280話
ん? と思い返すように視線を上に向けたサキナ。そういえばそんな遊びもやっていた。
「にひひ」
笑って誤魔化しておく。笑っておけばほら、それ以上怒りづらいでしょ? 逆?
そんなやり取りを横目にサミーは深く感嘆の息を吐く。
「しかし、まだ話も聞いてもらう前からそこまで考えていてくれたなんて。もし全然違う内容だったらどうするつもりだったんだろう」
もしかしてエスパーなのだろうかあの子は。言われてみれば、前回も推理してたし。合っているかどうかわからない、とは言われたけど、再考してみたらその推理通りでしかないように思えてきてしょうがなかった。
唇を突き出して「んー」とサキナはベアトリスの考えていたことを読んでみる。性格、行動力、その他諸々。そして結論。
「そんときはそんときですよ。なにもかもが全部うまくいくわけじゃない。そうなったらそんとき考えます。ただ、自分のできる限りの準備はしておく。それがフローリストですから」
というのでどうでしょう? あくまで勘でしかないけど。たぶん近いとは思う。
言葉は多少違えど、シャルルも似たようなところにたどり着く。大体一緒。
「仕事は百準備して、十使えるかどうか。そういうものだとリオネルさんからは教わりました。使用しないかもしれない、だけどもし、必要になったら——」
「その時のためだけに?」
スポーツなどでもプロは一試合に一度あるかないかのシチュエーションのために、繰り返して練習する。普段から、試合直前でも。だとしたら、フローリストもそうなのかとサミーはまた唸る。
だが、腕を組んでシャルルは目を瞑る。その状況に陥ったことは今までも何度もある。そんな時にやったこと。思い出す。
「うーん、どうでしょう。花屋って結構、他店舗でも結びつきが強かったりしますから。〈クレ・ドゥ・パラディ〉にもなかったら、近くの花屋に聞いてみたりしますし、その逆も。その結果がこうなんですけど」
その結果。近くの花屋から勝手に働きに来た人間が今、ここにいるわけで。こういったことは流石にそうない。あってたまるか。




