表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/159

112 国が滅びた理由は……


「ちょっと待て! それは、」

「リュカ!」


 そこでジンが止めに入る。


「やめろリュカ」


 そう言いながら首を横に振る。アイラがいるからという意味だ。

 リュカはその意味を理解し、くっと黙る。


 前世でリュカは、アイラが殺され、毒にやられ弱っていくマティスを匿いながら、滅びゆく国を見てきた。

 地は干上がり、草木は枯れ、精霊が消え、そして国守玉の虹色の光が消えていった。それは国の終わりを意味していた。国が滅んだ理由は本物の聖女の代わりに国守玉の浄化をしていたアイラが殺されたため、国守玉が怒り、国を捨てたと思っていた。

 だが四竜の最後の言葉――『この世は終わる』と聞いて、国が滅んだ理由は違うのではないかと聞こうとしたのをジンが止めたのだ。それを言えば、時を戻したことがアイラにばれてしまうからだ。

 だが、もしかしたら今のアイラなら時を戻した自分を受け入れてくれるのではないかという淡い期待がリュカの脳裏に浮かぶ。

 ジンの話では、アイラは前世の辛い経験から今世はまったく違う人生を送ることを望んでいたため、前世で関わった自分とマティスを避けていた。だが結局関わることになり、マティスと前世と変わらず友達になり、そして自分とも友達になった。

 ならば、自分もアイラと同じで時を戻したと言ったら受け入れてくれるのではないか。そして、マティスが殺されず、国が滅ばないように一緒に動いてくれるのではないのか。

 だがすぐにそれは有り得ないことだと否定する。

 もし自分が時を戻したことを知れば、アイラは警戒し自分を避けるかもしれないのだ。それはどうしても避けたい。前世でマティスからアイラを守ってくれと頼まれたのだ。少しでも近くにいた方が都合が良いのだ。


「……」


 だがそこで自分の思考に眉根を寄せる。


 ――本当にその理由なのか?


 ここ最近その考えがまったくなかったことに気付く。

 忘れてはいないが、それが一番の理由ではなくなっているのだ。前世の記憶と思いが薄くなってきていると言っていいかもしれない。それは今を生きているからなのだろう。


 じゃあ理由は何か?


 ――ふっ! ただ俺がアイラに避けられるのが嫌なだけか。前世の自分からは考えられないな。


 それだけ大切な仲間と思える者が増えたのだろうと分析する。


 ――それに今あいつに言ったら、前世の辛い記憶を思い出させてしまうしな。


 リュカ同様アイラも前世の記憶と思いが薄れているとしても、悲惨な出来事を忘れることは出来ないだろう。ならば今も前世とは違う人生を送るという願いは変わっていないはずだ。


 ――この時点で言うのは時期尚早だな。


 考えを改め、少しでも淡い期待をしたことを恥じ鼻で笑う。


 そこでアイラがジンへ訊ねた声でリュカは現実に戻り2人へと視線を向けた。


「竜柱の浄化は必要なんでしょ?」

「ああ。だが今はだめだ。お前の負担が大きすぎる」

「でも今しなければ危ないんじゃないの?」

「今すぐになることはないから大丈夫だ」


 それはリュカとアイラの記憶から、まだ9年は国は滅ばないということだろうとリュカは解釈する。


「だからアイラはもう帰れ。俺はもう大丈夫だから。リュカ、送ってやってくれ」


 ジンはそこで強制的に会話を終了する。

 アイラはまだ言いたげな顔をしていたが、


「悪かったな。送って行く」


 と、リュカに促され、しぶしぶ帰って行った。



 リュカはアイラを送って戻ってくるとずっと気になっていたことをジンに訊ねた。


「先生、聞きたいことが……」


 真剣な表情で聞くリュカにジンが言葉を繋ぐ。


「お前の言いたいことは分かる。前世で国が滅んだことも竜柱が関係しているのではないかということだろ?」

「はい」


 前世ではただ気付かなかっただけなのではないかと思えて仕方ない。


「四竜、もしこの黄竜の場所が侵食されたらどうなる?」


 ジンの質問に黄竜は、


『この場所だけがなってもすぐどうなることはない。他の竜柱と共鳴しているからな。体を乗っ取られても動くことはできないだろう。それに我等の体は国守玉のクリスタルで覆われておる。そう簡単には壊せない。ただ竜柱と共鳴していることから、他の竜柱の力は弱まるだろうな』


 と応えた。


『もしも3つの竜柱が侵食されれば、残った1つの竜柱だけではもう保てなくなり、竜柱としての役目は終り、このクリスタルの柱は消滅し……』

「魔族に侵食された四竜の体は放出され、世界は終るか……」


 リュカが言う。

 前世ではそうなったのだろう。


「だが俺がいた時までは四竜は地上には現れていなかった」

『それはお前の前世の話か?』


 そこで四竜には時を戻したことをきちんと話していないことに気付く。


「四竜は俺のどこまで知っている?」

『お主とは魂で繋がっている。だから何があったのかはすべて把握済みだ』


 なぜだろう。こちらの意見は無視され、すべて覗かれているのが腹ただしい。いきなりムッとしたリュカにジンは苦笑する。


『そう怒るな。これは仕方ないことだ』

「何が仕方ないだ。お前らは勝手に俺の中に入り、勝手に俺の記憶を除き見し魔力を盗んでるだけだろ」

「確かにそうとも言えるな」


 ジンはクツクツ笑いながら呟く。


『そうとも言えるが、お前しか我等を受け入れる者がいないのだ』

『そうだ。これは仕方がないことなのだ』


 それらしいことを言う四竜達は、結局リュカのご機嫌取りをしている。それがおかしくて仕方がないジンだ。


「おもしれえ」

「なに笑ってるんですか」


 リュカがジンを睨み言う。どうみてもとばっちりだ。これ以上この話題を続ければこちらにも被害が来ると思いジンは話を戻す。


「結局、黄竜の魔力をある程度戻してからの話だな。そういうことだろ? 四竜」

『うむ』

「ということで、リュカ。あきらめろ」


 そこでリュカは自分の中に四竜が1体いないことに気付く。


「? 四竜、一匹どうした?」




 アイラと言えば、家に帰ってからあることに気づく。


「あ! ジン先生にレイって言う男のこと言うの忘れた!」


 前世で自分を殺した男だ。今世は王宮とは関わるつもりはないため殺されることはないだろうが、一応ジンには報告しておいた方が良いと思ったのだが、すっかり忘れていた。そこでジンに言われたことを思い出す。


「お前が時を戻った理由は、まったく違う人生を送るためじゃない。お前が最後死ぬ最悪な結末を変えるためだ。それは前世でお前が経験したいくつかの出来事は避けては通れない」


 確かに振り返れば、前世で関わったリュカやマティス、そしてソフィアとレイとは時期は違えど関わっている。やはりこれは避けては通れない道なのだろう。ならばレイとの接触も避けては通れないということなのか? 


 ――じゃあ、今世でも私はレイに……。


 そこで首を横にブルブル振る。


「考えるのは止めよう。そうと決まったわけじゃないわ」


 今世ではレイに殺される理由――ソフィアに恨まれることはしないつもりなのだから。


「先生はどういう意味で言ったのかしら?」


 あれから何度も考えた。だがどう考えてもわからない。

『最後死ぬ最悪な結末』と言うなら、マティスとあまり親しくならず、ソフィア(セイラ)とは仲良くするなどして違う人生にすればいいのではないかと思ってしまう。だがそれは違うとジンは言うのだ。


「なんであんな言い方したんだろう」

『それはジンが前世の結末を知っているからだ』

「!」


 いきなり声が聞こえ驚く。すると赤い四竜の赤い光が目の前にいるのに気付く。


「赤い四竜?」

『そうだ。赤竜と読んでくれればいいぞ』

「なぜ私のところに?」


 リュカに付いていたはずだ。


『お主といるのが心地良いからな』


 何を言っているのか意味がわからない。だが今はそのことではない。


「そうじゃなくて! なんで先生が前世の結末を知っているの?」

『それはあやつが『脚』だからだ』


 それは『国守玉の脚』ということだからだろうとアイラは理解した。

 すると赤竜が語る。


『前世でお前が死んだ後、国守玉の力が弱まり国、そして世界が滅びへの一途を辿ったようだ』

「え……」


 アイラは驚き絶句する。


 ――どういうこと? 国が滅んだって……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ