275話
そうこうしているうちに、どうアレンジメントするかを決めたサキナが一式をテーブルに置く。だが——。
「はいはい、それじゃ準備できましたよ。これ探すのに手間取りましたけど」
用意されたもの。それは、チェスの駒ほどのサイズと形をした、ガラスの花器。透明度が高く、小さいながらも芸術品。
「これは——」
それはシャルルですら、店にあることを知らなかったフラワーベース。見たことはある。聞いたこともある。だが、実物があるとは思ってもいなかった。
デンマーク王室御用達、北欧ブランド『ホルムガード』。そのオルドイングリッシュシリーズ。ガーデニングの専門家であり、花の芸術家でもあるクラウス・ダルビーとで共同開発された、いわゆる『ソリティアベース』と呼ばれる一輪専用の花器である。
完全ハンドメイドであり、若干の個体差が存在するが、それこそがこのブランドの魅力でもある。どんな空間にも溶け込む、シンプルかつ気品のある職人の逸品。
ということはつまり、必然的に選ばれる花も一輪なわけで。イメージと違ったサミーは眉を顰める。
「……これだけ? オーキッドっていったらこう——」
「大袈裟でデカデカと場所を取る感じ、ってことですか? 変わりませんて、たくさん使おうが一輪だろうが」
伝えたいことが伝わればいい。それがサキナの根底にあるもの。なので今回はこれだけ。シンプルだし、ごちゃごちゃとするよりもだいぶ好き。
しかしシャルルとしてはその口調に違和感を覚える。
「もう姉さんの代わりってこと忘れてますね……」
そういう設定だったはず。もう触れなくてもいいのかもしれない。
そういえば、とサキナも目を丸くする。が。
「いいからいいから。細かいこと気にしてたら大人になれないよ」
すぐに切り替え。きっと向こうも私らしく、なんて喋っていないだろうし。でもちょっと見てみたいかも。明るく振る舞うベアトリス。




