第二話 絶世の美女!?現る!
◇◇◇
「ここが、京香がお世話になるお屋敷ですか……」
「凄い豪邸……」
「なぁに、古いだけでね。広いぶん掃除も大変ですし」
おじいさんに案内されて向かったさきは、広い森を抜けた先にぽつんと建っている大きな一軒家だった。見るからに歴史を感じる日本家屋で、悪い政治家が密談に使いそうな高級旅館のイメージに似ている。
「通いの家政婦さんがいたんだが、その人ももう年でねぇ。私の隠居とともに引退してしまったんですよ」
「そうなんですか」
「さぁさ、入って下さい。紫苑、連絡しておいたお客さんを連れてきたよ」
おじいさんが玄関先で声をかけると、奥からすっと、和服を着た女性が顔を出す。
「あなたが京香ちゃんね?」
(はわわわわわ!!!な、なんて美女!)
「はじめまして。森咲紫苑と申します。」
にっこりと微笑んだその艶やかさに思わず顔が赤くなる。つやのある黒髪は緩くまとめられて横に流し、目元に差した赤い紅がよりいっそう艶やかさを引き立てている。口元の黒子がなんとも色っぽい。
隣の叔父に至っては、口をぽかんと開けたまま真っ赤になって絶句していた。
「は、はじめましてっ!私、山本京香です!こっちは叔父の山本隆です!」
「ふふ、いやだわ、そんなに緊張しないでちょうだい。さぁどうぞ、お二人ともお上がりになって」
誘われるままフラフラと中に入ると、意外と中は西洋風のアンティークな作りをしていた。
「わぁ、素敵なお部屋!」
「ふふ、気に入ってもらえて良かったわ。見た目は純日本家屋なんだけど、中は西洋風なのよ。ちゃんと最新家電も揃ってるから安心してね?」
「はっ、はいっ!」
優雅な猫足のテーブルに座り、紫苑が出してくれたお茶とお菓子を食べる。香りの高い紅茶はとてもおいしく、クッキーは口の中でホロホロと崩れる口当たりが絶品だった。
「はぁ、幸せ……」
「お口に合うかしら?慌てて焼いたから味見もしてなくて」
「え?これ、紫苑さんが作ったんですか?すごい!デパートで買ったクッキーよりも、おいしいですっ」
「嬉しいわ。お菓子づくりが趣味なの」
優しく微笑む彼女を、思わずぽーっと眺めてしまう。こんなに美人なのに優しいなんて!しかも女子力高すぎっ!本当に京香が何かの役に立つのか、とたんに心配になる。
「あの!私、家事はそれなりにできると思うんですが、お洒落なお料理とか作ったことないし。ほんと、特に取り柄もないんですけど……」
京香の言葉に紫苑はにっこりと微笑む。
「実はね、お菓子はよく作るんだけど、お料理はさっぱりなのよ。」
「そ、そうなんですか?」
「執筆中は集中したいから、家事もしないしね」
その言葉に、思い出したように叔父の隆が問い掛ける。
「紫苑さんは作家さんだと伺いました。どんなお話を書いてるんですか?」
「そうですねぇ。『あやかし』についてかしら」
「あやかし、ですか?」
「ええ。一種の和製ファンタジーですわ」
「和製ファンタジーですか。面白い題材ですね。なぜか怖い話ほど、聞きたくなるものですしね」
「ええ。山本さんは歴史学者さんですよね?」
「はは。いや、遠い昔のことですよ。今やしがない無職のおやじです」
「どのような研究をしてたんですか?」
「私の研究は、寂れてしまった街や神社なんかの歴史を調べることで。その土地に根付いていた、失われた伝承のようなものを研究していました」
「まぁ、私の作風にぴったりですね。色々詳しいお話をお聞きしたいわ」
「ははは、興味を持っていただけたらうれしいです。でも、これから遠くに働きに出ることになっているので、当分皆さんとはお会いできないかも知れませんね」
寂しそうな顔をする隆に紫苑は小さく微笑んだ。
「いいえ、きっとすぐに問題は解決しますよ」
「そうですな。そう案ずることもありますまい」
隆は少し目をみはると、ぽつりと呟いた。
「そう、だといいのですが」
やはり、相当無理をして明るく振る舞っていたのだろう。隆からはこれからの不安や寂しさがひしひしと伝わってくる。
「私のことまで気にかけて貰って申し訳ない。ぜひ、姪をよろしくお願いします」
隆が立ち上がり二人に頭を下げると、京香も慌てて立ち上がり頭を下げる。
「お任せください。京香さんは確かにお預かりします」
紫苑とおじいさんがにっこり微笑んだ。