78話
しかし〈ソノラ〉は『おまかせ』専門の花屋である。そういったものは最低限しか使用することは出来ない。お客様の内面を知り、初めてそこで考え、構築していく。情報は多ければ多いほどいい。その量は十分といえよう。
そしてシャルルとベアトリスも、実のところこの状況に合う花はなんだろうか、と脳内でアレンジを組み立てていた。ある程度ではあるが、すでに形にはなっている。しかし、従業員の中でベルだけが雲を掴むようなこの作業に取り掛かれずにいた。
「あんまり遅くなって、お店に迷惑かけないようにしなさい。じゃあ私は先に帰りますから」
「はい……」
忠告を呈出し、出口へと歩を進めるとドアの前で振り返りセシルは腰を曲げた。
「それじゃあシャルル君、ベアトリスさん、また明日来ます。娘をよろしくお願いします」
「はい、おまかせください」
「期待していい、きっと面白いものを見れるぞ」
「ベアトリスさん、それはプレッシャーが……」
「ええ、そのために今日はベルの好きなものを用意しておくわね」
その皮肉を込めた言葉を聞き、ベルは「待って!」と場を制圧しようとするが、それは好物がディナーに出るのを拒むことにも繋がり、口をパクパクとして音を発せずにいた。今更ながら、とんでもないことをしてしまったのではないか、そう思いつつセシルの普段より大きく見える背中を見送った。
「なんだ、自信がないのか? 言われただろう、アレンジはメッセージをいかに伝えるかだと。そこに技術は意味をなさないと。まぁ、あって困るものではないがな。安心しろ、シャルルがサポートに入ってやる」
「やっぱり僕……」
自分から引き受けておき、ベアトリスも多少のやる気を見せていたため「もしや?」と期待していたが、どうもお約束の展開に流れそうなことを理解し、シャルルは肩をすぼめた。
「つべこべ言うな。足りないものがあったらリオネルに電話するくらいはしてやるさ」
自分の役割を適当に見積もる店主。どちらにせよ明日使う花を頼まなくてはならないため、言うなれば一石二鳥というものである。そのベアトリスの考えが読めるからこそシャルルは長く息を吐いた。
「あの、以前から気になっていたんですが、そのリオネルさんてどなたなんですか? 仲卸の方ですか?」
二度目に聞いた名前で以前からそれを気になってはいたベルが、その流れに乗って問う。話からして予想はついているのだが、それにしてはベアトリスの口ぶりが尊大であることが少々気になっていた。




