50話
「うまくいったようだな」
さも当然、とでも言わんばかりに腕を組み、場を取り繕うベアトリスにシャルルは苦笑を浮かべた。
その行為をベアトリスは逃さなかった。弟に笑われただと?
「なにがおかしい?」
「……ずっと聞いてたでしょ? レティシアさんに気を使うなんて、同じ姉としてなにか通じるものでもあったの? 少しは見習って弟に優しく接しようとか思ってくれると、こっちとしては嬉しいんだけど」
「聞く耳持たんな」
澄ました態度を取るベアトリスの性格が、当然そんなすぐ変わることはない、とわかりつつシャルルの発言だったが、逆に優しい姉さんはそれはそれで怖いか、と思いを致した。確かにレティシアのようにヒザに乗せることも身長からして難しいし、優しくされると裏があるようにも思え、姉さんはそのままでいいやと維持を望む。
「それにしても、どうしてわかったの? ロケットはもちろん、トーストのことも知らないのに」
それは素朴なシャルルの疑問だった。それも当然であろう、姉は自分が体を張って得たヒントを一つも使うことなく、場を正確に把握し、シャルルの考えも読んでいたのだった。姉の洞察力の鋭さは既知ではあった。推理小説などでも、すぐになんとなく犯人がわかるらしく「つまらん」と二時間と保ったことはない。それを洞察力というかは難しいところではあるが。
ああそれか、とベアトリスは緩く相槌を打つ。
「お前への抱き方を見ればわかる。昔は私もお前にやったことがあるからな。まあ半分は勘だったが、あのヒストリー加減から見て、そんなところだろうと予測しただけだ」
答えは「姉らしいが姉さんらしくない」というどこかスッキリとしないものであり、すぐさま腑に落ちないと口を尖らせシャルルは反論に出る。
「僕、この前背骨折られそうになったんだけど」
「カルシウムが足りていないだけではないのか? 気のせいだ」
「なにヒソヒソ話してんだ? あたしも混ぜろ!」
いつの間にか後ろに回りこんでいたシルヴィが、シャルルとベアトリスを両手で抱き寄せ輪に加わる。
驚きの表情を浮かべる弟とは違い、姉の方は冷静に対処する。その静かさがシャルルには怖いのだが。
「シルヴィ、お前にはツバキかスミレを大量にプレゼントしてやる」
「お、なんだなんだ? 食える花なのか?」
皮肉を言ったつもりでも、シルヴィの思考回路ではただの食糧の供給にしか思えず、むしろ、もらえるものはもらう主義でもある。もちろんその『控えめ』『慎み深さ』という花言葉を理解したシャルルは頬を引きつらせる。
「姉さん、相当怒ってる……」
「あは、はははは……」
なんとなく状況とベアトリスの表情から察したベルも苦笑する。もしこの三人が姉弟だったら毎日が怖い。微かに身震いした。もしそこだったら働くのは考えものだ。
一人冷静にバスケットを抱いて花の香りを楽しむレティシアが、シャルルに視線を転じて、穏やかに語りかける。
「心から感謝するわ。ベルが働きたくなる気持ち、すごくわかる。この花、いただいていいのかしら?」
その上品な様がどことなく絵になっており、シャルルは一瞬ぽーっとしたが、自分に投げかけられた言葉だと気付き慌てる。
「も、もちろんです。もし気に入っていただけたのであれば、是非またいらしてください。歓迎いたします」
その一瞬の間の意味を理解したベアトリスは、苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。
ありがとう、と感謝しレティシアはベアトリスにも一礼をすると、「ふん」と鼻を鳴らして反応される。いちいち首を傾げる様すら気品があり、ベアトリスは視線を合わせることを拒否した。余裕のなさが如実に見て取れる。
「次に来る時は一人前のフローリストとして、あたしがアレンジしてみせるね」
あまり凸のない胸を張るベル。追従笑いで返答する一同の様子に「なんで!?」と声も張った。
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