110 心を読まれて
「四竜、先生は何を?」
『竜柱の浄化と強化している』
「強化?」
『ああ。国守玉の脚の主は竜柱の強化が出来る。だがそれが出来るのが今の時代だとジンの家系のみだな』
「先生の家系のみ? なぜだ」
『それは現時代ではジンの家系のみが強いからだ』
「先生の家系のみ……」
ジンを改めて見れば、眉根を寄せ、顔が歪み辛そうだ。それだけ力を使っているからなのだろう。
「それはなぜだ?」
ジンの話では、国守玉の力が強いため強い魔力を持った者が生まれると聞いた。ならば他の家系の者も強い魔力持ちが生まれているはずだ。
『『国守玉の脚』の家系には必ず1人は強い魔力持ちが生まれるが、それはその家系の魔力量の最大限の魔力量を持った者が生まれるという意味であり、必ず強い者が生まれるわけではない。1人は必ず生まれるという感じだな。『国守玉の脚』が少なくなってきている理由の1つでもある』
そう言う意味だったかとリュカは納得する。
それは代が変わるごとに『国守玉の脚』の人数が減ってきているということなのだろうとリュカは理解する。確かにこの広大なルカン王国全体に張り巡っている『国守玉の肢体』は、ジン達『国守玉の脚』の浄化と討伐が必要な場所と必要ではない小さな場所を入れれば相当の数だ。それを今いる五守家の5つの家系のみで担っているのた。一家系が担うには相当負担がかかっているのだろう。
――それにしても先生の家系のみが竜柱の強化が出来るというのはどういうことだ? 先生の家系のみが力が強いということなのだろうが、それにしては他の五守家の者が弱すぎやしないか? 必ず1人は強い魔力持ちが生まれるという話なのだ。家系1人は出来るやつがいてもいいのではないのか?
すると四竜達が言う。
『それには原因があるのだ』
「原因だと?」
『そうだ。少し考えれば分かることだ』
『お主も知っているだろ。お主が開けた魔晶箱のせいだ』
それは強い人材が魔晶箱の中にいた魔人によって殺されたから。『国守玉の脚』も例外ではない。ましてや最初に挑戦したのが『国守玉の脚』だったのだ。
――そこで一番強い者達が奪われ、子孫に繁栄されなかったからか……。
リュカは魔人との戦いで、魔人を倒した瞬間に色々な魔力を感じ取ったことを思い出す。あれは過去魔晶箱を開けようと挑んだ者達の魔力だったのだろう。
だとすれば、ジンの家系の先祖は魔晶箱を開けなかったということかと思っていると、四竜がまた応える。
『ジンの先祖があの魔晶箱に我等と魔人を封印した1人だったからな』
「!」
――なるほど。魔晶箱の状態を把握していたということか。
ならばなぜ他の強者に教えなかったのかという疑問が沸く。だがなんとなく理由は理解できた。
強者という者の中には、自分の力を過信している者と、自分の力を十分に理解している者の2つに分かれる。前者の者がジンの先祖の忠告を無視し挑んだのだろう。
四竜もリュカの結論に何も言ってこないということは間違っていないということだ。
ジンといえば、桁違いの量のジンの国守玉の力を吸い取られていくのに堪えるのに必死だった。
ギッと歯を食いしばり苦痛に耐えながら全身汗まみれになっているジンを見て、リュカは声をかける。
「先生大丈夫ですか?」
だがジンは返事をしない。
『リュカ、今ジンに話しかけても無理だ。ジンにはお前の声は聞こえていない』
「どういうことだ?」
『今ジンは竜柱と繋がっている。その時は周りの音は遮断される』
なぜ遮断されるのかと思っていると、
『竜柱は国守玉の力そのものだ。根本的に人間とは別物で別次元と言っていい。その別次元と繋がるため、ジンの体はここにいるが、今は別次元に意識が飛んでいると言えば分かるか?』
と四竜は付け加えた。
「先生は大丈夫なのか?」
『国守玉の脚』の者は我等と同じ次元、まあ国守玉の次元の耐性を持っている。だから大丈夫だ』
そこであることが浮かぶ。国守玉を浄化した後アイラは気を失い倒れた時のことだ。
「じゃあもし普通の人間が繋がるとどうなる?」
『まず繋がることは無理だ。だが繋がった場合、気を失うか、命を落とすかだろうな』
――やはりそうか。
アイラはあの時国守玉と繋がったのだ。だから気を失ったのだ。
『アイラは国守玉に好かれておる。だから命を落とすことはない。だからそう心配するな』
「そうか」
と言ったところでリュカは目を見開く。今自分は何も口に出していない。そこでさっきから自分は何も言ってないのに四竜が疑問に思っていたことを答えていたことに気付く。
そこである結論に達する。
「おい、もしかして……」
『やっと気付いたか? 我等はお主の魂の中におる。だからお主の考えていることは共有しているから分かるのだ』
やはりそうかとリュカは目を眇める。
「それはいつからだ」
最初は違ったはずだ。
『ここ最近だな。やっとお主の魂と馴染んできたからな』
『うぬ。なかなか心地いい』
『しかしリュカ、色々と複雑だな』
『もう少し頭を柔らかくしたほうがいいぞ』
と4匹、もとい4頭の四竜の意識体が言いたいことを言ってやがる。
「出てけ!」
勝手に思考を読まれてはたまったものじゃない。
『無理だな。お主しか我等を受け入れることが出来ぬ』
「じゃあそのまま消滅しろ」
『リュカ、酷いのう。我等が消えたらこの国は終るぞ』
『そうだ。この国とお主のプライベート、どちらが大事だ』
「どっちもだ」
自分の個人の思考を勝手に見られているのは、どう考えても胸くそ悪い。国が滅ぶ方を選びたい衝動に駆られる。
『お主、今国が滅びる方がいいと考えただろ』
『冷たいのう。そんなことをしたらお前のマティスが泣くぞ』
リュカのこめかみに青筋が浮き出る。
「本当に出て行け!」
本心からそう叫んだ時だ。
「お前、何叫んでるんだ?」
ジンが不思議そうに首を傾げながら聞いてきた。
「いや、四竜が」
と言った時、ジンの体が横に傾いた。
「先生!」
すぐにリュカは倒れそうになったジンを支え受け止める。
「わりい。立ちくらみ……」
ジンは笑顔で言うと、そのまま気を失った。
「先生!」
すると四竜が言う。
『力を相当持って行かれたな。無理をしおって』
『うむ。人間では竜柱の浄化と強化は荷が重すぎるからな』
リュカが回復魔法をしようとすると、四竜が止める。
『リュカ、魔術の回復魔法はジンの疲弊には効かぬ。やめておけ』
「じゃあどうすれば!」
◇
ジンはリュカが住んでいる屋敷の客室のベッドでアイラの癒やし魔法を受けていた。
顔色が良くなったジンを見てアイラは安堵し、リュカへと視線を向けて言う。
「で、どうして先生はこうなったの? 説明して」
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