表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
スケルツァンド
299/319

299話

 とはいえレティシアの腹はすでに決まっている。睨みの威力を一気に解いた。


「他の女に気を取られるのは勘弁してもらいたいのだけれど。ま、いいわ。私も気にならないと言ったら嘘。ただし、ひとつ条件があるわ」


「? なんスか?」


 なにやらいい方向に流れている風をアニーは嗅ぎ取った。前述の通り、花は紅茶と相性がいい。ショコラーデの専門家と意見を交わしたことはあるが、思えば花はなかった。彼女にとってもいい機会。そのためならその条件というものをなんなりと。


 まるで忠実な二匹の犬に見つめられているようだ、とレティシアはたじろぐ。ひとつ咳払い。そして。


「テーマは『幸せ』。私にとっての幸せとは。それを紅茶で表現できるかしら」


 できるのなら。シャルルとのデートはまた次回に預ける。そのためにも、紅茶でなんたらかんたらというもので『幸せ』を表現してもらう。これなら……ギリギリ許せる。許してみる。器の広い女、それが私。


 幸せ……いや、紅茶は飲んでいるだけでも幸せなのだが、そういうことではないのだろうとアニーにもわかる。そして候補はある。だが。


「……可能っスね。ただ、それにはシャルルさんの協力が必要になるっス」


 紅茶としてはコレというものが自分の中であり、確定している。それがきっとレティシアに対してフィットしているはず、なのだが、ひと押し足りない。となると、あとは花。シャルルに任せる。できることをできるところまで。できないことはできない。


「僕、ですか? いったい……」


 花と紅茶が合うことはシャルルも知っている。そういうものがあることも。だが、やったことはない。自信は正直、ない。


 まずは思考を共有させるアニー。ひっそりと耳打ち。


「実は——」


 紅茶の原産地。中国、スリランカ、そしてあの国。ここは有名なあの人物の出身国。


 こそばゆい吐息を耳で受けつつ、ひとつの答えを出したシャルルは、意を決する。


「……なるほど。たしかに。となると——」


 チラッと視線は今日の対象へ。怖い。ちょっとだけ、いや、結構。すぐに逸らす。


 顔色を伺われたレティシア。奥歯を強く噛む。


「なにかしら?」


 許すとは心の中で決めた。しかし許してはいない。矛盾しているが、あぁほら、他の女とそんなに近づかないで。もしかして無意識にこのアニーという少女は近い距離感を保つ達人? 


 この突き刺さるような空気感。少年には少々鋭すぎる気もすると危惧したアニーが中間に入る。


「たぶん、ボクとシャルルさんの意見は一致してるんスよ。とはいえボクは花には詳しいわけでもないのですが、なにか後ろめたいことがあるみたいっスねぇ」


 それがなんなのかはわからない。だが、ベルリンへの土産話にはなりそう。そんなことを考えてみる。


 難しい顔つきでシャルルは完成予想図を思考してみる。彩りのある紅茶。美しさもある。きっと気に入ってくれるはず。


「そういう、わけでもないんですけど……とりあえず向かってみましょう。購入は……また今度で」


 そう言うと、クリスティーナ・スタルクの花器を棚に戻す。欲しい、けどもうちょっとだけ待っててください。また今度、また今度購入させていただきます。そんなことを心の中で念じて謝罪。一旦店をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ