102 私を殺したやつ
アイラは急いで家に帰り鍵をかけるとその場に立ち尽くす。
――私を殺したやつだ。
あの髪型と髪色、間違いなく自分を殺した男だと確信する。薄々分かっていたことだ。前世の時ソフィアと一緒にいたのだ。仲間だということは想像が付いた。だがそれが最初から一緒だとは思ってもいなかった。そしてまさかこの時点で合うとは。
――前世でもずっと知り合いだったってこと?
だが1度も王宮では見たことがない。だとすればレイは王宮には一度も顔を出していないということだ。その理由は考えなくても分かる。
――暗殺者なんだわ……。
王宮には王宮魔術師団や王宮騎士団がいる。皆優秀な者達ばかりだ。だとすればレイはすぐに警戒され顔も知られてしまう。それは避けたいはずだ。
――やっぱりセイラ……ソフィアは私を殺すためにあの人を使ったんだ……。
心臓の鼓動がうるさく波打つ。これ以上考えるのは良くないと首をブルブル横に振る。
「まだ何も起ってないわ。だから大丈夫」
まだ殺されるわけではない。ならあまりあの男と関わらないようにしようと思うアイラだった。
だがそれは次の日無理だと分かる。
セイラの迎えにレイがまた来ていたのだ。そしてアイラへと来ると頭を下げて挨拶してきた。
「セイラ様の護衛のレイと申します。アイラさん、セイラ様のお友達とお聞きしました。セイラ様は引っ越してきたばかりで知り合いがございません。仲良くしてくださいね」
「あ、はい」
アイラも何事もなかったように笑顔で挨拶する。だが心臓はバクバクだ。
笑顔で言うレイだが目が笑っていないのだ。こういう目をする者は何か探りを入れてきていることは前世の時に経験済みだ。
――きのうの態度がいけなかったかしら。
あからさまに驚き逃げるように離れたことが原因だろうと推測する。自分がされても警戒するだろう。ましてや剣士で暗殺者だ。疑う要素があり過ぎるだろう。
――はあ。失敗した……。
大いに反省する。
セイラと言えば、きのうの車の中のレイの会話を思い出す。
「あの子とはどういう関係?」
目を合わせず訊いてくるレイに戸惑いながらセイラはクラスが一緒で図書室の係を今一緒にやることになったことを説明する。
「マティス殿下に近づくため?」
「!」
セイラは驚きレイを見れば、サングラスからも分かる冷たい視線が向けられていた。ビクっと恐怖で強ばると、レイは嘆息し、すうと視線を窓の外へと向けたため、小さく安堵し肩を上下に揺らす。やはりレイの冷たい視線は慣れない。どうみても自分のことを認めていないことが分かる。
レイは出身は隣りの国の元貴族の出身で、親の事業の失敗と裏切りで没落し、裏社会で生きていたが、争いで生死を彷徨っていたところをグレイに助けられ、グレイに忠誠を誓い今に至ると聞いた。
そして自分が認めた者しか話さないため、屋敷の中でもレイと話すのは極数人だけだ。その選択はわかりやすい。グレイにとって役にたつ者かレイが興味を持った者のみだ。
なら自分は聖女なのだ。グレイにとって優位に働くはずだ。認められてもいいように思える。だがレイはセイラを認めていない。それは見ていて分かる。目を合わせないし最低限のことしか話さないし、セイラを見る時はいつも何も感情がない冷たい鋭い目を向けるのだ。その目を向けられると心臓がぎゅうっと締め付けられるほどの恐怖を感じてしまう。だから視線が外れると自然と力が抜け、ため息をついてしまうのだ。だから余計にレイの不機嫌が増すのかもしれない。
「やっぱりそうか。ほんとあんたマティス殿下のことが好きだな」
馬鹿にしたように鼻で笑いながら言う。
レイは外では「セイラ様」と従者のように言うが、普段はセイラのことを「あんた」と言って名前では呼ばない。これも興味がない者に対してのレイの態度の1つだ。興味がないため名前を覚えていないというのがほとんどの理由だろうが。
それよりも、なぜ自分がマティス殿下を好いているのを知っているのかがセイラは気になったため、怖いが勇気を振り絞って恐る恐る訊いている。
「なぜ……分かったのですか?」
だがレイはそれに対して応えることはなかった。やはりそうかと諦めて窓の外へと視線を向けると、
「明日から俺が迎えに行くから」
とレイが言ってきた。
「え?」
なぜだとレイを見るが、レイは窓の外を見たままセイラへ目線を向けることはなく、話しかけるなという雰囲気を出していた。こうなるとレイは絶対に話すことはない。結局車が屋敷に到着するまでレイとは一言も話すことはなかった。
そして今、レイは営業スマイルでアイラに挨拶をしている。それもなぜか自分の護衛だと言ってだ。
本来の護衛は違う者だ。レイはグレイ専門の護衛剣士なのだ。だからセイラの護衛というのは正しくない。だとすればレイはアイラに会いに来ているということになる。だがその理由がわからない。きのうのアイラの態度は自分とあまり変わらない態度だった。自分と同じでレイが怖くて逃げて行ったように見えた。そこにレイの興味が沸く要素があったようには思えないのだ。
何故だと首を傾げながらアイラを見れば、今日はきのうとは打って変わり、落ち着き普通にしている。
――どういうこと?
意味が分からないと思っていると、
「じゃあね。セイラ」
アイラが別れの挨拶をし、普通に歩いて去って入ったのだ。そんなアイラにレイが、
「また明日、アイラさん」
と手を振りながら声をかけている。これもまたセイラにとって不思議な光景だ。だがアイラは振り向かずにそのまま去って入った。
レイはアイラを見送ると笑顔を消す。
――やはり俺のことを警戒している。いや、怖がっていると言った方がいいか。
だがその理由が見当たらない。『罪人の墓場』の犯人が自分だと言うことを知っているとしても、あの怖がり方は尋常ではない。
――あれは、目の前で俺が誰かを殺したのを見たか、自分自身が命を狙われて負傷したかのどちらかの反応だ。もし目の前で俺が殺したのを見ていたとしたら生きているはずはない。見られた時点で殺しているからな。
ならばアイラ自身が狙われたのかと言えば、それは否だ。今まで殺害しようとして失敗したのは2度だけだ。1人はグレイで、もう1人がこの前戦ったリュカだ。ましてやアイラのような弱い学生を狙ったとして生かしておくことはない。
――不思議だ。面白い。
レイは片方の口角を上げる。
――リュカ・ケイラーといい、アイラ・フェアリ。興味をそそる人材がこの学園にはいるようだな。当分楽しめそうだ。
レイはセイラには目もくれず1人で車へと歩いて行く。それを見たセイラはムッとする。
――護衛でお迎えなら、私をもう少し丁寧に扱いなさいよ!
だが面と向かって言えるわけがない。
「もう!」
吐き捨てるように言うと慌てててレイの後を追うのだった。
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