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12 追試 魔術は苦手です



 それからアイラとマティス達は会うことはなかった。安心しているのもつかの間、別の大きな問題がアイラに立ち塞がっていた。


 初めての魔術の実戦テストで赤点をとってしまったのだ。

 原因は、精霊魔法が得意だったため、魔術の勉強をしてこなかったからだ。


 普通は小さい頃に魔術の基本を習得するのだが、両親がアイラは精霊魔法でやっていくのだと決めつけ、まったく魔術の練習をやらせなかったのが原因だ。

 そして一番の原因は、アイラが魔術の実践テストを甘く見ていたことだ。

 本で勉強もして頭では理解していたし、前回の人生で魔術士達のを見て簡単にできると思っていたのだ。精霊魔法が出来るのだから魔術も一緒だと。


 だが、実際やってみると、まったくうまくいかなかったのだ。

 もし分かっていたら魔術士を目指さなかったと今さらながら後悔する。


 サラはアイラのテストを見て机に塞ぎ込むアイラに苦笑する。


「ほんとアイラ、凄い点数ね」


 100点中15点の最下位の文字。


「アイラ、よくこれでこの学校受かったわね? まさかコネ?」

「違うわよ! うちは一般的な家庭よ! だからまず無理よ! ってかストレートに聞き過ぎ! 筆記テストは得意なの! 受験は技術テストがないからよかったの!」


 身を乗り出し全力で否定するアイラにサラは苦笑し、まあまあと落ち着かせる。


「で、今日から2週間補習授業ってやつなのね」

「うん。だからサラ、先帰っていいよ」

「そうするわ」


 サラは立ち上がる。


「え? もう帰るの?」

「うん。先に帰っていいと言ったのはアイラよ」

「そうだけど……。ちょっとあっけなくない?」

「そんなことないわよ。じゃあね。また明日」


 そう言うとさっさとサラは帰って行った。


「薄情者……」


 けっこうさっぱりしていて男気がある性格は嫌いじゃないが、こういう時はもう少し女の子特有の慰め合いをしてほしいものだと口を尖らせる。


「仕方ない。補習授業がんばるか!」


 アイラは立ち上がると教室を出て補習授業が行われる教室へと移動する。


「この部屋よね」


 そっと扉を開け中に入る。そこにはアイラと同じように赤点を取った者達がいた。だが人数はアイラを入れて3人だけだ。


「少ない……」


 ――それも女性、私1人……。


 アイラは用意された席に着き、他の2人をちらっと見る。


 1人は赤毛で銀のメッシュが入り、学生服の上着は羽織っているだけで、下はタンクトップで首にはペンダントをし、仰け反るように座っていた。


 ――この人、不良?


 もう1人は薄紫色の髪でメガネを欠けた男性だ。見た感じまったく不良には見えない。


 ――この髪色って魔力に特化しているんじゃ? なのに赤点?


 すると1人の男性の若い教師が入って来た。そして書類を肩に乗せてにぃっと笑う。


「よーし、補習授業するぞー。補習授業担当のジン、26才、独身! ただいま彼女募集中。よろしくな」

「かる!」


 つい口に出す。するとジンはアイラへと視線を向けて片方の口角を上げる。


「おー、いいねー。そ、俺、軽いのよ」


 他の2人の男子生徒は、興味がなさそうに冷めた目でジンを見ていた。


「俺は非常勤の教師だからなー。ちょっと違うかもなー」


 そこでアイラは思う。


 ――ジンって名前どこかで聞いたような?


 前回の時、マティスが言っていたことを思い出す。


「ジンって言う今はフリーの魔術士がいるんだけど、ユーゴ以上の力を持っているんだ。最初は王宮魔術士団として働いていたんだけど、急に辞めて放浪の旅に出て行ったんだ。ユーゴはジンを王宮魔術士団に戻したいみたいなんだけどね。今どこにいるのか分からないらしくてさ」

「辞めたのに戻したいなんて、グリフィス魔術師団長は相当気に入ってるのね」

「そうみたいだね。ジンの特殊能力を高く買ってるって言ってたなー」

「珍しいわね。グリフィス魔術師団長ってあまり他の人を褒めないのに」

「そうなんだよ。いろいろな魔法が出来て技術もトップクラスらしく、一部の者からは『魔法使いジン』って言われているらしい」


 思い出しながらつい、声に出してしまった。


「魔法使いジン……」


 するとジンが驚きアイラを見る。


「へえ、そのあだ名を知っているか。珍しいな。そのあだ名は一部の者しか知らないんだけどな」

「え? あ、どこだったかなー……聞いたの。なにか不思議な感じだったから覚えていたんです」


 咄嗟に誤魔化す。


「そっか」


 ジンはそれ以上突っ込んでくることはなかったのでアイラは安堵する。


「じゃあ時間がねえから補習授業始めるぞー」


 そして補習授業は授業が終った後2時間びっちり行われた。



 そして5日が過ぎた。


「お前らー、やる気あるのかー?」


 ジンが教卓に肘を突き呆れたように言う。


「まあ、アイラはやる気はあるみたいだが?」


 アイラはうんうんと頷く。


「だが魔術、まったく上達しねえな」

「うー!」


 アイラはそのまま机に顔を埋めた。それを見て赤毛の男子生徒ライアンが笑う。


「あはは。アイラおもしれえな」


 するともう一人の薄紫色の男性生徒のカミールもクスクス笑う。


「ライアン、そうはっきり言っちゃだめだ。アイラがかわいそうだ」


 するとアイラがばっと顔を上げる。


「ライアン! カミール! うるさい! あんた達も一緒でしょ!」


 5日も経てば、人見知りのアイラでも普通に話すようになっていた。

 するとジンが言う。


「アイラ、こいつらはお前とはちょっと違うぞ」

「え?」


 どういうことだと首を傾げると、


「こいつら、実力はトップクラスなんだが、やらないだけだ」

「へ?」

「ライアンはこの学校の学園長の息子で、親に反発して勉強をやらねえだけ。で、カミールは実力があり過ぎて学校の授業がつまらないからやらないだけ」

「はあ?」


 アイラは大声を上げる。


「だから実質アイラだけが実力がないってやつだ」

「まじ……」


 アイラは目が点になる。まさか自分だけだとは。ショックからかフリーズする。


「私……だけ……」


 するとライアンが大笑いする。


「あははは。アイラ、よかったなー。前代未聞みたいだぜ? 赤点の生徒」

「こら、ライアン、事実を言ってやるな」

「ジン先生、ホロになってないよ」


 カミールもクスクス笑いながら言う。だがアイラには耳に入ってなかった。


 ――やばい。これは多いにやばい!


 顔を青ざめて下を向いているアイラにジンは言う。


「まあ、アイラの場合、ただ追いついていないだけだ」

「え?」

「お前、基礎も習ってないだろ?」

「はい」

「だから魔力の技術が幼稚園並みだってことだけだ」

「幼稚園……並み?」

「そうだ。経験値が足りないだけだってことだ」

「じゃあ?」

「ああ。コツさえ掴めば出来るってやつだ。あとは経験だけだな」


 そこでチャイムが鳴る。


「よし、今日は終わりだ。また明日な」


 ジンはそう言うと教室を出て行った。ライアンとカミールも席を立ち帰ろうとするが、アイラはまだその場に座ったままのため、どうしたのかとライアンが声を掛ける。


「アイラ? どうした? 帰るぞ」


 一緒に補習を受けてから帰りは外が暗いため、2人が一緒に帰ってくれていた。


「ごめん、先帰って」

「なんでだよ」

「今日は迎えが来る予定なの」

「そうか。じゃあまたな」

「またね」

「うん」


 2人が去ってからアイラは1人中庭へと移動する。そこで1人基本の魔術の出し方を本を見ながら練習する。だが何度やってもうまくいかない。

 理由は分かっている。基本も親から教わっていないからだ。

 アイラはベンチに座り嘆息する。


「まず魔力の出し方から分からないんだから、救いようがないよね」


 すると後ろから声がする。


「やっぱそうか」

「そりゃあ出来ないのは当たり前だよね」


 アイラはばっと後ろを見る。そこには帰ったはずのライアンとカミールがいた。



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