第四話 キスから始まる物語
◇◇◇
「ん、んん」
頭がぼんやりするけど、なんだか体が暖かい。体の内側に何か暖かいものが流れ込んできてる。唇の触れた先から……って唇!?
京香がカッと目を見開くと、先程の男が京香を抱きしめたまま、がっつりキスをしていた。
(ん?んんっ?夢?あれ?いや、でも、キス、されてる!?)
「んーーーーーー!!!んんーーー!!!」
京香がもがくと、男は閉じていた目をパチリと開けた。
(ん?あれ、確かこの人、金色の目をしてたよね……)
金色に輝いていた瞳は、今は黒く変わっている。男は京香をみると、ニヤリと笑った。
「そんなに暴れんなよ」
「へ、へ、変態っ!なんてことしてくれんのよっ!」
「人工呼吸だが?」
「えっ……」
「意識を失ってたから救助活動を行ってたんだが」
(や、やだっ!私、勘違いして失礼なことをっ!)
「ご、ごめんなさいっ!私助けて頂いたのに失礼なことを言って……」
京香が慌てて謝ると、男は我慢できないというように笑い出した。
「く、くく、ぷはっ、ははは!腹いてぇ。んなわけねーだろ?キスと人工呼吸の違いもわかんねーの?」
「なっなな!や、やっぱりへんた……」
「でも、救助してたのは本当。お前、あいつに生気吸われてたから」
「は?はぁ?生気?」
「そ。さっきのあやかしにね。そのままだとお前、目を覚まさない恐れもあったから、俺の生気を分けてやったの」
「は、はぁ?」
さっきからこの男の言っていることがいまいちよくわからない。ヤバイ奴という可能性が高い。ここは大人しく言うことを聞くふりをして隙をみて逃げるべきか……
「叔父さんは取り敢えず病院だな」
「え?あっ!そうだ!おじさん!」
京香は慌てて起き上がろうとするが、またすぐにふらついてしまう。
「ほら、無理すんなって。お前、死にかけたんだぞ?ちょっとじっとしとけ」
その言葉にぞっとする。そうだ、先程見たこともない化け物に襲われたのだ。この人が来なければ、どうなっていたかわからない。いまさらながら恐ろしさに足が震える。
顔を真っ青にして、震える京香を横抱きにしたまま、男はもう一度キスをする。
(!!!!!!!)
京香は声にならない叫びを上げた。
「大丈夫。俺が守ってやるから。とりあえず叔父さんを病院に運ぼう」
もう何がなんだか分からない。とりあえず体中をゆでだこのように真っ赤にしながら頷く。今は叔父のことを考えるべきだろう。
◇◇◇
「おじさん……」
「大丈夫、今は寝てるだけだから。でも、今までかなり無理してたんだろうな。しばらく入院して一通り検査を受けた方がいいってよ」
「あの、ありがとうございます……助けてくれたのに、ちゃんとお礼言ってなくてごめんなさい」
「いいよ。今日は色々あって疲れただろ?気にすんな。家まで送るよ」
(家、ひとりでいるの、怖いな……)
「ん、あー、あんな事があった後じゃひとりはまずいかな……」
とそこに、
「京香ちゃん」
「あ、おじいさん!」
「叔父さんが倒れたって聞いてな。色々入院の準備もあるじゃろうし、ひとりじゃ大変じゃろう。紫苑に手伝わせるから今夜から家にきたらどうかな」
「あの、いいんでしょうか」
「もちろんじゃよ。さぁ、おいで」
「おじいさん……」
色々なことがありすぎて心細かった心に、おじいさんの優しさが嬉しかった。