296話
ちょくちょく聞かれることのある、自身のその能力。とは言ってもアニーにも正しい解答が見つかっていないのも事実。
「うーん、言葉にすると難しいんスけどね。ボクも勘で動いてるだけっスから。そうっスねぇ……」
なので。わかりやすく実行してみることに。
「? なに? どういう……」
見えない糸に導かれるように、少女が自身の鼻先まで接近してくる。その様にレティシアは戸惑うのみ。一歩後ろに後退。
目を瞑り、アニーはさらに近づく。そしてゆっくりと呼吸。パッと大きく丸い瞳を開け直視する。
「レティシアさんに合う紅茶がわかりました。ふむふむっス」
そう、さも当然のことのように確信した。脳内はその紅茶のことでいっぱいになる。香りまでしてきた。
「……はい? 紅茶?」
今、なんと言った? レティシアの耳に届いたものが間違いでなければ、この子は自身に合う紅茶がわかった、と。いや、今なんで紅茶? 紅茶? なんで?
そういった混乱もアニーには慣れたもの。何度も説明してきたことでもある。
「はい、なんとなくなんですけど、ボクにはその人に合う紅茶がわかるんスよ。紅茶って癒されますから」
だから「なんで?」と聞かれても「そう思うからです」としか返せない。でも今のところは? 皆さんに喜ばれているし。問題ない問題ない。
百歩譲り、ひとまずそれを信じるとして。そうなるとレティシアはそれはそれで納得いかないことが。
「……私ってそんな疲れて見える?」
癒しが必要と思われているということは、そういうことなのだろう。自覚はない。それに今は楽しさのほうが勝っている。いや、いた、か。予定が変わりそうな雰囲気のせいで。
一緒に並べられたカップを手に取り、アニーは紅茶を淹れた際のイメージを作り出す。
「紅茶というものは、飲んで美味しい、だけじゃないんです。飲んだあと、どんな物語を感じるか。それが大事だと思うんです」




