第八話 恋に落ちるなんて聞いてな一い!
◇◇◇
「解せない……」
いつもの学校の帰り道、ただひとつ違うのは紫苑と一緒だと言うこと。
「なにが?」
「なんか、すっかり紫苑とカップル扱いされてるんだけど。誰も私の話聞いてくれないし!」
「何か問題でも?」
「問題あるに決まってるでしょっ!皆に変な誤解されたくないの!」
「ふーん?」
「何よっ!」
「別に?元気になって良かったなーと思って」
「きょ、今日も助けてくれてありがと。助かった」
「いいぜ?お前のことは俺が守るって決めてるし」
さらりと言う紫苑の言葉に京香の心臓が跳ねる。でも、京香にはどうしても心に引っかかるところがあった。
「あのさ、紫苑は嫌じゃないの?」
「何が?」
「私に変な力があるから、私のこと守るっていってるんでしょ?そんなの……自分の意志と関係ないじゃない」
「ふーん?そんなこと気にしてたんだ?」
「そんなことって!だって、そんなの変じゃない」
京香はうつむいてしまう。そう、紫苑は別に京香のことが好きでこんなことを言っているわけではないのだ。ただ、自分の力となる神子と結婚しなければならないと決められているだけ。その事実が京香の気持ちを後ろ向きにしていた。
「別に神子なら誰でもいいなんて思ってねーよ」
「そ、そうなの?」
「京香を初めて見たとき、俺の運命の相手はコイツだって思った。こいつを守りたい、守らなきゃって。本能みたいなもん?恋だって、そんなもんじゃねーの?」
「そ、そんなの、したことないからわかんないよ」
「じゃあ、これから俺と恋してみない?」
「こ、恋って!」
「俺のこと、嫌い?」
「き、嫌いじゃないけど」
「キスされてぞっとした?」
「び、びっくりした……」
「ぞっとはしてないわけだ」
京香がこくりと頷くと紫苑はニヤリと笑ってキスをした。
「なっ!」
真っ赤になる京香をからかうようにもう一回キスをする。
「好きだよ。京香」
「え、え、ええー……」
「お前が好きだ。お前、笑うと可愛いしな。だから、俺の前でももっと笑って?女の紫苑の前じゃ可愛く笑うのに、俺の前だとしかめっ面ばっかりでちょっと悔しい」
「か、かわっ」
「うん。可愛い。ちょっと気の強いとこも、虫が嫌いでめっちゃ怖がってるとこも」
「う、う、ううー」
紫苑は真っ赤になる京香の頭を優しく撫でる。
「ま、会ったばっかりだしな。急に俺のこと好きになれっていっても無理だろうな」
紫苑は京香の目を見てにっこり微笑む。
「俺のこと絶対惚れさせるから。覚悟しろよ?」
紫苑の晴れやかな笑顔を見て、すでに落ちそうになっている京香だった。