279話
CAM型の場合、昼に気孔を閉じて水分の損失を最小限に留めることで、過酷な環境でも生き抜いてきた。とはいえ、こうした植物は光合成がある程度制限されてしまうため、成長も非常に遅い、という点もある。
サボテンなどの多肉植物や、パイナップルのようなアナナス科がこれに該当するが、胡蝶蘭も実はこれに該当することはあまり知られていない。長持ちする、という根拠はここにある。
ほほう、と唸りながらサミーは差し出された胡蝶蘭に顔を近づけてみる。
「なるほど。昼と夜で見せる顔が違う。まさに蝶と蛾だね。とすると、私にとって昼と夜は——」
「映画監督として。そして愛妻家として。一輪というのも、誰かと競うよりも自分の信じた道を行くってことで。ま、誰でも色んな顔は持ってるんだけどねー」
まさにこれは彼の生き方を示す花。サキナも頷いてひとり得心した。なのでヒョイっと一輪の胡蝶蘭を取り上げると、さっとベースに挿して終わり。これはこれでいい。
一応の完成となったアレンジメント。鼻息荒くサミーはテーブルの上に置かれたそれを視界に入れる。
「……すごいね。うん、すごい。とてもいい。ありがとう」
こんなにシンプルで。たぶんそれなりに安価で。ベースは高いのかな? わからないけど、それは映画にも通じるようで。超大作、じゃなくても面白いものは面白い。それを再確認できる。この花を通じて。忘れないようにしよう。
当然の如く、上手くいったらしい。が、サキナとしては特になにかやったという達成感はない。というのも。
「ま、お礼はベアトリスに言っといてくださいな。私は用意してあったものから推理しただけだから。仕事は準備が九割、でしょ?」
付き合いが長いので、なんとなくは考えが読める。だいたいこんな感じでいいんでしょ? 違う? 知らん知らん。
「もう完全にサキナさんになってますね」
発言からシャルルも認識したが、もう姉であることをこの人はやめたらしい。こうなると思った。自分から言い出したことも、飽きたらすぐになかったことにする。やっぱり姉に似ている。




