106 竜柱への鍵
アルバンは驚くがすぐに疑問を口にする。
「なぜそれが四竜の意識体だと?」
「俺の所に来たからです」
「え?」
「これは本当です。そして俺に竜柱になっている体に戻せと言ってきました」
「は? 戻せだと⁉」
目を大きく見開き驚くアルバンを見て、ジンは苦笑する。
――そう言う反応になるよなー。
だがすぐにアルバンは眉根を寄せ疑問を口にする。
「四竜は竜柱になっているんだ。そんなこと出来ないだろ」
「いや、動けるらしいですよ」
ジンの言葉にアルバンは更に眉間に皺を寄せ怪訝な顔を向ける。
「? どういうことだ?」
「四竜の意識が体に戻った時に竜柱から解放されるようになっているらしいです」
ジンは四竜から聞いていたことをアルバンに説明すると、アルバンは身を乗り出し声を張り上げた。
「ちょっと待て! そんなことしたら竜柱の力は失われるだろ!」
「それは大丈夫だそうです」
四竜の話では、竜柱は個別で解放されるらしく、封印が解けることで魔穴は開くが、竜柱になっていた四竜と国守玉が閉じるということだった。
ジンの話を聞いたアルバンは、自問自答するように、
「本当に大丈夫なのか?」
と呟く。
「そう信じるしかないじゃないですか」
ジンはため息交じりに吐き捨てるように応える。正直ジンも今でも自身の考えは半信半疑だ。だがそう疑っているのに、ジンの奥底の遺伝子レベルの本能は、四竜は本物であり、言っていることは正しいと言っているのだ。この本能と思考の真逆の考えがジンの心をイライラさせる。そして同じく『国守玉の脚』であるアルバンもジンと同じ感覚になっていた。だからアルバンも否定することが出来ない。
もし国守玉の意思と異なっていたのなら正しいと思うことはない。これは『国守玉の脚』の者の特殊な感覚であった。
しばしの沈黙が流れ、アルバンが口を開く。
「だから竜柱に行かないといけないので場所を教えてほしいと?」
「ええ」
やはりそうかとアルバンは一度大きく嘆息する。
「竜柱の場所は分かるが、そこに行くには長の許可がなくては行けない」
「え?」
「代々長がその場所へ行く道への鍵を持っている」
「長……ですか……」
ジンは眉を潜める。
「あの堅物な爺さん、鍵渡してくれるかなー」
ジンを睨む長ベニートの顔が浮かぶ。
「それはわからん。頑張って説得するんだな」
そこでアルバンとの会話は終わったのだった。
そして今日、長であるベニートに会うためジンはやって来たのだった。
「俺が知りたいのは、その後のことですよ」
ジンが言うとベニートは片方の眉根を上げる。
「その後とは?」
「その後の竜柱のことを聞いてます」
そこでベニートは察する。
「竜柱のことを知ったのか」
「ええ」
「お前の目的はなんじゃ」
「竜柱の場所へ行く道の鍵をもらいにきました」
ベニートの目が一瞬見開く。だがすぐに元に戻り言う。
「何しに行くつもりじゃ?」
やはりベニートはこういう状況を把握するのが早いとジンは感心する。
「四竜の意識体を体に戻しに」
「!」
それにはさすがのベニートも驚いた顔を見せた。
「四竜の意識体と話したのか?」
「ええ」
「どうやって?」
「魔晶箱と言えばわかりますか?」
「!」
いつも歳のせいで瞼が垂れ下がって目が見えないベニートの目が大きく開かれた。そこでジンは気付いた。
「やはり長はすべてを知っているんすね」
するとベニートは嘆息する。
「わしが知っておることがすべてかどうかは分からない。ただ長として伝承されていることは知っているというだけじゃ」
ベニートは、長は竜柱の管理と、いつか四竜の意識体が解放された場合の対処の仕方を知っているだけだと説明した。
「魔晶箱があった場所は知っていたのですか?」
「ああ」
「なぜ俺ら『国守玉の脚』の者に伝えなかったのですか?」
『国守玉の脚』ならば知る権利はあったはずだ。
「言ってはいけない決まりだったからな」
昔は『国守玉の脚』の者全員が魔晶箱のことを知っていた。すると魔晶箱を開けようとする者が現れたと言う。だが中途半端な強さの者ばかりが挑んだため、魔晶箱に四竜と一緒に封印された魔人が魔力を吸い上げ命を落としていった。それは『国守玉の脚』だけの話ではない。強者と言われた『国守玉の脚』以外の者までも挑戦し命を落としていったのだ。
当時の長は、どんどんと優秀な魔力持ちの者達が魔晶箱によって命を奪われていくのを止めるために魔晶箱を王宮に隠すことをしたということだった。
――長の説明は四竜と合致しているな。
「隠したということは四竜の解放は諦めたということだったんすか?」
「それもあるが、四竜を解放したくないのもあったのだろう」
「え?」
「四竜の大きさは6メートルは超える大きさだ。国守玉の使いだとしても人間が恐怖を感じないわけはない」
「確かに」
見た目は猛獣と変わらない巨大な竜が4体もいたら一般人の者は恐怖しかないだろ。
「ジン、どうやって魔晶箱を見つけ四竜を解放した?」
ジンはベニートに包み隠さず説明した。
「ホルスマン卿がだと?」
「ええ。ユーゴ団長に魔晶箱を渡したみたいです」
「ホルスマン卿はどうやって知ったのか……」
ベニートは顎に手を当て眉を潜める。まず魔晶箱の存在と置かれていた場所が王宮だということは一部の者しか知らないことだ。ましてやグレイは一般人で他国から来た者だ。知っているはずはないのだ。
「『国守玉の脚』の者が漏らしたということは?」
ジンが聞けばベニートは首を横に振る。
「それはあり得ん。漏らしたら自分の国守玉から与えられた能力は奪われる。それにもし国守玉にとって脅威と判断されれば家系すべての者の能力は奪われるからな」
やはりそうかとジンは嘆息する。
「そのホルスマン卿はお前は知らないのか?」
「一度見ましたが、見たことないですね」
顔も魔力も知らなかった。じゃあグレイはどこからその情報を知ったのか。
「そやつは要注意じゃな。あまりにも詳しすぎる」
「ですね」
魔晶箱の在処もだが魔晶箱の性質も知っていた。だとしたらその情報をどこから入手したのかということだ。
「ホルスマン卿のことはわしの方でも調べよう」
「お願いします。で、鍵はくれるんですよね?」
今日来た目的は鍵をもらうことだ。ベニートは1度応接室を出て行き、戻ってくると手には木札を持っていた。そしてそれをジンに渡す。
「それが鍵じゃ」
普通に渡してくれたことにジンは驚く。
「いいんすか?」
「お前がほしいと言ったんだろ」
「そうですが……。まさかすんなり鍵をくれるとは思っていなかったので」
正直に言うとベニートは嘆息しソファーに座る。
「仕方ないだろ。お前に渡すのが国守玉の意思なのだから」
これは『国守玉の脚』独特の感覚だ。自分がどう駄目だと思っても国守玉の意思には逆らうことは出来ないし、それが一番ベストだと本能でも理解し体が動くのだ。それをベニートは言っている。
ジンはフッと笑う。気に食わない人物だが、やはり『国守玉の脚』でありその頂天に立つ長なのだと実感する。考えは違うが目指す場所は一緒なのだ。
「じゃあ遠慮無く鍵はもらいます」
「うむ」
「ちなみに長は、四竜の解放はどう思います?」
四竜の解放が国守玉の意思のためベニートは鍵をジンに渡した。ジンも国守玉の意思だから四竜の解放をしようとしてる。だがそれはベニートとジンの意思とは関係ないのだ。
果たしてベニートは、
「わしは反対だった」
と言った。やはりと思っていると、
「お前が来るまではな」
「え?」
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