34話
ここ、と指定したのは自らの白い太腿の上だった。余裕のある目つきで命令する。それは命令というよりも、まるでそういう法令でもあるかのように、レティシアは毅然としている。
これにはさすがにシャルルもやんわりと断りを入れた。
「いや、でもそこじゃレティシアさんが食べづらいのでは……それに――」
「座りなさい」
「……はい」
凄みのある威圧感で拒否権を剥奪され、ついシャルルは了解をしてしまう。なぜか姉の顔が浮かんでしまい、自宅のあるであろう方向に向かって謝ってから、強制予約の指定席を目指す。
さすがにベルもこれには止めに入る。
「ちょっと! 自分がなにをやってるかわかってるの!?」
自分のために怒声を上げたベルに対しても、
「あの、大丈夫ですから。先輩もその……よかったら食べてください」
と自分は悪くないはずなのに、泣きそうな顔でシャルルは負い目を感じている。無理矢理作る笑顔もどこか鮮明さに欠けている。
「ほら、本人も言っているのだから、あなたが口を挟むことは野暮でしょう」
勝ち誇った妖艶なレティシアの表情に次に浮かぶのは笑みであった。
申し訳無さそうにベルの表情をうかがうシャルルに、レティシアは催促する。
「さあ、いらっしゃい」
「失礼します……」
内心を悟られたかのようなタイミングで、シャルルは一瞬でそちらに気を集中させられる。
小さく軽い少年の体は艶かしくスカートから覗くその領域を目安にひょこっと座り、内部では恥ずかしさと若干の居心地の悪さを覚える。それは座る範囲が狭いといったことや、背後から抱きかかえられるような状況で食事をしたことがなかったから、というだけではなく、精神的な余裕がなかったからでもある。ベルに何度も視線を送るが、彼女が意図的に合わせないようにしている気がした。
溜め息をついたシャルルはバスケットに手を伸ばすと、背後からにゅっとレティシアの手が伸び、取ろうとしていたキッシュを手にした。ついでに胸が背中に一層当たってつぶれ、シャルルの顔も一層赤らむ。初めての体験である。
「これかしら? いいわ、食べさせてあげる」
「いえ、あの、その……」
自分で食べられます、という言葉は圧力で遮られる。
「私が食べさせたいの」
もはや何も言わずにされるがままの状態となり、シャルルは流れに身を任せることとした。
それをベルの机に頬杖をついて観察していたシルヴィが感想をこぼす。
「これじゃ恋人同士っていうより――」
あれだあれ、と言葉を探ってしかめ面になり、うんうんと唸った結果、思い出したのか二人を指差した。
「過保護って感じだな。お前は美人だとは思うけど、男と付き合ったことないってのはこれが関係してそうだ」
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