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俗世界の半魔術師  作者: 柏木和人
第1章 『存在の証明』
3/3

第3話 『銀髪の魔術師』


 日本の首都東京。人口は約1,500万人と日本の中で最も人口が多い。日本の政治や経済はここを中心に回っているといっても過言ではないだろう。そしてここ東京には第1区画から第15区画まで存在し、中枢機関のほとんどは第8区画に設置されている。

 空翔は東京の第4区画に住んでいる。第4区画は高層ビルが立ち並んでいる大都会と言うよりは、閑静な住宅街といったイメージだ。駅の近くは飲屋街となっているため治安はあまり良くないが、駅から少し離れると小学校や中学校といった学校施設やスーパー、コンビニなどが複数あり、住みやすさといった点ではとてもいい街である。

 空翔の通う星城大学も第4区画にある。星城大学の敷地は32万平方メートルもあり、東京ドームの約6倍とかなり広い。そのせいで授業間の移動がとにかく大変で、前に行われた講義の場所と次に行われる講義の場所が遠かった場合、かなり急がないと次の講義には間に合わない。そのため、人によっては大学から一番近い1号館の講義だけをとる学生もいる。ちなみに空翔もその1人である。

 そして今、空翔は1号館で5限の講義を終え、大学の校門を抜けたところだ。5限の授業が終わると時刻は18時半と周囲はだんだん暗くなり始める頃で、この時間は5限の授業を終えた大学生達が一斉に帰宅し始めるため大学前は賑わっていた。

 すると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきて、振り返るとやはり隆弘だった。


「やっぱり隆弘か。今日5限だっけ?」


「そそ。今日は途中まで一緒帰ろうぜ」


「いいけど、隆弘の家は俺と真逆じゃん」


「今日は居酒屋のバイトなのよ」


「そう言うことね」


 空翔は納得すると、2人で同じ方向に歩き始めた。

 そして、空翔は記憶に新しい話題を振る。


「そういえば、昨日のニュース見たか?」


「ああ、それな。今日は周りもその話題でひっきりなしだったよ。連続殺人事件はさすがにやばいよな」


 隆弘のその言い方からするとやはり自分以外の大学生もこの話題には驚いた人が多いのだろう。


「だよな。しかも被害者は同じ大学で、同じ学年なんてさ」


「そうそう、その被害者、俺と同じゼミ生だったんだよ」


「えっ!まじ!?」


「おおまじ。俺はあまり話したことはなかったんだけど」


 被害者が同じ大学というだけで十分驚いていたが、友達のゼミ生ともなるとより身近に感じられてぞっとする。


「金森さんっていう子で、真面目で教授からの評価も高くていい子だったんだよ」


「そう言えば、ニュースでも金森さんって言ってたな」


「そうだろ。それでこれは女子から聞いたんだけど、金森さんストーカー被害にあってたらしくてさ」


「スートーカー被害!?」


「うん、1ヶ月くらい前から。付き纏われて困ってるって女子に相談してたらしくて」


「えっじゃあ、そのストーカーに殺されたってことか?」


「俺も良くわかんないけど、おそらくそうかなって。でもストーカーが連続殺人っておかしいよな?」


「たしかに」


 隆弘のいうことも頷ける。連続殺人事件は全てここ1週間の間に行われている。ストーカーは他人への執着が犯罪に現れるものだから、こんな短期間で3人も殺害することは通常ではあり得ないだろう。


「それに俺もゼミ終わりに、そのストーカーらしき人見たことあるんだよ」


「おいおい、それほんとか?」


「ああ、1ヶ月くらい前なんだけどよ。ゼミが終わってみんなで帰ってたら、校門に背の高い男の人が立ってて、その男見て金森さんめっちゃ怯えて、慌てて帰って行ったんだ」


「そいつめっちゃ怪しいな」


「だろ?俺もそいつが犯人なんじゃないかって思ってる」


「それ、警察には話したのか?」


「ゼミの女子が話したって言ってたよ」


「それなら良かった」


 俺は事件は思ったより早く解決しそうで安心した。目撃者も複数いるようだし、大学前には防犯カメラが至る所に設置されている。顔が分かっているなら解決は目前だろう。

 ただストーカーが連続殺人事件を起こすという点やニュースで言っていた死因が不明という点には少し引っかかるところがあった。


「まあ、俺たちがこんな話してても意味ないから、あとは警察に任せるしかないよな」


 隆弘の言うとおりだ。一市民である俺達では知れる情報量に限界があるし、解決は警察に尽力してもらうしかないだろう。



 その後も他愛のない会話が続き、隆弘のバイト先の近くまで来た。


「あれ、隆弘の働いてる居酒屋この辺じゃなかった?」


「あ、そうだった。話に夢中になって空翔の家まで行っちゃうとこだったぜ」


「いや俺は別に構わないけどよ」


「今日、最近新しく入った可愛い子とシフト被っててさ。遅れて悪印象になるとまずいだろ?だから空翔の家はさすがに寄れねえわ」


「別に来いとは言ってねえよ」


「あら、寂しい。じゃ俺こっちだから。また学校でな」


 俺も「じゃあまた。」と返すと、隆弘は小走りでバイト先に向かっていった。本当はバイトの時間ギリギリだったのに俺の歩くスピードに合わせてくれていたのだろう。やっぱり隆弘は優しいやつだ。


 そんなことを思いながら俺は再び家の方向に歩き出す。


 もうこの頃には周囲は暗くなっていて、道路脇の街頭が徐々に点灯し始め、街は夜の姿へと変貌していた。



 すると、視界の端で遠くの空が少し光ったように見えた。


 俺は立ち止まり、その光が見えた方向に目を向ける。



 しかし、しばらく見ていても何も起きなかった。



 俺は気のせいかと思い、再度家の方向に目を向けようとしたそのときーー



 東の上空に突如青色の閃光が現れた。


 その燈は夜空の広範囲に広がり、暗闇で隠れていた雲を浮かび上がらせ、まるで夜空に浮かぶ太陽のように街を照らした。

 その状態は数十秒続き、その後現れた閃光は刹那のうちに収縮し消滅した。

 

 それは誰がどう見ても怪奇現象。自然の摂理では到底説明できないだろう。いやできているなら既に俺は知っているはず。少なくとも俺が生きてきた人生では見たことがない出来事だった。


 そして空翔が周りを見渡すとーー何かがおかしい。


 周囲には時間帯的に学校終わりの学生や帰宅途中の社会人など複数の通行人がおり、当然彼らもこの現象に気づき驚愕しているーーわけではなかったのだ。


 通行人は何事もなかったように平然とひたすらに歩いていた。その現象に驚愕している人は愚か、目を向けている人さえいなかった。空翔からしたらそれはあまりに平常的で、異常な光景だった。


 解せない違和感、居心地の悪い不快感が空翔を襲う。


 この現象を見て見ぬふりはできないと心のどのかが叫んでいた。それは単純な叫びとは違った真っ当な使命感だったのかもしれない。


 

 そんなことを考えていた矢先ーー



 今度は赤色の閃光が同じ場所近くに現れた。


「またか!?」


 思わず声が出てしまう。

 今度の閃光は前回の閃光よりは小さく、照す範囲も狭かったものの怪奇現象と言える程には十分だった。


 数秒後、やはりその閃光も姿を消した。


 

 謎の期待を込めて、再び周囲の様子を見る。


 ーーが、その期待は早々に裏切られた。


 やはり誰1人としてその現象に気づいている人はいないようで、道ゆく人々はただただ通行人としての役目を全うしてるだけだった。


 こうもなれば、嫌でもその現象が俺にしか見えていないのではないかという疑いが芽生えてくる。

 果たして何のために。誰がこの光景を俺に見せているのか。俺に何を求めているのか。心が騒めき、膨れ上がる探究心は自制を超え、気がつくと足は家の方角ではなく、その閃光の見えた東の方角に走っていた。


 一体何をしたいのか自分自身にも分からない。ただ確かめたかった。この現象の正体を。心の騒めきの正体を。


「確かあのあたりには、神社があったよな」


 空翔は2回の閃光が見えた場所を思い返しながら呟く。


 ここ第4区画の東にはちょっとした山があり、その頂上付近に神社がある。その光の見えた角度や高さから俺はその光が神社のあたりで現れたと推測した。毎年、初詣は家族でその神社に行っているからそこまでの道はよく知っている。


 そこに行けば何か分かる。根拠のない自信が空翔にはあった。


 真っ直ぐ、神社の方へ、空翔の姿は暗闇を切り裂いていった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 10分程走ると、目的地であった神社の目前までついた。

 そこには大きく息を乱し、疲れ果てている空翔の姿があった。


 何せ走ったのは高校3年生の時の体育祭が最後で、今まで全くと言っていいほど運動をしてこなかったのだ。その状態で10分間、ほとんど休みなしで走り続けるなど空翔にとっては拷問以外の何物でもなかった。


 しかし、いつまでもここで休んでいるわけにはいかない。ここには目的があってきたのだから。


 空翔は顔をあげると、神社に目を向けた。

 神社の入り口には立派な石造りの鳥居が立っていて、そこから100段ほどの階段を登った先が境内となっている。


 その階段を見て一瞬帰ろうか迷うが、ここまできたら引き返せないと自分に言い聞かせ足を動かす。明日は確実に筋肉痛だろう。

 

 空翔は入り口の鳥居をくぐるーー


 ーーん?


 鳥居を潜った瞬間、何かを抜けたような感覚が体をはしり、鳥居の前後を仕切る空気が僅かに揺らいでいるように見えた。


 それは、ほんの一瞬の出来事だったので、空翔は気のせいかと思い先に進む。


 その後階段を登り、境内まであと数段のところで微かに話し声が聞こえた。それは、何か揉めているようで、決して仲睦まじく会話をしているとは思えない声色だった。


 そこからは足音で気づかれないように一段一段慎重に登り、境内につくと5人の男達と1人の20代後半くらいの女性の姿が見えた。


 ーーこんな時間に一体何してるんだ。

 

 男達は黒いマントのようなものを全身に羽織っており、全員気味悪い白色の仮面を被っていた。もし街中をその服装で歩いていようものなら確実に職質されるだろう。

 そんな男達の目の前にはひとりの女性が立ち尽くしており、それは男達の珍奇な服装も相まって、暴漢が女性に悪事を働いているようにしか見えなかった。


 この位置からでは何を話しているか聞き取れなかったので、空翔は彼らに気づかれないように少し奥の茂みの裏に隠れて様子を伺うことにした。

 すると男性の声が聞こえてきてーー


「いい加減観念しろよ。魔戒暦亭(グリモア)の場所を教えてくれたら命までは取らないでやる」


「だからそんなもの見たことも、聞いたこともないってさっきから言ってるでしょ。それに、仮に私がそれを知ってて場所を話したとしてもどうせ殺す気なんでしょ」


 そのやりとりはまるでドラマのワンシーンにでもありそうな内容だった。この場合、相場では、男達は金を求めると決まっているが、男たちが求めるのは金ではなく、グリモアと言うものらしい。それを聞いたことはないが、きっと大切な何かなのだろう。


「まさか。俺達はこう見えて意外と優しいんだぜ」


「へー、集団で女性を追いかけ回す人達が果たして優しいのかしら」


「俺達はただ話をしたいだけなのにお前が逃げるからだろ」


「そりゃ、こんな怖い人達に声かけられたら誰だって逃げるわよ」


「つれねーな。こんな優しく扱ってやってるのに。俺達が本気出したらお前もうこの世にいないぜ」


 男達のセリフはもはや悪役としかいいようのない言葉たち揃い。

はいっきり言って気持ちいいくらいだ。そんな悪役じみたセリフがよくもぽんぽん出てくるものだと感心すらしてしまう。


 すると男達の中で1番偉そうな人が話し出す。


「俺達もお前自体に用はない。俺達が知りたいのはお前の持ってる情報だ。お前がラース家の人間なのはその胸の徽章を見れば分かる」


「そ、それは・・・」


 確かにその女性の右胸には宝石の埋め込まれた徽章が付いていた。


「それでも知らないって言うのか?」


「私がラース家の人間なのは認めるけど、ほんとに魔戒暦亭(グリモア)の場所は知らないの。信じて」


「悪魔で知らないのを突き通す気なんだな。まあ、知らないなら知らないでお前はもう用無しだが」


 これはまずい展開になった。ほとんど何を言っているのかさっぱりだが、今の状況はだいたい俺にも理解できる。女性ががこのままだとやばいと言うことだ。

 ただ、なんの武器をもっていない俺が単身で出ていったとして、何か変わるだろうか。相手の男達も武器は持っていないようだが、何せ多勢に無勢。5人で一斉に来られたら勝ち目はない。


 しかし、この状況をただ見ていられるほど俺の正義感は腐ってはいなかった。

 俺は父親の女の子は絶対に泣かせるなという教育のもと育った。今まで俺はしっかりとその教訓を守り、妹を邪険に扱ったことなど一度もない。


 とするとこの状況は俺の根性が試されている場面である。別に真っ向から戦う必要はない。なんとか隙を作って、女性を逃してから俺も逃げる。そんなプランが頭の中に思い浮かんだ。


 ーー行くか。


 俺はついに決心し足を踏み出したそのとき、自分の後ろに誰かがいる気配を感じた。


「君、いつからいたの?」


 そんな声を聞き振り返ると、そこにはついさっき見た青い閃光が俺の視界いっぱいに広がった。数秒後、空翔の体は、一直線に吹き飛ばされ、境内の壁に大きく打ちつけられた。


「ゔっっ」


 それは声が出せない程の痛みだった。


 その後空翔の体は硬いアスファルトの上に重力の働くままに落下した。


 ーー何が起きたんだ。


 激しい閃光で視界が見えなくなったと思ったら、気がつくと体は横たわっていて、視界には夜空が広がっていた。

 空翔はなんとか顔をあげ自分の体をみると、着ていた服は壁に打ち付けられた衝撃でボロボロ、出血で服の一部は赤く染まっていた。

 おそらく骨も数箇所折れているのだろう。手足を動かそうとしてもまるで自分の手足ではないかのように言うことを聞かなかった。


 まもなく、激しい痛みと熱が空翔の全身を貫く。


「あぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」


 もはや痛いとも熱いとも表現できないそれらは、絶叫する余裕すら奪い、空翔は意識を保つことで精一杯だった。


 

「お前らは魔人の気配にも気づかない程のあほなのか」


「すみません、ギーク様。周囲に魔人の気配はなかったと思っていたんですが」


「いただろ。こんな近くに」


 そんなことを言いながら俺の体を吹き飛ばした男が俺に近寄ってくる。


「お前、魔人の割には弱いな。そんな強い魔法を使ったわけじゃないんだが」


 魔人?魔法?こいつは一体何を言っているんだろうか。そんなファンタジーじみた言葉は漫画やアニメだけのものではないのか。それともあれか、この男は厨二病なのか。学生時代に夢見た世界を大人になってまで引きずっている頭のおかしいやつなんだろうか。


「それにこの辺をうろうろしてたってことは協会の魔術師(ウィザード)か?協会も随分弱っちまったもんだな」 


 そんなことを言いながらその男は、「まあいい」と振り返り、集団のもとに戻っていく。


「お前達、魔戒暦亭(グリモア)はどうなった」


「すみません、まだ。ラース家の魔人は何人か見つけたんですが、どうにもみんな口を割らなくて」


「そうか。その女もラース家の魔人か」


「はい。胸の徽章からみて確実かと。ですが、この女もなかなか話そうとしなくて」


 男はゆっくりとその女性に近づいた。


「君、まだ話す気はある?」


「だから、そもそも何も知らないって言ってるでしょ?」


「強がりだねー。これでもまだ話さない?」


 男は右手の掌をその女性に向けて広げ、何か呪文のようなものを唱える。すると、突如その女性は崩れるように膝を地面につけ、首を両手で掴み苦しみ出した。


「や、、、め、、、、、、、、、」


「これは対象から魔力を吸い取る魔法でね。魔人にとってはまるで拷問されてるみたいだろ?」


「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「耐性を持たないお前は魂すらこの世から消えてしまうかもなぁ!」


 空翔はその様子を見て、信じがたいがその男はただの人間ではないことを確信した。これはの人間の繰り広げられる光景ではない。


 しばらくすると男はその手を下ろした。同時に女性はまるで魂を抜かれた人形のように地面に倒れこむ。


「どう?少しは話す気になったか?」


「はぁ、はぁ、、、、」


「さっさと話せよ!」


 男はうつ伏せに倒れた女性を足で転がし、仰向けに向ける。


「おーい、聞こえてんのか?」


「はぁ、、、、はぁ、、だから、、ほんとに、、知らないって」


「ああ、そうかよ!」


 男は渾身の力で女性を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた女性は地面に2バウンドくらいしたところで境内の石灯籠にぶつかり止まった。


 空翔はこのみるも無惨な光景をみて、何もできない自分が悔しかった。何度も何度も手足を動かそうと試みたが、やはり全く動かない。喉の奥には液体状の”何か”が詰まっているようで声すら出すことは出来なかった。今の俺にはこの状況をどうすることもできないのだ。

 最後の力を振り絞ってなんとか保っていた意識もこの頃には既に視界の上下左右が分からない程には朦朧としてきていた。

 もう俺の人生の全ての運を使ってくれてもいい。俺は見なかったことにするから、神様の特権でこの状況を変えれるのなら変えて欲しい。とにかく誰かこの状況を変えてくれと心から思った。


 しかし、そんな俺の願いは届かず、男はゆっくりと既に瀕死であろう女性に近づく。


「これで聞くのは最後だ。魔戒暦亭(グリモア)はどこにある?」


「く、、」


「あ?聞こえねぇよ!もっとはっきり話せ!」


「このくそ、やろう」


 女性は最後の力で顔を上げ、憎悪に満ちた視線を男に向ける。


「そうか、残念だよ。死ね!!」


 男の声が周囲に響くーーーー



 ーーー女性も俺も誰もが目を瞑った、次の瞬間




 燃え盛る真っ赤な炎が神社の境内を囲むように広がり出した。




「「なんだこれは!?」」


 男達は突然の出来事に驚き、ギースと呼ばれる男もその手を止め、仲間達の方に目を向ける。


「一体何が起きている?」


「私達にも分かりません!ただ、この炎の中では空間操作系統の魔法は封じられているようです!」


「あーそういうこと。逃げ道を塞いだってわけね」


「逃げ道を塞ぐ?何のために?」


「そんなの決まってる。俺達を逃がさないためだろう」


「それじゃまさか?これは、やつらのしわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」


 男の仲間の1人が悲鳴をあげながら、突如現れた煉獄の炎の渦中に一瞬で身を消した。


「ギース様ここは一時撤退を!この魔力量はかなり腕利きあああぁああぁああああぁあぁぁぁぁぁぁ」



 その後も次々と男の仲間は煉獄の炎の渦中に姿を消していき、とうとう残ったのはギースと呼ばれる男だけになった。




「弱い者をいじめるのは感心しないなぁ」



 突如その声は現れ、今までの殺伐とした状況も相まって、まるで天使の囁きのようだった。



 男はその声の聞こえた拝殿の屋根に目を向けると、そこには1人の少女が凛然と立っていた。

 肩くらいまでの銀髪は僅かな月光を反射して細かく煌びやかに輝き、唐紅色の瞳がまるでこの世の真理を見透かしたかのようにこちらを見据える。

 身長は160cmくらい。赤色を基調とした服装は華美な装飾等はなくシンプルなものだったが、それが少女の清楚さ・凛々しさをより際立たせていた。


「俺の仲間を一瞬で灰にしてくれたやつがよく言うよ」


 男は啖呵を切るように少女に向けて言葉を吐く。


「ひっどーい。そんなこと言ったら私が悪者みたいじゃん」


 少女から返ってきた言葉にはどこか幼さが感じられ、男としては少し拍子抜けだった。


「俺からしたらお前が悪者だよ」


「それもそっか」



 少女は拝殿の屋根から飛びおり、ゆっくりと地上に降り立った。



「女が1人で俺の相手をできるとでも」


「だってあなたそんな強くないでしょ。それくらい見れば分かるよ」


「随分と生意気だな。でもそういう女嫌いじゃないぜ」


「私はあなたみたいないじめっ子は嫌いだけどねー」


 男は少女のあまりに馴れ馴れしすぎる態度に苦笑した。



「にしてもやりたい放題やってくれたねー」


 少女は周囲を見渡すと、境内の荒れ果てた様子に驚愕する。

 社務所の屋根は吹き飛び、参道の石は無造作に飛び散り、境内の壁は崩れ落ちている。もはやそこは境内としての原型をとどめていなかった。

 そして、少女は近くの崩れ落ちた壁の下で倒れている空翔を見つけると、そこに近寄り、屈んで状態を確認した。


「君も大丈夫?」


「にげーーー」


「よかった意識はあるみたいね。あとでヒールしてあげるからもう少し頑張ってね」



 少女が立ちあがろうとしたそのとき、複数の閃光が少女の元で爆発し、その爆発は周囲の土や石を巻き上げ大きな砂埃を立てた。



「よそ見してるそっちが悪いんだぜ」


 男は攻撃が少女に命中したことを確認すると、再び当初の目的を果たすため振り返った。



 しかし、安心したのも束の間、


「女の子に不意打ちはないんじゃない?」


 と少女の声が砂埃の中から聞こえてきた。



「なに!?あれは確実に命中したはず!」



 爆発時の砂埃が風に吹かれて視界が開けると、そこには何事もなかったかのように少女が立っていた。



「あなたの見間違いでしょ?とゆうか倒れてる人が近くにいるのに当たったらどうするわけ?」


「そんなこと知らねーよ。そこで倒れてるよえーやつが悪いんだろ。」


「最低ね。私はあなた達のそういう他人を見下す態度が嫌いよ」


「お前の方こそ弱者を守って何の意味がある?()()()()では弱者は等しく強者の餌だ。それ以外に何の価値もねーよ」


「随分と捻くれた思想をもってるのね」


「褒め言葉として受け取っておくぜ」



 話にならないと思ったためか、少女は大きくため息をつき、再び男に顔を向ける。



「それで今度は私の攻撃の番ってことでいいのかな?」


 そのときの少女の表情はついさっきまでの澄み切った表情ではなく、この状況に終止符を打つような決心のついた表情だった。

 男を見る少女の視線は鋭く、唐紅色に輝くその瞳は彼女に吹き荒れる風や周囲の静けさをも従属させるかのような自信さえ感じる。



「ああ、こいよ!せいぜい俺を楽しませてくれ!」



 少女はその声を聞くや否や、右手の掌を真上にあげると、境内の周囲を囲んでいた炎の火力が一気に増し、その炎は10メートル程の火柱に発展した。

 その火柱はメラメラと紅焔を煌めかせ、ほとばしる火花がまるで花吹雪のように周囲を舞い、辺り一体を銀朱色に染め上げる。


 その後、その火柱は男のすぐそばまで移動し、男の周囲を囲み、ぐるぐると旋回し始めた。



「一応聞いとくけど投降する気はない?そのままだとあなた確実に黒焦だけど」


「まったく、さっきから舐めた口聞きやがって。でもその言い方、やっぱお前協会の魔術師(ウィザード)なんだな」


「そうよ。あ、いってなかったっけ?」


「まあ、別に今となってはどうでもいいが」



 男は大きく笑う。そして少女に対して真っ直ぐに視線を向けた。



「俺は俺の正義を全うするために戦う。お前ら協会もいずれぶっ潰す。投降なんざする気はさらさらないね」


「それが答え?」


「ああ」


「そっ。じゃあ、さよなら」


 少女が真上にあげていた右手を男の方に向ける動作をすると、男の周囲を旋回していた全ての火柱が、光速で男めがけて一直線に動き出し、男と接触した瞬間大爆発を起こした。


 その爆発の衝撃は周囲の木々や建物を大きく揺らし、激しい閃光は都会の夜の暗闇を照らすには十分すぎるくらいだった。












「ちょっとやりすぎちゃったかな」



 少女は反省の笑みを浮かべると、爆発の跡地を確認する。


 そこには男の影形は全く残っていなかった。




「あっ!」


 その後少女は何かを思い出したかのように振り返り、空翔の元に駆け寄る。


「良かった。まだ生きてる」



 少女の声は既に意識を失っている空翔に届くことはなかった。


最後までお読みいただきありがとうございます。柏木和人です。

やっと物語が動いてきました。次回以降もっと動いていく予定です。


そして更新頻度ですが今のところ週3投稿できれば良いなと思っております。


いいねや高評価、感想、改善点などを伝えてくださると今後の励みになりますのでぜひお願いします。


それでは引き続き作品をよろしくお願い致します。

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