67話
以前、放課後一緒に行ったカフェでいきなりシルヴィに言われた。
「あたしさ、ピアノってよくわかんないけど、ベルのは温かくて好きだったんだ」
あまりにもいきなりのことで、あたしはびっくりした。もうピアノを止めてしばらく経っていた。最近知り合ったばかりの彼女が、自分の演奏を知っていることに驚いた。ピアノとかよりもギターやドラムを好みそうなのに。
「だってお前、自分が思ってる以上に有名なんだぞ。少なくとも名前くらいは皆知ってるんじゃないか?」
「ええ、私も聞いたことはあるわ。コンクールを総ナメにしてる『ベル・グランヴァル』と言えば、ちょっとした有名人よ。確か同じ学年にファンだっていう子もいたはずだもの」
同意するレティシアにもちょっとびっくりした。でも、美人なレティシアの方がファンとかいそうだけど。
「興味ないわね」
一刀両断ですか。
「あたしのファンは?」
「そんなの幼馴染に男子が多いんだから、そっちに聞きなさい」
うーん、あたしはシルヴィみたいに元気な子がタイプの子もいると思うよ! 元気出して!
「ホントか!? なら、この三人なら向かうとこ敵なしだな! でもそれじゃ二人はどんなのがタイプなんだ?」
いきなりそう言われても……レティシアは?
「そうね、『好き』って言ってくる男性より、自分から盲目的に愛せる男性かしら。とりあえず今のところはいないわね」
なんか……すごいイメージ。でももし現れたら、その人って他の男子から妬まれそう。
「身長とか高くてワイルドで年上に五ユーロ!」
え、レティシアの恋人予想にお金賭けるの!?
「勝手に予想立てないの。でもなら、シルヴィは……スポーツ万能のバリバリ体育会系に五ユーロ賭けるわ」
レティシアまで! じゃあ……あたしはどんな人だと思う?
「太鼓とか叩く人」
「ソリストかしら」
やっぱり音楽なんだ。でもごめん、あたしもうピアノは――
「止めたらしいわね。ファンの間でも理由解明がなされていないらしいわね。なにしろいきなりだったから」
「もったいないなー、せっかくそこまで練習したのに。あたしだったらピアノ練習とか絶対発狂してるぞ!」
「シルヴィには絶対に『演奏する』という動詞を使うことはないわね」
そ、そこまで……? でもごめん、やっぱりあたしは……わかんない。でも音楽に関する人ではないと思う。
「だったらクラスのギィ君なんて合ってるんじゃない? なんか知らないけど『胸は手に収まるくらいが』とかなんとか言ってたじゃない」
それって、あたしが胸が貧しいってこと!? 確かにレティシアは大きいけども!
「まぁそれが好きなヤツがいるってわかっただけでも収穫だろ」
ていうか……案外シルヴィも胸、あるよね。レティシアはともかくシルヴィまで……。
「そうか?」
ちょ、ちょっと! 公共の場でいきなり自分の胸揉むのは!
「やらない方がいいわね。さすがに」
「じゃあレティシアのならいいか?」
余計ダメに決まってるでしょ!
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