40話
「でもそれだけでわかるもんなのか? あたしもレティシアやベルを『お前』って言ったりするぞ。一日中そればっかりのことだってあるかもしれないぞ」
それはベルも疑問に思っていたことで、先にシルヴィが代弁した形となった。
それに答える用意をしていたかのように、シャルルは論説の裏付けを加える。
「もちろんそれだけで判断したわけではありません。もう一つがそのロケットペンダントです」
一斉にすべての視線が、レティシアの首から下げられ、宙を漂うそれに向けられる。緩く温光色を反射するその輝き。
もう何年も彼女は肌身から離していないのだが、傷や汚れは見受けられない。
「ロケット? ただのペンダントじゃないのか? 着けてるやつなんか学校にいくらでもいるだろ」
遠回しに述べるシャルルに、シルヴィは身を乗り出す。
しかしシャルルは苦虫を噛み潰したように表情を強張らせた。どこか言い辛そうな雰囲気である。
「それは……」
シャルルは、言ってしまっていいものなのか、口ごもった。どうしてもレティシアを抉る事実になってしまうことは明白。ここまで明かしてしまったとは言っても、やはり言い辛い部分があった。
眼鏡の奥の瞳に戸惑いの色を加味したその様に、さらにベルとシルヴィは疑問符を増やす。
「? どうしたの?」
その様子から口にし辛いことだとは解釈しつつも、続く言葉を待つ。躊躇いを見せるシャルルに、凛とした声が掛けられた。
「続けて」
顔を上げずに、そうレティシアは短く発言を促す。
「しかし」と、それでも熟慮をしたが、シャルルは意を決して口を縛っていた紐を解き、「……わかりました」と覚悟を決めた。
「そのロケットには名前と、二つの西暦が刻まれていたんです。裏側に小さく、傍目には気付かないかもしれません」
傷口を広げるには十分、それは百をも承知。だがしかし、それでもレティシアはさらけ出すことに決意を決めた。
その意を汲んだシャルルは、パズルのピースを並べ、瞳を細めた。
「だから遠回しに言わないで結果だけズバッと――」
「もしかして……遺骨、なの……?」
歯がゆい感覚が肌をまさぐり、答えを見出せないシルヴィは、いてもたってもいられない、と地団太を踏む。
が、ベルが恐る恐る、情報から得たパースを組み立て、その全体像が見え、表情を強張らせた。場が凍るように止まる。
否定をしないレティシア。それが意味するものは一つ。
「い……こつ……?」
「その通りよ」
言葉少なにレティシアは認め、次いでシャルルが補足的に語を継ぎ足す。
「ロケットは恋人や家族に関連したものが大半です。しかしシルヴィさんが『レティシアさんは男性と付き合ったことがない』という発言とも照らし合わせ、十中八九家族であると」
言い終わったシャルルは、目を落としてオスモカラーのみを虹彩に宿した。
口を開けたままのシルヴィは、目で不確かな状況を噛み砕くかのように、瞬きの回数を増やした。呼吸も浅く、多く、心臓がいつもより大きく鼓動している。
「まじ、か……?」
いつも感じる余裕が無く、ただ単に所感である。
「それに僕と同じ生まれの西暦、つまり――」
「それで私があなたを弟だと、ね。ホームズ顔負けといったところかしら。フローリストというものは、花以外にも目が利くようね」
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