第十話 あやかし屋敷にようこそ!
◇◇◇
森咲邸につくと、早速引っ越しの荷物を解いていく。京香の借りている部屋は、柔らかな日差しの差し込む可愛らしい洋室だ。
アンティークの机と椅子、ソファーにベッドなどがセンス良く並んでいる。必要な家具が一通り揃っているため、引っ越しといっても荷物は多くない。持ってきた洋服や本などを備え付けの家具にどんどん収納していく。
「ニァオ」
声のするほうを振り返ると、綺麗な毛並みの三毛猫がするりと部屋に入ってきた。
「わ、かわいい!ここの家の猫かな?猫神さまの家だから猫がいるのかな?」
猫はソファーに飛び乗ると、京香の様子をじっと観察している。京香は一端片付けの手を止め、猫に近づきそっと背中を撫でた。猫は逃げることもなく目を細めて撫でさせてくれる。
「ねぇ猫ちゃん、私も今日からここで暮らすことになったんだ」
猫は薄く目を開ける。
「とりあえず、なるようにしかならないか」
京香はひとつ息を吐く。猫は目を閉じるとそのままソファーで寝てしまった。柔らかな毛と小さく温かなぬくもりに癒される。
◇◇◇
「じいちゃん?」
紫苑の呼び声に三毛猫は目を開けるとスルリと部屋から出て行く。京香はソファーで寝てしまったようだ。
「ああ、京香の部屋にいたんだ。京香は寝たのか。しょうがねーな」
紫苑は京香を抱き上げるとベッドに運ぶ。
「お疲れ」
髪をかきあげると額に軽くキスをする。
◇◇◇
『京香ちゃんとは仲良くやっていけそうかい?』
「そうだな。俺は気に入ってるけど?」
『そうか……神子の宿命は重い。人の身でありながら、あやかしを引き寄せてしまうのじゃから。わしが神の身でありながら、ただびとを愛したばかりにな……』
「それでも二人は幸せだったんだろ?」
『ああ、彼女をいまも、愛しているよ。変わらずにな』
猫は三日で恩を忘れるというが、猫神の最初の神子に対する愛は深かった。ただの人であったその身に人の身に余る神通力を分け与えてしまうほどに。
猫神の本来持つ強大な力は神子と半々にわかれてしまい、猫神は神子なしではいられなくなってしまった。
長い長い時を経て、いくつにも枝分かれした子孫の中からたった一人の後継者が生まれる。猫神の神力を引き継ぐもの。それが、紫苑。
そして、神子としての能力を受け継ぐ猫神の末裔の子ども達。昔は、多くの家系から神子が産まれ、ただひとりの猫神を支えた。しかし、長い長い年月が力を薄めてしまったのか、神子の数は減ってしまった。
猫神はほとんど全ての力を次の世代に渡したが、現世に残り、今も自分の末を見守っている。
◇◇◇
「紫苑?」
紫苑が縁側で猫神を膝に乗せてぼんやりしていると、京香が起きてきた。
「あ、その猫、さっきの猫だね。なんて名前?」
「じいちゃんだよ」
「じいちゃん?もうちょっといい名前なかったの?」
「じいちゃんはじいちゃんだしな。この家の真の主だよ」
「あはは、猫は家につくって言うしね」
京香は紫苑の隣に腰掛けると猫神の背中を優しく撫でる。
「ねえ、紫苑はあやかしと戦うの、怖いって思ったことないの?」
「んー、あやかしは狩らなきゃって本能みたいなもんがあるからな」
「そうなんだ」
「京香は?」
「私は怖いよ。当たり前じゃん」
「だよな」
「でもさ、私が知らなかっただけで紫苑は、ずっとひとりで戦ってきたんだね」
「まあな」
「すごいね」
「べつに……」
「すごいよ。正直私に何ができるのかとかまだよくわかんないけど……紫苑が必要なら私の力、使って欲しいんだ」
「いいのか?」
「うん。あ、でも!急にキスするのやめてよねっ!」
「ああ、あれは緊急だったから。一番手っ取り早かっただけで、こうして手を繋ぐだけでもお互い力を分け与えられるんだ。」
「え?そうなの?よかったぁ……」
「気にするとこそこなんだ?」
「そこに決まってるでしょ!」
紫苑がふっと笑うと、京香はムキになって反論している。
二人の様子を眺めつつ猫神はウトウトとまどろむ。神とは言え、力の大部分を失った身では具現化するにも力を使う。小さな猫の姿ならともかく、人の姿でいるのはそれなりに骨が折れるのだ。当分は猫の姿で力を蓄える必要がある。
背中を撫でる手から京香のもつ神子の力が優しく流れ込み、猫神にも力を与えてくれる。弱くなった神通力もそのうち戻るかもしれない。
日差しは暖かく、そよそよとそよぐ風が優しく三人を包み込んでいた。
おしまい。
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