291話
同じくひとつ、艶のあるシルバーカラーのそれをレティシアも手にして観察してみた。
「へぇ、なんだか面白い形ね。シャープペンの先みたい」
その言葉通り、先端部の金具を上向きにしたような形の花器となっており、色自体はホワイトとブラックのシンプルな二種類ゆえにインテリアとして非常に使いやすいもの。『BOTAN』というシリーズのものになる。
これを目当てに来た、というわけではないシャルルだが、いつかは手に入れたいという願望があった。呼吸の回数が増える。
「こういう、少し癖のある形がアレンジメントの幅を持たせてくれたりするんです。ブランドは——」
「クリスティーナ・スタルク。スウェーデンのデザイナーっスね。お目が高いっス」
その背後から女性の声。うんうん、という納得の頷きも追加。
……そろり、とシャルルは振り返る。不意打ちを喰らったようで、目をパチパチとさせて。
「……えーと?」
店員さん? 背筋が伸びた。
同様に驚いた様子でレティシアも顔を無言でそちらに向ける。
「……」
「ちなみにフラワーベース以外にも、様々なインテリアや食器なども手掛けている人なんです。『曲線と直線の調和』と彼女が語るように、なんとも言えない不思議な魅力に包まれています。いやー、全部欲しくなりますよねぇ。北欧。いい仕事してるっス」
聞かれてもいない情報をさらに付け足しつつ、満足げに女性は悦に浸る。このままいくらでも。自身の体を抱き寄せる。
その姿、頭のてっぺんからつま先まで捉えつつ、レティシアは問いかける。
「……どなた? その制服ってことは、モンフェルナの生徒ね」
自身と同じ服装。ということはつまり同じ学校に通っていて。だが見たことはない。スルスルっと間に入ってきた存在。口調などから悪い人ではなさそうだけれども。正面に向き合い、警戒はしておく。




