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101 初対面



「私もよくわからないですよ。ただセイラ曰く、私と友達になりたかったって。凄い照れた顔で言うから嘘じゃないと思う」


 そう少し照れながら説明するアイラに、ジンは大きく嘆息した。


「はあー。バカかお前は」

「バ、バカって何よ!」


 口を尖らせて言い返せば、ジンは真顔で、


「そのままだ。ソフィア……セイラか。あーややこしい。今はセイラだからセイラと言うぞ。セイラがお前と友達になりたいのは、お前がマティス殿下と噂になっているからだ」


 と応えた。


「セイラはマティス殿下を崇拝するほど慕っている。聖女になりたかった理由もマティス殿下の側にいたいという理由だ」

「え? 学生の時から?」

「そうだ」


 ――じゃああの顔を赤くしていたのは嘘ってこと?


 ジンは大きくため息をつく。


「そうじゃなきゃお前と友達になる理由はないだろ。お前はサラと仲がいいからな」

「やっぱりセイラはサラのことをよく思っていないのですか?」


 1週間経つが、まだ一度もサラとセイラは話したことがない。セイラもサラに話しかけてくることもないし目も合わせない。それはあえてサラを避けているということだ。


「ああ。セイラの育った環境を考えれば、自分とはまったく正反対な生活をしてきたサラに不満があってもおかしくない。現にセイラの義父はサラの所に金をせびりに行けと言っていたようだからな」


 そこでアイラは目を細める。


「やたらとセイラのこと、詳しいですね」

「ま、まあな……」


 そこで確信する。


「セイラの記憶を読んだんですね」


 そうでなければ、ジンの確信めいた言い方は納得できない。


「ばれたか。実はな」


 ジンはセイラの初登校の日、セイラに近づき話しかけていた。


「お、今日転校してきた子か?」

「はい。セイラ・ホルスマンです」

「そうか。最初は慣れないだろうが、がんばれ」


 そう言いながらジンはセイラの頭に手を置き、エールを送る振りをして記憶を読んだのだった。


「俺がセイラのことを知っているのは、記憶を読んだだけじゃねえけどな」


 ジンはセイラの家庭環境を元使用人などや近所の者などから調べていた。


「調査結果と記憶を合わせて答えを出した感じだ」

「そうだったんだ」

「それを考慮してだ、お前がサラからセイラのことを聞いてる可能性もあることは頭にあるはずだ。それなのにお前と親しくなりたいのは、マティス殿下が理由しかねえだろ」


 言われればそうかもしれない。前世でもマティスを見付けると、所構わず寄って行き、必要以上にくっついていたことを思い出す。ソフィアの分かりやすい行動に王宮の者全員がソフィアはマティスに気があるのだという認識だった。だからマティスに求婚されていたアイラを目の敵にしていたのだ。


「まだお前に敵意を向けているわけじゃない。ただお前を利用してマティス殿下に近づきたいと思っているだけだろう。ならあまり深入りしないように気をつけることだ」

「はい」


  ◇◇◇


 次の日から図書室の当番が始まった。


「アイラさんとセイラさんね。半月の間よろしくね」


 そう挨拶したのは、図書室の事務員の50代の女性サンドラだ。いつもニコニコしていて朗らかな性格から図書室のお母さんと言われている。


 ――サンドラさん、お元気そう。


 前世の時によくお世話になった。サンドラの説明を聞きながらサンドラとの会話を思い出しながら懐かしさに浸る。


「じゃあお願いね」


 アイラとセイラはまずどこに何があるかを把握するために図書室の本の整理整頓を任された。アイラとセイラは別々で図書室を回る。学校の図書室としてはかなり大きい広さだ。8人がけの長机が何列にも並ぶ場所を囲むように天井まである本棚があり、奥には本棚だけがずらっと並び、ジャンル別に分かれていた。


 ――懐かしい……。


 前世でもよく図書室は利用していた。だからどこに何があるかだいたい把握している。前世ではAクラスだったため、貴族の生徒がほとんどの中でアイラが存在価値を見い出せた唯一のものが成績だった。だから毎日図書室に残り勉強した。だから成績はトップだった。


 ――ここで勉強している時間だけが楽しかったな。


 そこで気付く。あれだけ毎日来ていた図書室に、今世では入学して何ヶ月も経つのに一度も来ておらず、図書室があることさえも頭になかったのだ。それは休憩時間はサラや他のクラスの子と話し、昼はライアンとカミールも加わり昼食を取り、放課後はリュカと特訓をしていたからだ。


 それだけ今世は図書室にこなくても楽しく学園生活を送れているということだ。


 ――そっか。前世はここに逃げてきてたんだわ……。


 そう思うと前世でお世話になった分、今世では整理整頓や清掃をして恩返しをしたいと言う気持ちになる。


 感慨にふけていると図書室の終了19時10分前のチャイムが鳴る。皆本や勉強に集中して時間を忘れてしまう者が多いため、このような処置がとられていた。

 そして図書室の仕事が終り、アイラとセイラはサンドラに挨拶し図書室を出た。図書室から校門までは少し距離がある。結局帰り道が一緒のため仕方なくセイラと横並びで帰ることになってしまった。


「アイラはこの辺に住んでるの?」


 セイラが訊ねてきた。


「うん。家が田舎で遠いから、近場を借りて1人暮らしをしているの」

「そうなのね」

「セイラはどこに住んでるの?」


 気になっていたことを聞く。ジンとサラの話から、セイラも田舎に住んでいたはずだ。聖女に選ばれたことにより身分が低い場合は、どこかの貴族が後見人になり、養女として教育や援助を受けているはずなのだ。


「私は、隣り街のクノエ地区よ」

「じゃあここまではどうやって?」

「車よ」

「セイラって貴族なのね」


 車はまだ金持ちの貴族だけが乗れる乗り物だ。やはり相当財力がある貴族が後ろに突いているのだと確信する。

 校門まで来ると一台の黒い車が止まっていた。すると1人の男性が下りてきた。セイラが少し驚いたような声で男性の名前を呼ぶ。


「レイさん?」


 レイはそんなセイラを一瞥し、そのままアイラへと視線を向ける。アイラは何気なくレイを見て眉を潜める。なぜかどこかで見たことがあるように思えたのだ。なぜだろうと、特徴あるレイの髪型を見て目を大きく見開く。


 ――銀髪に黒いメッシュ!


 忘れもしない。まさしく前世でアイラを指した男の後ろ姿と同じ髪をしていたのだった。

 一気に前世の最期の記憶がフラッシュバックし、動機が激しくなる。

 いきなり目を見開き驚いた顔をし顔色がどんどん悪くなるアイラにレイは眉を潜める。


 ――なぜこの女は俺を見て恐怖する?


「俺の顔に何か?」

「い、いえ……なにも……」


 アイラはレイとは目を合わせずどうにか応える。恐怖と怒りが入り交じり、うまく息が出来ず、応えることもままならない。ここでパニックを起こしてはいけないと、どうにか深呼吸をし気持ちを落ち着かせるようにする。


 ――駄目よ。今世ではまだこの人は私に何もしていない。変に強ばったらおかしいわ。


 いきなり胸を押さえて下を向き荒い呼吸をしはじめたアイラにセイラは声をかける。


「アイラ? 大丈夫? 顔真っ青よ」

「だ、大丈夫……。ちょっと貧血になっただけ……」


 そう言うのが精一杯だった。


「じゃあ車に乗って。送って行くわ」


 そう言いながらセイラがアイラの肩を触ると、アイラはばっとセイラの手を弾き、


「いい!」


 と強い口調で言い返した。


「アイラ?」


 セイラは驚き動きを止める。つい大声を出して否定してしまったことにアイラは後悔し謝る。


「ごめん、大丈夫だから。すぐ直るから。もう今は大分いいから」

「でも……」


 心配そうに覗いてくるセイラにアイラは笑顔を見せ、


「ほんとに大丈夫だから。心配してくれてありがとう。じゃあ私は行くわ」


 アイラはその場を逃げるようにその場を離れた。レイは目を細めながら離れて行くアイラを目で追う。


 ――なぜああも怖がる。俺はあの女に何もしていないはずだが。


 今日は剣も持っていない。それに剣士だということがばれないように服も使用人の服を着て剣気も隠している。だから普通の学生ではばれないはずだ。それなのにアイラの怯え方は剣士を前に命の危険がある時に見せるものだ。

 尋常ではないアイラの態度にレイは眉を潜める。ずっとアイラが去って入った方を見て怖い顔を見せているレイにセイラは首を傾げる。


 ――どうしたの? なぜアイラを?


 するとレイが視線はアイラが消えた方を見たままセイラへ訊く。


「今の子の名前は?」

「え? ア、アイラです」


 名前を聞いて、アイラが『罪人の墓場』に転生させられた女子生徒だと気付く。


 ――あの時の女子生徒か。犯人だと知っている感じかな。用心しておくに越したことはないか。


 レイはフッと笑うと踵を返しセイラに「帰るよ」とだけ言い車に向かった。セイラは一度アイラが去った方角を見る。


 ――今のなんだったの? レイさんがアイラに興味を持ったってこと?


 だがすぐに違うと否定する。


 ――ただ見ていただけよ。


 そう言い聞かせレイの後を追った。







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