289話
正反対に年齢よりも幼く見えるシャルルは、あと少しで卒業する初等部の制服にまだ『着られている』状態。そんな彼は花のこと。それについて話す時、饒舌になる。
「南北アメリカや中南米が原産のキク科の花なんです。夏から秋にかけて咲くことから『百日草』とも呼ばれています。色々名前はありますが、花の名前が店名というのも嬉しいですよね、なんだか」
そして、そんな自分に気づいてなんだか恥ずかしくもなる。どこまで語っていいのか。わからないけども、語りすぎて変なやつに思われないか。身を強張らせる。
少年が嬉々として説明するので、聞いている側のレティシアも楽しくなってくる。
「そういうものかしら。ま、私からしたらなんでもいいのだけれど」
なぜなら。好きだから。彼のことが。混み合う街を、まるでランウェイかのように煌びやかに。
「……レティシアさんが花に興味がある、とおっしゃったから来ているわけで……」
なんだか身の危険を感じるシャルル。対照的に曇りがちな表情のまま進める足取りは、沼にハマったかのように重い。
たしかに興味はあるし、花のない生活は考えられない。フランス人だし。だがそれ以上にレティシアにとっては、この少年と一緒にいることこそが最重要なわけで。
「あるわよ。なんだかシルヴィもお父様のお手伝いをしていると聞いたし、私だけ除け者にされるのは我慢ならないでしょう?」
それ以外にもこんな理由でも。シルヴィがやるなら自分も。なんとなく対抗意識。女の勘だけど。あの子のほうが一歩、いや半馬身差くらい先に出ている。いや絶対。そんな匂いがする。
……その予感にシャルルは少々ドキッとする。だが、それは顔に出さないように。冷静冷静。
「でしょう、と言われても」
女性の勘は侮れない。ベアトリスの場合は女性というより姉の、なのだろうか。なんにせよ、常に注意していなければ。いや、なんでことに。腑に落ちない。




