51話
「楽しみにしてるわ」
「レティシアも! あたし本気なんだから!」
はいはい、とレティシアは寄り来るベルを子供のようにあやす。もちろん言葉に嘘はない。ベルは一体どんなものを作り出すのか、それを見たいというという気持ちはあるのだ。しかしそれは興味本位であり、期待値は半々といったところであった。
「そういえばシャルル、あなた一つだけ見落としてることがあるわ」
「? なんです?」
どこか余裕のあるレティシアに、シャルルのみならずベル、シルヴィはもちろん、ベアトリスも顔を曇らす。どこにも付け入る隙のない自分の推理は、すべての辻褄は合っていたはず、と思い返す。見落としはたぶんないはずなのだが。
そして、レティシアが驚愕の事実の箱を開ける。
「……クリスが目指してたのは、ブーランジェじゃなくて、ブーランジェールよ」
「……え?」
それが意味すること、つまり――
「てことは……男じゃなくて女の……子?」
その言葉の意味を理解し、最初にまとめたのはベルだった。
「ええ、その通りよ。シャルル、あなたは本当によく似ているわ。私の妹に」
なぜか、してやったり、といった顔をレティシアは作った。
くっくっく、と押し殺しきれない声を漏らしながら、ベアトリスは端に涙を浮かべた目でシャルルの驚きが占める顔を見やる。新しいいじりがいのあるネタが出来た、と。間接的に自分も幼女っぽいということは無視。
「これは傑作だ。お前は男じゃなくて、女として見られていたとはな。どうだ、幼女そっくりの顔を持った感想は?」
「僕が、女の子……?」
「おお、全然見えるぞ。なーに、気にすんなって。あたしなんか、男に間違われることもあるぞ」
嬉しくないシルヴィのフォローもあまり耳に入らない様子でシャルルは呆然とする。確かに以前、カフェで知らない洒落た男性から、女の子と勘違いされて花を渡されたことを思い出した。それも一度ではない。そんな過去が走馬灯のように蘇る。
「確かに、あたしの小さい頃の服とか着せてみたいかも……」
ぽつりとこぼしたベルの、それも「小さい頃」という発言をシャルルは聞き漏らさなかった。過敏に反応するのは、ある種のコンプレックスでもあるからだ。
「ベル先輩まで……僕は男です! ていうか、それなら姉さんの方がクリスさんに似ているはずですってば!」
中性的ならまだしも、レティシアの最後の補足を皮切りに、完全に女性として捉え始める皆々に対し、シャルルは自分の性別を強く主張する。ベアトリスとは違った意味で目の端に涙を浮かべて打ち消しにかかるが、しかしその言い返す仕草がまたレティシアの加虐心に火を点けた。
「そのうち胸も成長してくるかもしれないわね。少なくともベルよりは大きくなりそうかしら」
「その可能性はあるな」
「うっ……」
同調するベアトリスに、あんたも小さいだろ! とつっこみたくなる衝動を抑えつつ、ベルは鋭い指摘に口の中が渇く。今ならシードルが四杯はいけそうだ。
「ほうほう」
姉弟に平等に手を回して抱き寄せていたシルヴィが、ふとベアトリスのみ離す。やっと離れるのか、と安堵で油断したシャルルの胸元を、いやらしい手つきで愛撫しだした。
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