281話
そのジトッとした視線を浴びながら、とりあえずまたサキナは照れ笑いで話題を逸らす。
「ま、ここは支店と本店みたいな関係だし。シャルルくんも〈クレ・ドゥ・パラディ〉に来てるじゃない? それそれ」
たしかに定期的にリオネルに学びには行っている。が、それとこれとは別だとシャルルはしっかり分けている。
「僕はあちらで働いているわけではないんですけど……」
血の繋がりはないのだろうが、サミーにはこの二人も姉弟のように見えてきた。
「はは、なにやら色々と複雑そうだね。でも、ただ単純に花としても素敵だ。このベースも。やっぱりここは刺激がもらえる」
家のどこに飾ろうか。そんなことを先走る。常に見える位置に置いておきたい。
「そいつはどーも。オーナーには『すごい頑張ってた』と伝えておいてください」
こうしてサキナは自分の株を上げていく。他人からの褒め言葉のほうが、より重みがあるだろうから。どれだけ自分で「頑張ってきました」と言っても、オーナーはきっと疑うしかしないだろう。やだねー、そういう大人にはなりたくない。
ひと段落したようで、気になっていたことがあるシャルルは、それの解決にも手をつけてみる。
「で、ところで姉さんはどこに行ったんですか?」
今日のようなことはたまにある。だが、詳しいことはベアトリスは教えてくれない。なので他の人に聞くしかない。姉がいなくなる時、この人が来ている気がする。
しかしサキナは首を傾げるリアクション。というのも、彼女にも正確にはわかっていない。友人ではあるが、知らないことだってそれはそれは多くある。
「さぁ? 私はケーキを食べに来ただけだからね。でもそういう時ってだいたい——」
「だいたい?」
その言葉の溜め方がシャルルには怪しさしか生まない。じっと見つめ、次の言葉を待つ。
たっぷりと時間を使って遊んだあと、心の中でドラムロールを鳴らしながらサキナは口を開く。
「ベアトリスのもうひとつの顔が見える時だと思うんだよねぇ」
ぬふふ、とまた新しい声。弟くんをおちょくるのは楽しい。こんな弟だったら欲しかった。
「……?」
姉もよくわからないが、それ以上にこの人物がよくわからない。シャルルは訝しんだまま、この場にいないベアトリスのことをちょっとだけ、心配してみた。




