124 デート
「捕まえた!」
声と同時に後ろから腕を掴まれた。
「!」
驚き誰だと振り向けば、アイラだ。
「リュカ! 逃がさないわよ!」
笑顔で言うアイラをリュカは目を見開き見入り、そのまま固まる。いきなり驚いた顔をし、じっと見入っているリュカに、アイラの方が眉根を潜め首を傾げた。
「な、なに? どうしたの?」
そこでリュカははっとし腕を払いのける。
「なんでもない」
そして前を向きそのまま歩きだそうとするリュカの腕をアイラは両手で握り締め止めた。
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
リュカは仕方なく止まり嘆息しながら言う。
「なんだ?」
「なんだじゃないわよ! あなた! 私のこと避けてるわね!」
「!」
唐突に言われた言葉にリュカは反応出来ず肩を鳴らす。
「やっぱり!」
「避けてない」
「嘘よ! だって赤竜が教えてくれたもの!」
「!」
そこで自分の中にいる3体の四竜を思い浮かべる。四竜同士は情報を共有していると言っていた。ならば先ほどのジンとの会話をアイラの所にいる赤竜に伝わっていることは想像出来た。
――おい。
その一言で四竜は理解出来たようだ。
『ただお主がアイラを避けておるみたいだとだけアイラに伝えただけだ』
「余計なことを」
ムッとして視線を横に向けていると、アイラが自分の両手でリュカの頬を挟みグイッと自分の方に向かせた。
「こっち見なさいよ」
「……」
唐突な行動とあまりの強引さにリュカは大人しく従いアイラを見る。
「なんで避けるのよ」
「別に……」
マティスのためだからとは言えず、どう応えるのが正解か逡巡していると、
「どうせマティスのためでしょ!」
と当てられた。驚き見れば、
「やっぱり……」
とアイラは頬を膨らませムッとする。そしてリュカの頬に当てていた手を外すと少し寂しそうに呟いた。
「なぜそんなことするのよ」
「それは……」
アイラの態度に後悔が押し寄せ視線を外し返答に躊躇する。アイラはマティスのことを前世から友達以上に思っていない。なのに今回もまた自分はアイラの気持ちを無視した行動を取っているのだ。
――先生の言う通りだ。俺はまたマティスの気持ちを優先――。いや違う、自分の気持ちを優先したんだ。
奥歯を噛みしめる。
――結局またアイラの気持ちを無視している。
そんな自分に嫌悪感と羞恥心を感じる。
「私はそんなことをリュカに願ってないし、してほしくなかった……」
俯きながら言うアイラもまた自身の感情に戸惑いながら話していた。
赤竜から「リュカがお前を避けている」と聞かされた時、「やっぱり」と思った。前世でもそうだったからだ。
前世でマティスがアイラと会う時はいつもリュカは席を外していた。その行動と今回の行動が類似していたからだ。
だが前世では感じなかった疎外感がアイラを悲しくさせた。今世では友達という身近な存在だからだろう。なぜかリュカにそうされたことがとても悲しかった。そして怒りも感じた。
だからリュカの胸元の服を両手で握り締め、
「私はリュカにそんなことをされたくなかった!」
と語尾を強めリュカに思いをぶつけた。言葉にしたからか涙が出そうになる。だがここで泣くのは違うと思いぐっと堪える。だが顔を上げることが出来ないため下を向いたままもう一度懇願するように言う。
「そんなこと……しないでよ……」
リュカは自分の胸元を握り下を向いて切実に訴えるアイラを見て、後悔と罪悪感に苛まれる。なぜだか分からない。だがすべて自分が悪いことだけはわかった。下を向いて泣いているように見えるアイラに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「……ごめん」
自然と口から出ていた。それは心からの謝罪。
「悪かった」
するとアイラが言う。
「何をしてくれる?」
「え?」
唐突に言われた言葉にリュカは目を瞬かせると、アイラが顔をあげ目をキラキラさせてもう一度言った。
「じゃあ何をしてくれる?」
――泣いてたんじゃないのか。
この状況について行けないリュカはただその場で絶句するだけだ。そんなリュカを楽しむようにアイラはにぃっと笑い言った。
「ケーキ食べたいな」
◇
次の学校が休みの日、リュカとアイラはケーキ屋にいた。
目の前で何種類のケーキを嬉しそうに頬張るアイラを見て、リュカは肩肘をたて嘆息して呟く。
「騙された……」
「らましれないれしょ。ほっちがわってにむいてるとおもっられそ(騙してないでしょ。そっちが勝手に泣いてると思っていただけでしょ)」
「食うか喋るかどっちかにしろ」
アイラは口の中のケーキを飲み込み言う。
「でも悪いのはリュカなんだから奢るのは当たり前でしょ」
「奢るのが当たり前ではないと思うが……」
だがアイラからの返事はない。またうれしそうにケーキを食べている。リュカは嘆息しコーヒーを飲み周りを見る。よく見れば若い男女ばかりだ。
「男女ばかりだな」
「ここのケーキ屋、すごくおいしいんだけど、恋人同士とかの男女じゃないと入りづらい店で有名なの」
そこでリュカは気づき目を細める。
「だからか」
「うん!」
頷きながら嬉しそうに何個もケーキを食べるアイラを呆れる。
「よく入るな」
「ケーキは別物よ。なかなか食べれないから」
――この前サラと食べたけど。
「ケーキ好きなんだな」
「うん。大好き。本当はケーキ屋で働きたいんだけどね」
「働けるだろ」
「この学園に入ったら簡単には無理よ。働くの禁止だし、卒業すれば就職だし……」
学園アデールに入学し卒業すると、成績が優秀な者は王宮で働くことができ、王宮で働けない貴族の者は家を継ぐ者がほとんどだ。そして一般人になると、学園が指定する職場へ就職するのが決まりになっていた。そのためケーキ屋で働くのはまず無理な話なのだ。
「でも今回は諦めないわ!」
「……」
「今回は」とは、前世で無理だったから今世ではという意味なのだろう。
――相変わらず、たまにボロを出す。
だが当の本人はそれにはまったく気付いていない。それがおかしく思うし心配になる。
「わー! このチョコのケーキ、大好きなのよね!」
そう言ってまた嬉しそうに食べ始めるアイラを見てリュカは、前世でよくマティスがアイラをお茶に誘っていたことを思い出す。
そしてそこで気付いた。
マティスがよくアイラをお茶に誘っていたのは、アイラがケーキが好きなことを知っていたからだ。そして用意された色々なケーキは、すべてアイラが好きなケーキばかりだったのだ。
――相変わらずマティスは優しいな。
今思えばマティスはよくアイラの気を引くために色々していた。
――皇太子がすることじゃないだろ。
そう思うと頬が自然と緩む。だがそこまでしてもアイラはマティスになびかなかった。
それはなぜなのか?
おいしそうにケーキを食べているアイラを頬杖を付きながらぼーと眺めていたリュカは、気付いたら聞いていた。
「アイラはなぜマティスじゃ駄目なんだ?」
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