81話
「しかたない。なら手本を見せてやる」
ベルは驚き、シャルルは嫌な予感がした。
「あの、いいんですか?」
自分一人の力でやれる、そこまでベルは過剰に思っていなかった。もちろん手本となる例はコーヒーとスイーツで潤う喉から手が出るほど欲しいものである。しかしそれは助っ人としての一線を越えてしまうような後ろめたさがある。それを真似してしまえばいいのだから。もちろんコピーするつもりはないのだが。
「構わん。おい、シャルル」
やはりか、とシャルル。
「また僕」
「もしお前ならどうする? どんなアレンジをするか、少し教えて模範を示してやれ」
ぶつくさと文句を言いつつも「どれにしようか」と思いついたアレンジを数個巡らせるシャルルの目は、やはり良く磨かれた店のショウウインドウのガラスのように輝いている。今日はまだアレンジというアレンジを作っていないので、当然といえば当然か。
「では先輩、模範は正解ではない。これをしっかりと頭に入れて置いてください。ヒントだけ出します。それなら先輩も参考くらいにはできると思います、ってなんか偉そうに言ってすみません」
ベルは心を見透かされたかのようで心臓が一つ大きく脈打った。眉間に皴を寄せるその表情からシャルルは内心を見据えていた。一つの答えの提示に気が引けていることを。ヒントならば、と意気揚々に耳を立てる。
「うん、置いた置いた! それで!?」
今にも飛び出しかねない強い語勢でベルは先を促す。
一瞬その圧に押され、たじろいだシャルルは一つ咳払いをし語を継ぐ。
「もし僕が先輩の立場であれば……むしろインテリアをどうするか、と悩みますね」
それは、それまで『花』と『容器』でどんなメッセージを、と考え込んでいたベルには青天の霹靂と言える内容であった。
集中すると周りが見えなくなる自身の癖に、ベルは以前から気づいていた。根を詰めてピアノを弾くより、ソファでくつろぎながら「あの楽章はこう弾いてみたらどうだろう」と何気なく考えたことが的中したことも多い。発想の転換は、リラックス状態から生まれる。
ベアトリスも弟の提案に「ほう」と評価の小さく言を呑んだ。さらにコーヒーにも口をつける。ミルクの量はベルの比ではないほど混入されており、甘さを控えるつもりはない。
「インテリア、そっか、それも――」
「花のメッセージを伝えるための小道具ならなんでも使う、という意味です。アレンジって結構自由なものですよ。楽しみましょう」
「自由……」




