114 国守玉との会話
アイラは朝早くに目覚めた。そしてなぜ寝ているのか不思議に思う。確か国守玉と伝手のシュリを通して話していたはずだ。だが今自分はベッドに横になっているのだ。だとすればそのまま寝てしまったということなのか?
起き上がり時計を見て驚く。
「ひ、昼?」
確か夜7時頃だったはずだ。だとすれば15時間ほど寝ていたことになる。
「国守玉の中に行くと疲れるってことなのかな」
そこで国守玉との会話を思い出す。
あれから四竜が竜柱になった経緯を聞いた。リュカから聞いた話とほぼ変わらなかった。だが国守玉本人から聞くと思いが違う。
国守玉はこの国を守るため、人間を守るために身返りを考えずに動いている。だがそれはどの国の国守玉もそうだろう。それなのに守られている人間は国守玉の名前も、この思いも知らない。そして国守玉の伝手のシュリが子供の姿の意味も分かった。竜柱へ力をほとんど使っているからだ。
シュリは伝手だが、国守玉がアイラと話すために姿を具現化しているものだ。そのためには力がいる。だが今あまり力がないため子供の姿にしか具現化できないのだ。
国守玉の話では、竜柱に力がある時は今の半分ほどの力を注げばよかった。だが竜柱が限界を迎えようとしている今、国守玉の力でそれを補わなくてはならないためシュリを具現化する力を極力抑えているためだと言っていた。
それほど深刻な状態だということらしい。
だが話を聞いていて前世を思い出しながらアイラは質問した。前世ではそのような話はまったくなかったのだ。もしそんな重大な出来事が起っていれば誰か気付くはずだと。
国守玉の返答は、四竜の体を乗っ取った魔物が力を蓄え、確実に国守玉を破壊し地上に出るために地下で準備をしていたという話だった。その間も国守玉は乗っ取られた四竜を抑えようと力を使っていたらしい。
そこでアイラは前世で国守玉の浄化の頻度が1ヶ月に一度だったのものが、1週間に一度になっていたことを思い出す。その頃はなぜそうなっているのか分からなかった。だが原因がそれだったのかと気付く。
「ならその時に私に教えてくれればよかったじゃない」
今のように、と言えば、
『お主は今ほど精神が清んでいなかった。そして意識は他へと向き、牢屋で過ごしていたからだ』
そうシュリに言われ納得する。
あの時はこの国守玉の状態が悪いのはソフィアが偽物だと思い、違うと訴えていた。そして本物の聖女を見つけなければ国守玉がよくなることはないと思っていたのだ。だが国守玉の話から、自分の考えは違っていたことに気付く。
――本当は四竜の方に力を使っていたからだ。
だがソフィアが偽物というのは間違っていない。
「どうしてシュリはソフィアが偽物と知っていてそのまま放置したの?」
国守玉にとって良くないものは廃除したはずだ。
『それはソフィアは偽物ではないからだ』
「え?」
偽物ではないとはどういうことだとアイラは絶句する。
「でもソフィアは本物じゃないわ!」
これだけは言える。これは説明がつかないが感覚だ。すると国守玉がアイラの考えを読み、
『だが完全でもない』
と付け加えた。
「完全でもない? どういうこと?」
『だがそれを今言うことは出来ない』
それは赤い竜が言ってた崩壊への道の分岐点が関係しているのだろう。だとすると、今アイラがそのことを知れば崩壊への道へと進むということだ。ならばこれ以上聞くことは出来ない。
「ねえ、それは私がやらなくてはならないの?」
ずっと思っていたことを訊く。別に自分でなくてはいいのではないのか?
『アイラの気持ちはよく分かる。だがこれしか方法がないのだ』
「なぜ?」
『汚染された竜柱になった四竜の体を完璧に浄化出来るのがアイラのみだからだ』
「なぜ私だけ? 他の精霊魔法士を何十人も集めて浄化すれば出来るでしょ?」
アイラが10の精霊魔法量として、精霊魔法量が1だとしても10人いれば同じではないのか。
『量ではないのだよ』
「え?」
『質と精霊魔法が正確に使えるかが問題なのだ。お主は精霊から100%の魔力を使うことが出来る。だが他の者はよくても70%だ』
「え?」
『知っている者でいえば、イライザが70%だ』
「!」
『それでは竜柱の浄化は上辺だけで終わり、確実に浄化は出来ぬ』
「それが出来るのが私だけなの?」
『そうだ。精霊の王が許した者のみ。それはただ一人のみ』
するとアイラの後ろに一人の女性が現れた。だがそれにアイラは気付かない。
『だからお主だけなのだ』
そう言われてもアイラは「やります」とは言えない。ソフィアが偽物だと言ってからの生活は一変し最悪だった。賛同してくれる者は自分の直属の部下の数人とマティスだけで、後は何をバカなことを言っているのだと罵倒され、冷たい目を向けられた。その後はやってもいない国王殺害未遂の主犯格に仕立て上げられ牢屋に入れられ、最後には殺されたのだ。そんな最悪の人生は二度と送りたくない。
だが今までの経験上、ソフィアが偽物だと言及しないとしても、必ずそうならないとは限らない。現に今までどんなに回避しても起っていたのだ。だとすれば、何かしらよく似たことは起こると言うことだ。
だとしても!
「私はやりたくない……」
はっきり言う。するとシュリが顔を曇らせる。
『そうであろうな……。だがお主が動かなければこの国もこの世界も終る』
「!」
どういうことだと眉根を寄せる。
『まだ時間はある。よく考えよ』
記憶はそこまでだった。
「世界が終る……」
ということは――。
自ずと答えは見えてくる。
「ぐー」
そこでお腹がなった。
「考えるのはやめよう。まず腹ごしらえだわ」
強制的に考えるのは止めた。
次の日の朝、アイラは学校への道を歩きながら、
「なんで赤竜は私のところにいるの?」
と周りを飛んでいる赤竜へと話しかける。結局ずっとアイラの元にいるのだ。
「リュカの場所にいるんじゃないの?」
『あやつのところには他の者達がいるからな。一人ぐらいはアイラの所にいてもいいだろうと思ってな。それにアイラは色々と危ないとリュカが言っておったからな。我ぐらい付いてやろうと思った次第だ』
「ふーん」
赤竜はリュカが言ったと言ったが、たぶんそれは嘘だろう。リュカがそんなことを四竜に話すわけがない。きのうで分かったが、四竜も国守玉も心を読むことが出来る。ならばリュカの心を勝手に読んでの言葉だろう。
だがそうなると、そうリュカは思っているということだ。
――それは私の魔力のコントロールのことを言っているのかしら?
『うむ。その通りだ』
「勝手に心を読まないでよ!」
ムッとすると、
『アイラもリュカと一緒の反応だな』
と言う。当たり前だ。誰が勝手に心を読まれて気分を悪くしない者がいるのだろうか。いるのであれば教えてほしいものだ。
すると赤竜が声のトーンを下げて名前を呼んだ。
『アイラ』
「ん? なに?」
緊張感のある声音にどうしたのかと前を見れば、レイが立っていた。
「!」
アイラは冷静を装い、何事もなかったようにレイに近づき、
「こんにちは」
と挨拶をし通り過ぎようとレイの横にさしかかった時だ。アイラは腕を掴まれた。
「!」
何だとレイを睨むように見てしまった。だがレイは笑顔だ。
「ごめんね。アイラさん。ちょっと君に聞きたいことがあって」
「え?」
だがアイラの顔は警戒心の塊のような顔を向ける。
「俺と君は以前どっかで会ったことあるかな?」
「え……」
その瞬間、前世のレイに刺された時のことが浮かび一気にあの時に戻る。
目の前のソフィアを警戒していた時、背中に激痛が走り、気付けば自分の腹から剣先が出てきた。その後は大量に流れる血と激痛と熱さと寒気などの視覚、感覚、嗅覚がその時の記憶を蘇られ、走馬灯のようにアイラを襲う。
「はあ! はあ! はあ!」
『アイラ!』
四竜がアイラの耳元で叫ぶが、アイラには届かない。どんどんと過呼吸になり、冷や汗が出てきて意識が朦朧とし立てなくなり足下から崩れ落ちそうになるのをレイが受け止めようとした時だ。
ズバーン!
目の前にリュカが現れアイラをレイからかっさらった。
「!」
その瞬間、アイラは気を失った。リュカはアイラを抱いたままレイを睨む。
「アイラに何をした?」
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