57話
「あの、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」
アベニューの人波と紛れるまでシャルルがしっかりと見送ると、その横にベアトリスが並び立ち不満そうに腕を組む。不平、不満。そういった感情が連想される。
「これまた随分と難しいお客様だ」
「姉さん、もしかして今の……」
ああ、と相槌を打つ。
「まず間違いなくそうだろう。思うな、という方が難しい」
胸にしこりを残したような、複雑な表情を浮かべるシャルルの考察。それを読み取りベアトリスは肯定した。それはただのお客様ではなく、一つの可能性を示唆しているのだが、他の印象と照らし合わせると、果てしなく高い率を示す。
もしも自分が先のお客様の立場だったら、同じ行為をしていただろう、という予想も容易にできる。
「うん……ルピナスは形が特殊で個性が強いぶん、どうしても他でシンプルさを出したいこっちの気持ちを、まるで知っているみたいだったし」
あの注文の内容、確かにそれなら納得がいく、とシャルルは思い返した。
「花についての知識を有している、というわけだ。ルピナスの花言葉など、当然『母性愛』以外のものもすべて知っているはずだ。お前がやりやすいようにというのは無意識にやったのか、故意なのかわからんがな」
「それなのに、なんでわざわざ聞いたんだろう。あとあの瞳、笑顔、まるで……」
その先の言葉を継げずとも、ベアトリスは理解していた。浅い了見と見えるかもしれないが、しかしそれは確信に満ちたものであり、間違えようもないある特徴を兼ね備えていたからだ。最後のピースを嵌めると、すべての絵が見えてくる。
「ヴァイオレットの瞳など、今までに一人しか見かけたことのない希少なものだからな。なるほど、そういうことか」
その導き出された解答に、ベアトリスは小さく舌打ちをした。




