアイラにリュカは微笑みながら、付与が終わるとアイラに返す。
「そこにお前を守る防御結界やどこにいるか分かるようにしておいた」
その言葉を聞いてアイラは驚く。
「ちょっとまって! そんなに付与出来ないでしょ?」
「だから書き換えた」
「え? そんな高度なことリュカ、もう出来るの?」
「できる」
物質自体を変えるのは相当な魔力と技術がいる。それを学生のリュカが出来るのにアイラは驚き、そこで気付く。
――忘れてたけど、この人将来の『大魔術師さま』だったわ。
「ありがと。いつも持ち歩くね」
「ああ」
「だからリュカも持ち歩きなさいよ」
「……」
黙って目線を外すリュカを見て、絶対に持ち歩かないと分かったアイラは、リュカのキーホルダーをリュカの制服の胸ポケットに強引に入れる。
「おい!」
「絶対にここに入れときなさいよ」
そして立ち上がり声を大にして言う。
「もしかして私に言えない持てない何か理由があるの!」
「は?」
何を言い出すんだと思っていると、なにか視線を感じ周りを見る。すると皆リュカを怪しげな顔で見ていた。
「!」
自分が注目の的になっていることにリュカは焦り、慌ててアイラへ言う。
「違う。だから座れ」
アイラと言えば満足そうに笑顔になり席につく。そこで気付いた。
「おまえ、わざとしたな」
「うふふ。そうしないと持ち歩かないでしょ?」
毎日のように一緒にいたからか、アイラの言動や行動は把握出来るようになっていたが、アイラも同じく自分の行動を把握しているのだと気付き嘆息する。
――やっかいだな。
だが不快ではない。だから嫌ではない。
そんな2人のやり取りを見ていた四竜達は2人に聞こえないように話す。
『この2人、何をしているのだ?』
『番がすることをしておるのだろ』
『だが当の本人達はまったくそういう気持ちはないけどな』
呆れた表情で言っているが、
『まあこの2人は今はこれでいいのではないか?』
『そうだな。お互い思いあって付与した物で満足しているのだからな』
そして笑っている2人を見て、
『リュカも戻ったな』
『うむ。この前の時が嘘のようだ』
『アイラも元気になった』
『やはり2人で笑っているのが一番良いのう』
と四竜は満足そうに笑うのだった。
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