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103 レイの興味



 セイラとレイが屋敷に戻ると、使用人が車の後ろのドアを開ける。


「おかえりなさいませ」


 頭を下げる使用人には見向きもせずレイは降りるとそのまま屋敷に入って行った。その後にセイラも車から降りると、使用人に「ありがとう」と笑顔で応えながら鞄を渡す。そして屋敷の中へ入ると、グレイの書斎へと向かう。帰ってきたらまずグレイに挨拶するのが決まりだからだ。

 先に降りたレイの姿はもう見えない。レイも同じくグレイの書斎へ向かったのだろう。行く場所は一緒なのだから自分が降りるのを待って一緒に書斎に向かってもいいのではないかと思ってしまう。だからといって一緒に行きたいわけではないのが。


「はあ……」


 自然とため息が出る。

 自分にまったく興味がないことは分かっていたが、車の中でも腕組みをし、目を瞑って一言も話さず、降りた後もセイラに振り向くこともなく去って行ったレイの行動に、本当に自分には興味がないのだと実感させられる。


 ――なんでアイラには興味を持って、私には興味を持たないのよ。


 別に自分に興味を持ってほしいというわけではないが面白くない。

 マティスもそうだ。アイラには特別な存在のように接しているようだともっぱらの噂だと友達から聞いた。

 アイラと話してみて分かったが、別に特別魅力的というわけでもなく、確かに顔は美人の部類に入るかもしれないが、それほど飛び抜けていいわけではない。


 ただ性格は良いと思う。


 そこにマティス殿下は惹かれたのかもしれない。

 じゃあレイは?

 こればかりは考えてもやはり分からない。レイとアイラはきのう初めて会ったのだ。性格に惹かれたというのは当てはまらない。そうなると考えられるのは?


「一目惚れ……じゃないわよね?」


 言ったものの、すぐに否定する。レイの年齢は23歳と聞いた。さすがに7歳下の学生には興味がないだろう。


 ――何かレイを刺激する魅力がアイラにあるということかしら。


 確かに自分には何も取り得がなく魅力があるとは言えない。今自分が持ち合わせている手札は次期『聖女』だということだけだ。だがこの手札は相当強いものだ。


 ――聖女になれるのは、国の中で1人だけなのよ! けっこう私って凄いんだから!


 聖女になれば王族の次に偉い位になる。グレイより位は上になるのだ。ならば自分に媚を売るとまでは言わないが、良い関係を作っておけばレイにとってプラスになるに違いないはずだ。現に次期聖女だと言うことを嗅ぎつけた貴族が高価な贈り物を送って来たり、挨拶に来たりしている。

 そこで自分が聖女になった姿を想像する。

 王宮に煌びやかな清楚な衣装を纏い、周りに従者や側近を引き連れて優雅に歩き、国守玉を浄化し、そしてマティスが自分だけに笑顔を見せ、将来結婚し子供を挟みながらマティスと手を繋いでいる光景を想像し自然と笑みを浮かべる。


「早く聖女になりたいわ……」


 だがそれはまだ2年以上後の話だ。学校を卒業してからの話なのだ。それまでは聖女だと口外することが出来ないのがもどかしい。


 そんなことを考えながらグレイの書斎の近くまで来ると、書斎の扉の前にいた執事がセイラを見つけると寄ってきた。


「セイラ様、申し訳ございません。今はマスターに面会は出来ません」


 それはレイと話しているからだ。いつもレイと話す時は誰も中には入ることは許されていない。レイが他の者を同席させることを嫌がっているからだ。そのため大事なお客が来た時以外はいつも2人で話している。聞かれてはいけないことを話しているのだろうかと思い気になるが、2人が話している中へ振り切って入る勇気はない。そんなことをした時にはレイに殺されてしまうだろう。


「わかりました。では帰ったことをグレイ様にお伝えください」

「かしこまりました」


 セイラは踵を返すとそのまま自室へと向かった。

 グレイの書斎ではレイがグレイと話していた。


「マスター、帰りました」

「おかえりレイ。セイラのお迎え、ご苦労だったね」


 グレイは書類から目を離しレイへと笑顔で迎えると、


「レイ、何か良いことでもあったかい?」


 と訊く。レイは笑顔を見せ頷くと、アイラとの一連の出来事を話した。


「へえ。それは興味深いね」

「ええ。マスターもそう思います?」

「ああ。レイが女性に興味を示したのは、これが初めてだからね」


 そこでグレイが興味を持ったのがレイとは違うことに気付く。


「マスター、何か勘違いしてますよ。俺は別に女性としてはまったく興味がありません。ただアイラ・フェアリの態度に興味があるんです」


 ムッとして言うレイにグレイはクスッと笑う。


「最初は皆そう言うものだよ。レイはそれが恋愛感情ではないとしても、アイラ嬢に興味を持ったことには間違いないだろ? 今までレイを見て恐怖を感じ、強ばった女性は何人もいたはずだ。そんな女性にレイは誰1人と興味を示さなかったよね。だが今回アイラ嬢には興味を持った。それは今まで出会った女性とは何か違ったものをアイラ嬢に感じたからだろ?」


 そこで考える。アイラは今まで会った女性とさほど変わらない態度だった。だが今までの女性と違ったことと言えば、


「先ほども言いましたが、俺は一度も面と向かって会ったことがないのに、会ったことがあるような態度を取られたからですよ」

「確かにレイが記憶にない人物がいるとは、それは興味が沸く要因ではあるね」


 レイは一度会った者は忘れないという脅威の記憶力の持ち主だ。そのため今まで会った者――普通に会った者、殺害した者の顔はすべて記憶しているのだ。そのレイが記憶にないということは一度も会ったことがないということだ。


「俺が気付かなかっただけかもしれないですが、それにしては俺に対しての態度が腑に落ちないんですねよ」


 レイに対して恐怖をするということは、レイが暗殺の仕事をしている時に会ったか見たということだ。だが剣士でも魔術師でもないただの学生のアイラがレイに気付かれずに見ていることはまず不可能だ。


「じゃあもしかしたら、魔術玉のような魔道具を使って遠隔で見ていたかもしれないね」


 グレイが『罪人の墓場』で使った監視カメラのような物だ。


「そうかもしれないですが、それも可能性は低いように思えますが」

「確かに学生の女の子がそれをする理由がないね」

「ええ。それに……」


 そこでレイは珍しく顎に手を当てて考える姿勢をとり少しの間を取る。そして、


「俺にはわかりませんが、アイラ嬢を殺めてはいけないと本能が言ってるんすよね」

「そうなのかい?」

「ええ。何か得体の知れないものがいるというか……」

「へえ。それは興味深いね」


 なかなか自分の話に対し興味を持ったことがないグレイが興味を持った顔を向けたため、レイは嬉しくなり笑顔を見せる。


「マスターも興味を持ちましたか?」

「そうだね。一度会ってみたくなったよ」


 グレイは両端の口角を上げた。





最後まで読んでくださりありがとうございます。

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