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俗世界の半魔術師  作者: 柏木和人
第1章 『存在の証明』
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第1話 『始まりの視線』

 ーーこんなことなら人生をもっと楽しんでおくんだった。


 それは一瞬のことだった。"誰か"に声を掛けられて振り向いたら、眩しい光に包まれて気がつくと、体が硬いアスファルトの上に横たわっていた。

 着ていた服は赤く滲み、体の下には大きな血の水たまりができている。


 ーーおいおい、これ全部俺の血か。


 今までそこそこ楽しい人生だったが、まだまだやり残したことがたくさんある。まだ、死にたくない。 


 すると微かに誰かの声が聞こえる。 俺を"やった"やつの声とは違う少女の声。


「だい・・・ぶ・・・?」


 何を言ってるのかははっきりとはわからないが、それは心の奥底まで響くとても心地よい声だった。 

 視界の片隅に少しだけその少女の顔が見えた。どうやらその子は俺を心配しているようだ。


 ーーこんな可愛い子に心配されて死ねるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ。


 俺が倒れているのをみて駆けつけてくれたのだろうか。しかし、ここにいたら彼女も殺されてしまうかもしれない。


「にげ・・・・」


 逃げろと少女に言いたかった。しかし、喉に"何か"が詰まっているようで思っているように声が出せなかった。


 すると次の瞬間一気に意識が遠のく。微かに見えていた視界も徐々に見えなくなり、体が暗闇に吸い寄せられていく。


 ーーああ、ここまでか。


 意識と外界が完全に閉ざされ、俺の意識は暗闇の奥底に沈んでいった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「おい、起きろよ、あきと。おーい」


「んー、ん、なんか言った?」


「お前、一番後ろの席だからってガッツリ寝過ぎだって。教授こっち見てんぞ」


「んー、えっ!?」


 そう言われ、周りを見渡すと、講義の割には教室が静まり返っていて、教授がこっちを睨みつけるように見ているのが分かった。


「やべっ」


 教授と目があい、とりあえず会釈をする。それしかすることが思い浮かばなかったのだ。

 愚痴のひとつやふたつ言われるかと思ったが、教授は咳払いをし、何事もなかったかのように再び講義を始めた。

 俺はほっとため息がこぼれた。今受けている講義は100人近くが受講していて、100人の前で怒られるのだけは勘弁だ。


「俺が起こしてやったことに感謝しろよ」


 そんなことを自慢げに語るのは俺の大学の唯一の友達である清水隆弘だ。隆弘は俺と性格は真反対で、とにかく明るく、大学でも友達が多い。そんな隆弘がなんで俺なんかと仲良くしてくれているのかはわからない。ただ、俺は隆弘の自由気ままで明るい性格を尊敬すらしている。


「ああ、ほんと助かったよ。 でも欲を言うならもっと早く起こしてくれてもよかったんじゃないか」


「わりわり、俺も直前まで寝てたからさ」


「まあ、そうだよな」


「ああ、あの教授、催眠術師の方が向いてるよな。 第一ほとんどの人が寝てるしな」


 そう言われて周りを見渡すと、ちゃんと講義を受けているのは前の方の席の座っている人たちだけで、ほとんどが寝ているか、友達などとヒソヒソ会話している。まともに受けている人は全体の20%いればいい方だろう。


「えっ、この状況でなんで俺だけ、睨まれたの?」


「いや、お前めっちゃ寝言うるさかったから。 なんかうなされてる感じだったな」


「まじかよ。 はずっ。 悪い夢みてた記憶はないんだけどな」


 俺は一番後ろの席に座っていて、前で話してる教授まで聞こえたと言うことは、100人に俺の寝言を聞かれたと言うことだろうか。俺はどんだけ大きな声で寝言を言っていたんだ。いち早くこの教室から出たくてしかたなかった。



 永遠とも思える講義が終わると、教室の静けさは徐々に活気を取り戻し、普通の声で話してもいいくらい賑やかになった。


「さっさと帰ろ」


 俺はそんなことを呟き、荷物を持って教室を出ようとした。


「おい、待てよ、空翔」


 隆弘が俺を呼び止める。


「ん? どした?」


「このあと、サークルの飲みあるんだけど来る?」


 隆弘はいつものように誰かと飲んでいる。彼曰く、お酒は大学生のコミュニケーションとして重要なものらしい。確かに隆弘は友達が多いわけだからこれは正しいのだろう。

 しかし、俺は、仲良くない人と飲んでもそんなに楽しめない性格だ。人柄の知れないメンバーとどんちゃん騒ぎをして何が楽しいのだろうか。そんなことを言っているから友達ができないのかも知れないが。


「あー、俺はパスで。 帰ってレポートやんないと」


「それは大変だな。じゃあまた今度2人ででも飲み行こうな」


「おう」


 何度断ってもこうやって誘ってくれる隆弘はほんとに優しい。今度は一緒に行ってあげないとなと思った。


 俺は早々に大学を出ると、パトカーが3台止まってるのが見えた。それはよく女子大学生が並んでいるのを見る喫茶店の前だった。野次馬が集まり、警官も複数いる。

 事件はこの街では珍しくない。この街は東京の首都圏にあり住みやすさは格別だが、それでも治安さが目立つ。夜の飲屋街では暴れている大学生や社会人をよく見るし、東京での事件のニュースはほとんどがこの街近辺で起きている。暴力団やマフィアといった人達の潜伏場所でもあるんだろうか。詳しい理由はよく分からない。


 すると、背が高く、髪の長い女性が警官達の中から顔を出した。警官の制服を着ていないが、周りの警官達の反応で偉い人なのは分かった。

 周りの男子大学生は「めっちゃ美人」、「モデルみたいだな」と盛り上がっていた。

 確かに身長は周りの男性警官よりもあるから180cmくらいだろうか。容姿は整っていて、金青色の長い髪は風に揺られる度に清潔感を主張し、彼女の立ち姿には自信さえも感じさせる。


 ーーん? なんだ。


 俺は疲れているのだろうか。彼女の周りにオーラのような何かが、纏っているように見える。そのオーラは沸々と波打ち、膨張して、すぐに見えなくなった。まるで、見てはいけないものを見てしまった感覚。


 ーーなんだったんだいまの。


 そんなことを心の中でぼやいていると、まるで俺の心を読んだかのように、その女性が俺の方をみる。俺の後ろの男子大学生は自分が目を合ったと思ってはしゃいでいるようだが、その女性は確実に俺の目を見ている。自慢とかではなく、目が合った人同士で感じるあの謎の感覚が俺にはあった。

 しばらくすると、その女性は振り返り、道路の奥の方に歩いて行った。


 俺は自分が不審がられたのかと心配になり、服装などを確認したが特に怪しいところはなかった。


ーー俺なんも悪いことしてないよね。


 警官と目があったら何かしら悪いことをしたのではないか、と疑ってしまうのが人間の性というものである。

 今日を振り返ると、数時間前講義で教授と目が合い、ついさっき警官と目が合っている。俺は人に目をつけられやすいのだろうか。


「通行人の迷惑になりますので、道を開けてください」


 警官がメガホンで集まった野次馬達に呼びかける。その声を聞き、徐々に野次馬達は解散していく。


 自分も帰ろうと思い振り返ると、周りには講義を終えた大学生で埋め尽くされていて、自分も事件の野次馬の一員になってしまっていることに気がついた。


 俺はなんとか野次馬の隙間を掻い潜り野次馬を抜け出すことに成功した。不可解な出来事も野次馬を抜けた頃には気にならなくなっていた。


「はー。 さっさと帰ってレポートやろ」


 そんなことを言いながら俺、日向野空翔(ひがのあきと)は自宅に向けて歩き出すのだった。


初めまして。柏木和人です。

今作が初めて書く作品なのでおかしな表現や誤字脱字が目立つかもしれません。

暖かい目で読んでくださると嬉しいです。

コメントも気軽にいただけると、泣いて喜びます。

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