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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
アフェッツオーソ
66/319

66話

「!」


 自分の名前が出たところで発言を許された気がし、そろりそろりとベルはセシルに歩を寄せた。力なくにじり寄る、と表現する方が正しい速度である。


「あの、ママ、どうして今日は〈ソノラ〉に来たの? 反対とかしてなかった、よね?」


 セシルのほうが数センチだが背が高く、必然的にベルは上目遣いになる。


「あら、娘の働く姿を見たい、ってのが本心よ。なにか疑ってるみたいだけど、それは本当」


 怒っているわけではない、それはわかっていた。心の底から応援してくれていたことを知っているから。だがなぜか心のシコリが溶けず、ベルは引っ掛かりを感じていた。


「でも、なんかいつものママと違う気がする……だって、すごく悲しそうな目をしてる」


 その想いを言葉として紡ぐ。


「そう? あなたはあなたの道を選んだのよ? ピアノにもいい感じに表れてる気がするわ。まぁ、私なんかじゃ、あまり説得力がないかもしれないけれど」


「答えて……!」


 小さな怒声を張り上げベルは打ち消すが、その後の続き見出せずに口惜しそうに唇を噛む。自らを卑下するかのような口ぶりの母親に対し、自分なりに気の利いた言葉を模索するが、どうしても思いつかないのだ。


「大丈夫、パパも応援してくれてるし、あなたは自分の思うとおりに生きなさい。お金がかかる、とか心配しなくていいの。親は子供のためにお金を使うのが一番の喜びなんだから」


 そして数秒。


 その間に様々な感情が混ざった。


 ピアノを初めて知った頃のおぼろげな記憶。


 新しく自分用のピアノを買ってもらった時の喜び。


 初等部の頃に初めてコンクールに出た緊張感。


 惜しくも入選できなかった悔しさ。


 次のコンクールで入選したときの達成感。


 中等部で大きなコンクールに出てついに優勝した時の涙。


 あの少女の技術を知った時の絶望感。


 その後、ピアノを止めた時の虚無感。


 友達と過ごす時間の大切さ。


 シャンゼリゼ通りで迷った。


 小さな花屋を知った。


 そして、君に、出会えたんだよ。 

ブックマーク、星などいつもありがとうございます!またぜひ読みに来ていただけると幸いです!

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