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118 マティスの告白



 王宮に着くと、セイラは初めて見る絢爛豪華な作りの建物や装飾品に視界に映る360度をキョロキョロしながら口をポカンと開けて歩いている。前世のセイラとはまったく違うためアイラは複雑な気持ちになる。

 前世での聖女ソフィアとして振る舞っていたセイラは、今では考えられないほど今と違っていた。小説に出てくる悪役令嬢のような傲慢な態度で上から目線な感じだったのだ。


 ――いつから変わったのかしら?


 聖女ソフィア(セイラ)と初めて会ったのが、アイラが精霊魔法士長になった時だ。イライザが病死で亡くなり、精霊魔法が強かったアイラが働き始めて3年の22歳という早さで精霊魔法士長に抜擢された。精霊魔法士長しか聖女ソフィアと話すことが許されなかったため、アイラが初めてソフィアと顔を合わせたのがこの時だった。

 もうその時には傲慢で我が儘な聖女様というレッテルが貼られていた。現に初めて顔会わせの時には、アイラが挨拶しても、ただ敵視するような冷たい視線を向けていただけだった。もしかすると、あの時からマティスのことが好きでアイラに敵意を感じていたのかもしれない。


 そんなことを悶々と考えながら目の前に並べられていく食事を凝視していると、


「アイラ、何か嫌いな食べ物があるのかい?」


 とマティスが訊いてきた。


「え?」


 そこで目の前の豪華な食事を見る。そこには嫌いな物などなく、すべてアイラが大好きな食べ物ばかり並んでいた。それを見た瞬間、悶々とした気持ちは一瞬で吹っ飛んだ。


「ぜんぜん! すべて私が大好物なものばかりだわ!」

「ならよかった。じゃあ食べようか。セイラさんも遠慮なく食べてね」

「はい! ありがとうございます!」


 セイラも笑顔で応える。


 その後は、問題なく普通の食事会が進んでいった。食べ終わる頃にはセイラも慣れたのかマティスへ質問するまでになっていた。


「殿下は何かご趣味はありますか?」

「趣味かー。これと言ってないかな。でも魔術は好きだね。出来れば自分で身を守れるほどの魔術が出来ればいいんだけどね。立場上させてもらえないんだ」


 そう言いながらちらっと部屋の隅にいるケインとギルバードを見る。だが2人は苦笑しているだけだ。


 ――どうせ2人にやらせてくれって言ったんだろうな。


 マティスは魔術も剣もある程度得意だ。だが皇太子という体場上させてもらうことが出来ない。前世もリュカが専属にマティスについていたほどだ。


 ――そういえば、今日結局リュカに会えなかったな。


 お礼を言いたかったのにと寂しく思う。夕食もリュカもいるかと思っていたがいなかった。何か用事があったのだろうが、いつもマティスの側にいるリュカがいないのは変な感じがしてしまう。そんなことを思っていると、セイラのマティスへの質問はまだずっと続いていた。


「殿下は休日はどのように過ごされているのですか?」

「殿下の一番好きな食べ物は何ですか?」


 など、ほとんどお見合いのような感じだ。その横で聞いている自分は仲介者の感じかなどと思っていると、


「殿下の好きな女性のタイプはどのような方ですか?」


 と言う言葉がアイラの耳に聞こえて来た。反射的にマティスへと視線を見ると一瞬目があった。その瞬間、大きく鼓動が跳ねた。それは一番恐れていたものだ。

 アイラはマティスから視線を外し、目の前の料理をホークで取り口に運び笑顔を作り、何も気にしていない振りをする。


「僕が好きな女性のタイプは、身分に関係なく誰にでも同じように接することができ、自分の意見をしっかり持っていて、僕に対してもきちんと駄目なことは駄目だと言ってくれる人かな」


 マティスの説明を聞きながらアイラは恥ずかしくなり、顔を上げることが出来ない。この言葉にアイラは覚えがあった。前世でマティスに告白された時に言われた言葉だったのだ。



【前世】


 アイラが精霊魔法士長になって半年たった頃だ。

 王宮でマティスの書斎に報告しに来て終わった時だ。いきなり告白された。


「アイラ、君のことが好きみたいだ。結婚してくれないか?」


 最初、何を言われたのか理解出来なかった。そりゃそうだ。今アイラは精霊魔法士の仕事の報告をしに来て終わったばかりなのだ。どうしたら告白になるのかが理解不能だったのだ。

 だからアイラは告白された後では有り得ない、仕事の時と同じ口調で淡々と訊いた。


「マティス、今私、マティスから告白された?」

「ああ。告白した」


 マティスも普通に言い返す。だからなのかアイラも普通に言う。


「ごめん。マティスをそういう対象には見れないからお断りするわ」

「はあ。やはりそうかー」


 マティスは椅子の背もたれにもたれ項垂れる。そんなマティスにアイラは目を細めて訊く。


「ねえ。普通こんな所で告白する人なんている?」

「うん。ここに」


 自分自身を指差しながらあっけらかんと言うマティスにアイラは大袈裟に嘆息する。


「はあ。あのね。普通は執務室で告白なんてしないわよ」

「仕方ないよ。なかなかアイラと2人きりになる時がないんだから」


 確かに今珍しく執務室にいるのはアイラとマティスだけだ。いつもなら宰相や護衛の者がいたりするのだが、今たまたま誰もいなかった。


「だからって執務室でするものじゃないでしょ? 女性っていうのはね、ロマンティックな場所でしてほしいものなのよ」

「じゃあ、アイラが言うロマンティクな場所で告白したら結婚してくれるかい?」


 マティスはもたれていた椅子から起き上がり前のめりになり言う。だがアイラは、


「しないわよ」


 と冷めた目で一刀両断する。


「そっかー」


 マティスはまた椅子に背を預け言う。そんなマティスにアイラは訊ねる。


「ねえ。私のどこがいいの? 顔も良くないし、身分もいいわけじゃないし、マティスに怒ってばかりだし、言うこともきかない女よ」


 するとマティスは微笑み言う。


「顔なんて関係ないよ。それにアイラは可愛いよ」

「お世辞はいいわよ」


 顔を赤くして横を向くアイラにマティスは「そういうところが可愛いんだ」と言い続ける。


「アイラは、僕のような身分の者にも関係なく普通に接っしてくれるところや、自分の意見をしっかり持っていて、僕に対してもきちんと駄目なことは駄目だと言ってくれる。そういうところに僕は惹かれたんだ。それにちょっと抜けているところも好きだし、嬉しそうに食べるところも好きだし」

「もう言わなくていいわ。訊いた私が間違ってた。すごく恥ずかしい」


 そう言って両手で真っ赤な顔を隠すアイラに、


「そういう真っ赤になって照れるところも好きなんだ」


 とダメ押しをしたのだった。



【今世】


 そんな前世のことを思い出し顔を赤くして下を向き食べ物を食べているアイラを見て、


 ――可愛い。


 とマティスは微笑む。それを見たセイラは、やはりマティスはアイラのことが好きなのだと確信し、なぜアイラなのか、なぜ自分ではないのかと机の下で拳を握りアイラを見る。


 顔は悪くない。性格も別に普通だ。落ち着いてはいるが、たまに抜けているところもある。そこがいいのだろうか。だが後は他の者とあまり変わりはないように思える。成績も良いわけでもないのになぜマティスは好意を寄せているのか?


 そこでレイを浮かべる。


 ――レイさんもそうだ。聖女である私には見向きもしないのに、アイラには興味を示してた。


 そこでセイラは昔を思い出し唇を噛む。

 母が亡くなり、義父の仕事がうまくいかなくなり生活が苦しくなり、弟と妹を養うために働き始めた頃、街でサラを見かけた。サラは綺麗に着飾り、笑顔で使用人らしき者と買い物を楽しんでいた。それを見た時、なぜサラは幸せで、自分は苦労しなくてはならないのかと憤りを覚えた。

 そして聖女に選ばれると生活が一変した。弟と妹を養うだけのお金も手に入り、自分も伯爵ほどの位の高い身分を与えられ、何不自由もない生活が保障された。念願の学校にも通うことが出き、憧れのマティスと一緒に食事をすることまで出来た。

 願っていたことが叶い幸せなはずなのに、今自分はまた貧しかった頃の気持ちに逆戻りをしている。


 ――なんでまたこんな気持ちに。


 もう二度とないと思っていた感情にセイラは困惑する。すると眉根を寄せ難しい顔をしているセイラに気づき、マティスが声をかけた。


「セイラ? どうしたんだい?」


 そこでセイラははっとして顔をあげ見れば、マティスとアイラがセイラへと視線を向けていた。


「あ、すみません。なんでもありません」


 慌てて弁解をする。


「そうか。いきなり黙って難しい顔をしてたから、何かあったのかと」

「申し訳ございません。質問しておいてぼうっとしてしまったことをお詫びします」


 セイラは深々と頭をさげて謝った。


「いやいいんだ。何もないならよかった」


 マティスは笑顔で応え、


「さあ。食べて」


 とあまり手をつけていないセイラに食べるように促した。その様子を見ていたアイラはセイラの態度が気になり眉を潜める。どう見ても良いことを思っているような顔ではないのだ。


 するとアイラに付いている赤竜が言う。


『あの娘、情緒不安定なのか?』









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