79話
「リオネルさんは……まぁ仲卸というよりも、なんというかその……」
「使いッパシリのようなものだ。気にするな、やつの家庭が崩壊しようと花だけは届けさせる」
真顔で平然と恐ろしいことを言ってのけるベアトリスに、それを聞いたベルは空笑いを作る。なにせその目には『遊び』がなく、本気なのだと確信するのには満ち足りていた。
だが、彼女はシャルルの言葉の詰まり具合でなんとなく予想がついた。そう、フランスではよくある話。きっとリオネルさんは仲卸ではなく彼らの……そこまで考えてこの思考は停止。確かめないし、それはいつか、彼らの口から言ってくれるのであれば聞こう。そう結論付けた。
「それは……ともかく、ありがとうございます」
しかしそれで安心感が多少でもプラスされたのは事実であり、使う花の心配はないことは強引にだがベルから消失した。あとは中身を創造するだけである。そこがなかなかうまくいかないのだが。
「それで、なにかこういう風なアレンジにしたい、というのはセシルさんの言ったとおりに全くない、でよろしいですか?」
一旦現在の状況をシャルルが整理する。
「ううん、全くないってわけじゃないんだけど、どうもやっぱり弱い、というか」
「やはり元フローリストだからな。生半可なものでは、というわけか。親になにをそこまで縮み上がるのかは知らんが、まぁわからなくもない」
悩ましげに返答するベルの心の深層をベアトリスが代弁する。そう、問題の一つに、元とはいえセシルはフローリストだったということが挙げられる。たとえ本人が気にしないとしても、贈る側としては悩みの種として発芽するには十分な理由となるのである。ましてや手助けがあるとはいえベルはまだ素人の域を出ないというのは自分自身がよくわかっていることだった。
「うん、すごく愛されて、愛して、それでいて温かいって感じました」
「だから、あたしもママにできるだけ恩返ししたいの。でも、どうしても迷っちゃう、そんな感じで」
「ちなみに、どんなのを今考えているんだ? とりあえず言ってみろ。まさかお前が買ってきたその鳥篭みたいなのを使う、ってわけでもあるまいな?」
ベアトリスが視線を向けた先にはシャルルと買ったばかりの籠が、テーブルの上に置きっぱなしで放置されていた。
言われてベルも「あ、そういえば」とその存在を思い出す。少なくとも脳内でイメージされたビジョンには入っていないのであった。
「いえ、これはまた別の機会に使おうと思ってるんですけど、あの……笑いません?」
恥じらいを込めた仕草でベアトリスの顔色を覗きこむ。
「笑いませんよ。そこに込められた想いに、嘲笑などありませんから」
「そういうことだ」
斡旋に入ったシャルルの意見にはベアトリスも言葉少なく同意する。その二人の青い瞳には真摯な色がたたえており、それは紛うことなき本心を表す。




