表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
コン・フォーコ
49/319

49話

「もう平気だと自分では思っていたけれど、まだそんなところで引き摺っていたとはね。思い返せば、ここ数年食べていないわ」


 しかし悲愴な気持ちで支配する精神の殻はもうない、と言わんばかりに顔を下げずにレティシアはぽつりとこぼした。無理をしているわけではない、悲しい気持ちがなくなったわけでもない。中庸というものはどういうものなのか? それを探るように生きていく。


「あの……もし明日またトーストを持っていったら、食べていただけますか?」


 もう何度目かもわからなくなった無言の空間で、シャルルは身を乗り出した。新しい風は自分から発生させていかねば、そう一番の若年ながらも責任を感じたのだ。その空気感にはそぐわないような、ただの明日のランチの提案だが、それはとても優しい心遣いだと誰もが気付く。


「……ちなみに、明日はどんなトーストを考えているの?」


 興味を示したのは、手にすることすら拒んでいたレティシアだった。聖母のような光の笑みを向けて。自分からも立ち向かう、そんな意思を感じ取ることができる。


「明日は、バタートーストを考えています。はちみつをたっぷりとかけて、他にも……なにかリクエストがあれば、って」


「そう……シンプルね。でも、あの子と私が一番好きだった」


 遠目をして、レティシアがもう一度『クリス・キャロル』と名づけた花を見入ると、あの子が、笑った気がした。一瞬目を見開いたが、負けじと笑みで応戦する。視線を力強く、しかし柔和にシャルルに合わせた。


「是非いただくわ」


 花のように、シャルルの童顔の笑みが徐々に開く。満開に達すると、快く承諾した。


「はい、腕によりをかけますね!」


 そのやり取りの成立を口火に、ベルとシルヴィも歓声を上げた。そして注文をすることも忘れない。ちゃっかりしている。


「あたしは今日のやつも食うぞ!」


「じゃ、じゃああたしも……今日しっかりと味わえなかったし……」


「はい、喜んで」


 明日のランチは持っていくのは大変そうだ、と先を見据えると気がかりもあるが、それ以上に楽しみでもあったシャルルは即座に引き受けた。早速どんなのにしようか、とあれやこれと考案する。アレンジと同じで、考えているだけでも楽しい。


 一方、ベルとシルヴィはハイタッチを決め、喜びを表した。それは明日のランチの心配をしなくてもいい、というだけのものでは当然ない。


 その温もり溢れて華やぐ三人を一瞬目に留めると、天井のさらに上の空を仰ぎ見る。そして、レティシアは小さく呟いた。


「クリス、お姉ちゃんはずっとあなたを愛し続けるわ。でも、たまに弱さを見せちゃうけど、それくらい許してくれるよね……?」


 その様子を横目で温柔に見守るシャルルに、コツコツと階段からリズムのいい音をたててベアトリスが降りてきた。場の空気や状況を把握し、一段落ついたことを確認すると「ふん」とシャルルに鼻で呼びかける。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ