312話
が。案の定レティシアは二人が通じ合っていることが楽しくない。
「……ちょっと、私を置いて二人で盛り上がらないで。説明」
キリッとした目つきで睨まれたシャルルは体が硬直するが、深呼吸をしてそれに応じる。
「なぜコスモスを選んだか、ということです。もちろん、たまたま作ってあったという偶然もあるでしょうし、シッキムの茶葉に合うというのもあります。が……」
フローリストは花の声を届ける。コスモスの声。紅茶と一体化したそれは、きっと届くと信じて。
以前の自分であれば気づかなかったであろうが、ほんの少しはレティシアも彼らというものがわかる。だからこそ、コスモスに包まれた声が、今なら。聞こえる。
「……なるほど、お得意の花言葉ね。つまりコスモスの花言葉は『幸せ』、ってこと?」
そういえば、そんなものもあったとここで思い出した。今回のテーマ。なるほど。いろんな角度から攻めてくる。嫌いじゃない。
しかしそれに関してシャルルは首を横に振る。赤いコスモス。そこに込められたもの。
「いえ、違います。それでしたらバラやチューリップなんかのほうが適していますから。コスモスの花言葉にはありません」
花に触れてみる。ほんの少しだけ揺れ、表面を漂う。時がゆっくりと流れる。
コスモスは色によって花言葉が変わる。ピンクであれば『純潔』、白であれば『優美』など。種類も多岐にわたる。その中でも『幸せ』の意味を持つものはない。
もちろん、花言葉というものは誰かが勝手に決めたことで、国によっても違ったりするため、たしかな『これ』というものはない。だが、誰かの心に届く言葉であれば、それが真実でも嘘でもいいと少年は考えている。
レティシアは赤いバラが恋愛っぽいとか、白い花は清らかさとか。それくらいの連想しかできないため、赤いコスモスの花言葉は知る由もなく。まわりくどい道筋に、そろそろ呆れの色も見えてくる。
「てことは、どうなるわけ?」




